第198話 お願い
新しい店の土地を探し始めて1週間が経ち、お隣さんの不動産屋を経営しているブライモンさんとマドレットさんのおかげで無事に土地が見つかって、グレゴさん達の工房による建築作業が始まっている。
この世界には魔法があるので、今の店の3倍ほどある店舗ですら2~3か月で建てられるそうだ。元の世界の建設会社もびっくりのスピードだな。
「まあ、新しいお店に移転するのですね」
「確かにもうこの店だと少し手狭かもしれない」
「ええ。幸い土地の方も見つかって、すでにお店の建築も始まっていますよ」
そして今日の営業が無事に終わったところで、いつも定期的に王都や他の街にアウトドアショップの商品を卸してもらっているAランク冒険者であるベルナさんとフェリーさんがやってきている。
「それで、もう少ししたらしばらくこの店を閉めて一度王都へ行こうと思っているんですけれど、その際にまたベルナさんとフェリーさんに護衛をお願いすることはできますか?」
新しい店舗ができるまでの2~3か月の間に1〜2か月ほど今あるお店を閉めて、王都の冒険者ギルドと例の王族へ挨拶に行こうと考えている。
そもそも新しい店舗へ移転するための大金は王都の冒険者ギルドから頂いたものだ。方位磁石が無事に完成したようだし、一度挨拶へ行かないとな。
そして王族からのドライシャンプーを卸してほしいという依頼を引き受けたが、その件についても一度王族には挨拶に行かないといけない。……こっちの方は正直に言って気が進まないんだよ。王族に挨拶とかって本気で嫌だよな。
「ええ、もちろん大丈夫ですわ!」
「テツヤとリリアの依頼は最優先で引き受ける」
「ありがとうございます」
「ベルナ、フェリー、いつもすまないな」
リリアと一緒に二人へお礼を伝える。今回もせっかくなら店の従業員と一緒に王都へ行きたいので、馬車と護衛を頼むつもりだ。それなら前回と同様にベルナさんとフェリーさんに護衛をお願いしたい。
2人なら俺のアウトドアショップの能力のことについても知っているし、従業員のみんなも知っているから道中も楽しいだろう。
「それでは後ほど冒険者ギルドを通して正式に依頼させていただきますね」
今回の王都までの移動費と滞在費は王都の冒険者ギルドと国が支払ってくれる。冒険者ギルドからはあれだけの大金を貰ったので、今回はこちら側で支払うと伝えたのだが、王族からの依頼を引き受けることもあって支払ってくれることになった。
「ええ、承知しましたわ。それでテツヤさん、実はひとつお願いがあるのですが……」
「お願いがある」
「はい、なんでしょうか?」
ベルナさんとフェリーさんからお願いとはなんだろう? 普段から2人にはお世話になっているし、俺にできることなら力になってあげたいところだが……
「実はいつもいただいているチョコレートバーやようかんなどのお菓子をもう少しいただけるととても嬉しいのですが……」
「あとゼリー飲料とお餅もいっぱいほしい!」
「「………………」」
うん、少し予想はしていたけれど、そういうお願いだったか。
「一応前回は前よりも多くしたんですけれど、あれでも足りなそうですか?」
もともとベルナさんとフェリーさんにはこのお店の商品を他の街や王都へ運んでもらうお礼として、アウトドアショップで購入した様々な商品を渡していた。そして前回は前々回よりも多めに渡したのだが、それでも足りなかったのだろうか。
「そ、そうですね。以前よりもたくさん頂いたのですが……」
「つ、つい止まらなくなった……」
「「………………」」
どうやらベルナさんとフェリーさんはあまり自制ができるタイプではないらしい。まあ、おいしい料理やお菓子なんかの手が止まらなくなることは分かるけれど。
「いつもより多く渡すこと自体は全然構わないんですけれど、これらのお菓子は結構太りやすい食べ物なんです。おふたりとも冒険者なので身体をかなり動かすとは思いますが、本当に大丈夫ですか?」
そもそもようかんとかチョコレートバーは補給食だから、普通のお菓子なんかよりもカロリーが高いんだよな。この世界の人にカロリーとかを説明しても難しい気もする。
この街の冒険者にとってはそこそこの値段がするから、さすがに毎日嗜好品として食べたりすることはないけれど、ベルナさんとフェリーさんは下手をしたら1日にたくさん食べているかもしれない。
「ええ~と、言われてみると確かに最近お腹の辺りが少し気になるかもしれません……」
そう言いながら自分のお腹をさするベルナさん。お菓子の他にも燻製した肉や揚げ物なんかも一緒に渡しているから、やはりカロリー的には大丈夫だったか。
「魔法を使うとお腹も空くから私は大丈夫。ほら」
「お、おい! はしたないぞ、フェリー!?」
そう言いながらひょいと自分のシャツをめくるフェリーさんとそれを窘めながら、それを隠そうとするリリア。
……一瞬だけだが、エルフ特有の真っ白な肌で、ほっそりとしたフェリーさんの可愛らしいお腹がおへそまで見えてしまった。一瞬だけでもドキッとしてしまったのは仕方がないことだよな、うん。
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