第196話 了承
「……やっぱりこの話は受けた方がいいですよね?」
「そうだな、さすがに相手が王族だと俺やルハイルではどうにもならねえ。冒険者ギルドにも多少の権限はあるが、王族が本気を出せばそんなものは関係ねえからな」
「もしテツヤさんが可能でしたら、このお話は受けていただいた方が良いかと思われます。この国の国王様や王族の皆様はとても国民想いの方々ですので、仮に断られても大事にはならないとは思いますが……」
ライザックさんやパトリスさんの言う通り、王制を取っているこの国の王族の要望を無視するわけにはいかないか。
それにこの国で暮らし始めてからしばらく経ったが、この国の王族の悪い噂は聞いていない。むしろ税も他の国よりも少ないらしく、国民のことをしっかりと考えているという印象だ。
そして今回の要請も王族の権限を使えばどうとでもなるというのに、王都の冒険者ギルドとこの街の冒険者ギルドを通して正式に話を持ってきている。製法や仕入れ先などを強制的に聞き出すこともできそうなものだが、それもしてこない。
……まあ、製法については俺も知らないから、秘密の場所から仕入れていると答えることしかできないけれどな。
「テ、テツヤ。どうするんだ?」
リリアが心配そうに聞いてくる。元Bランク冒険者のリリアから見ても、やはり王族の権限というものはとんでもないものなのだろう。
「今のところは一定量のドライシャンプーを王都へ販売するだけでいいんですよね? 量にもよりますが、それなら受けてみようと思います。一度詳しいお話をさせていただくことは可能ですか?」
基本的には冒険者ギルド以外にうちの店の商品を卸すつもりはなかったけれど、さすがに王族となると話は別になる。どうやら王族の人たちは話の通じる人たちみたいだし、ここは身を守るためにもドライシャンプーだけは王族へ卸すしかなさそうだ。
もちろんドライシャンプーだけでなく、店の権限をすべて寄こせとか無茶苦茶なことを言われたらいろいろと考えるけれどな。
「おう、もちろん大丈夫だ。冒険者ギルドが間に入る以上、そこまで無理なことは言わせねえつもりだぜ! ……多分な」
「ええ。私どももできる限りのことはさせていただきます」
「「………………」」
冒険者ギルドマスターのライザックさんがここまで弱気なところは初めて見た。やっぱりこの国の王族だもんなあ……
俺もやりたくはないけれど、この国を出て別の国で店を開くという選択肢がある以上、この国の王族もそこまで無茶を言わないと思うが、それについて確証はないから少し怖いところだ。
もちろん王族とのつながりができれば、それはうちの店にとっても有用なことでもあるが、どちらかというとそちらのリスクの方が高い気もする。
やはり俺にとっては微妙な話だったか。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「いろいろとあってお金についての心配はなくなったので、新しいお店は注文住宅とすることに決めました。ですので、この辺りでこれくらいの大きさの土地がある場所を探していただければと思います」
「ええ、承知しました、テツヤさん」
「ふむ、空いている土地を探すだけならすぐに見つかるだろう」
冒険者ギルドから2つの話を受けた翌日、改めてお隣さんの不動産屋であるマドレットさんとブライモンさんご夫婦の家を訪れている。
昨日の良い話の方、王都で方位磁石が完成したことによる報酬のおかげでかなりの大金を得ることができた。そのため、お金が掛かるから諦めていた注文住宅にて新規店舗を建てることが可能になったわけだ。
どちらにせよリリアの右腕を治すための完全回復薬を購入する資金にはまだ足りないし、今回の店舗は一生の物になる可能性が十分にあり妥協はしたくないため、まずは店を優先することにした。
さすがに大勢のお客さんや従業員にも関係がある店舗より完全回復薬を優先したとなると、リリアも良い気はしないもんね。
「あとはブライモンさんのところで注文住宅を受けていたりするんですか?」
土地を購入するのに加えて上物の建物を新規で建てるため、それについても頼まなければならない。ベランダや風呂など、個人的な要望はいろいろとあるからな。
「いや、うちの店では土地の売買と住宅や店舗の賃貸だけだな」
「新規の住宅でしたらたぶんこの街の工房でも受け付けておりますよ。確かテツヤさんはグレゴ工房と方と仲が良かったですよね?」
「あっ、そうなんですね。グレゴさんとは仲良くさせてもらっているので、一度話を聞いてみます」
どうやら武器や防具を扱っている工房で建物の建築も受けているらしい。グレゴさんにだったら、気軽にいろいろなことを相談できるからとてもありがたい。この後工房を訪れてみることにしよう。
王都へドライシャンプーを卸すという話についてはライザックさんを通して話を進めてもらっている。王都の冒険者ギルドへは方位磁石や浄水器を卸しているから、それと一緒にドライシャンプーも運べばいい。
どちらにせよ新規の店舗が決まり次第、暫くの間は店を閉めて王都へ行こうと思っていたところだし、その際に一度王族の方に挨拶へ行くことになりそうだ。
気は進まないが、今後とも良好な関係を築くためにも仕方がないことだからな。
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