第199話 最終日


「ええ、マジかよ!? 明日から1月も休みになるのか!」


「うわっ、知らなかったよ!」


「申し訳ございません。実は今の店舗だと少し手狭になってきたので、新しく大きな店舗へ引っ越す予定なんですよ」


 いつも店に来てくれている常連の2人組の冒険者が、明日からこの店が1月休みになることを知って驚いている。


「おお、それはめでたいな! まあ、この店は人気だから、当然と言えば当然か」


「おめでとうな、テツヤさん。新しい店舗になっても通わせてもらうからな」


「ありがとうございます」


「それにしても明日からか……先週はオフにしていたから全然知らなかったぜ」


 アウトドアショップが1月休みになることは先週から店内と冒険者ギルドで告知をしていたのだが、どうやら2人は先週休みで知らなかったらしい。


 先週ベルナさんとフェリーさんに王都までの護衛の依頼を正式に受けてもらい、3日後から王都へ向けて出発する予定だ。ちなみにようかんやチョコレートバーを前よりも多く渡すかは保留にしてある。


「ええ。ですので、今週は商品の販売個数制限をいつのも倍にしています。一部の商品は冒険者ギルドでも販売する予定ですので、そちらもご利用ください」


「おっ、マジか! そうだよな、1月もこの店が閉まるなら、いろいろと買いだめをしておかないと!」


「やべっ、アウトドアスパイスはあとどれくらいあったかな? あとはインスタントスープとチョコレートバーも多めに買っておかないといけないぞ」


「それにレトルトカレーも欲しいぞ。こうしちゃいられない、一度帰って必要なものを確認してもう一度来ようぜ!」


「おう、善は急げだ! テツヤさん、またすぐに来るぜ!」


「はい、よろしくお願いします」


 2人の常連冒険者は慌てた様子で店をあとにした。これから1月の間この店は空いてないから、いろいろと買いだめておく必要があるのだろう。今日はそういうお客さんも多いから、いつもよりだいぶ混んでいて大忙しだ。


 ちなみにうちの店が一月休みの分、冒険者の生存率が上がる方位磁石と浄水器は十分な量を冒険者ギルドへ置いてきたから大丈夫だろう。




「「「ありがとうございました」」」


 バタンッ


 無事に今日のアウトドアショップの営業が終了した。明日からは一月の間この店を閉めることになる。


「いやあ~さすがに今日は疲れたね……」


「今日はとっても疲れたね、ランジェお兄ちゃん!」


「みんなお疲れさま。閉店作業の前にちょっと休憩しよう。さすがに駆け込みでお客さんも多かったし、今日は疲れたね」


「ここまで忙しいのはこの店が始まって以来かもしれないな。新商品発売の時も大勢のお客様が来てくれたが、それよりも多かったかもしれない」


「そうだね、リリア。たぶんこれまでで一番忙しかったと思うよ。ランジェさんもいてくれて本当に助かったね」


 普段は店を閉めたあと、すぐにみんなで閉店作業と明日の開店作業を終わらせてから一息休憩をするのだが、さすがに今日は疲れたからまずは店の2階の居間スペースでちょっと休憩だ。


 明日からはしばらく休みだから、開店作業の必要はないもんな。それにしても今日は過去一でお客さんが来てくれた気がするぞ。


「たくさんのお客さんが駆け込みでいろいろと買いだめていましたね。お客様の数も普段より多くて、買う量も多かったので忙しかったです」


「ああ、アンジュの言う通りだな。少し前から告知してあったのに、最終日だけだいぶ忙しかったよ」


「冒険者はいろいろと後回しにすることが多いからな。大方最終日の今日に来ればいいと思っている冒険者が多くいたのだろう」


 ドルファの言う通り、どうやら冒険者たちは時間にだいぶルーズらしい。


「何にせよこれでしばらくお店の方は休みになるからね。ひとまずみんなお疲れさま」


 とりあえずこれでひと段落だ。明日と明後日はのんびりと過ごして王都へ向かう予定になっている。そして王都からアレフレアの街に戻ってくる頃には新店舗が完成している予定だ。


 新店舗ができたらとても忙しくなりそうだし、今のうちにのんびりと過ごすことにしよう。以前に一度長期的な休みを取ったことはあったが、一月お店を休むのは初めての経験だし、久々に羽を伸ばすとしよう。


 ちなみにこの一月の間の従業員の給料はちゃんと払うからな。そして当然ながら、新しいお店へ代わる際に給料もアップだ。うちはとてもホワイトな店なのである。

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