第195話 微妙な話

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「いえ、それにしてもさすがに3000枚は……」


「いえ、私もそれほどの価値はあるとも思いますよ。本当にこれは素晴らしい発明ですからね」


「ああ。それに金貨3000枚なんて王都にいる冒険者たちにとってはそこまで大した金額じゃないから気にすんな。王都の高ランク冒険者なら、それくらいの金額なんて稼げるし、それを相手にしている冒険者ギルドならなおさらだ。あと、テツヤが受け取らなかったら、俺たちの方が困るぞ」


「……分かりました。それではありがたくいただきます」


 パトリスさんの言う通り、前世でも方位磁石というか羅針盤は世界三大発明に入るくらいの代物だから、それくらいの価値はあるのかもしれない。それにどうやら王都の高ランク冒険者にとって金貨3000枚はそこまで莫大過ぎる金額ではないようだ。


 ……道理でAランク冒険者のベルナさんとフェリーさんたちはいつも全然お金を気にしないわけだよ。まあ、高ランク冒険者になると危険な依頼もあるわけだから、その分依頼料や魔物の素材なんかも高額になるわけか。


 いろいろと思うところはあるが、ちょうど店の移転でお金が入用だったからありがたくいただくとしよう。逆にここでいりませんと断って、頂いた金貨を王都へ送り返してもあれだからな。王都へ行った際には改めてお礼を伝えるとしよう。


「さて、それじゃあもうひとつの話の方だな」


「はい」


 確かもうひとつの話は微妙な話と言っていたな。


 ……というか微妙ってどういうことだ?


「実はですね、アウトドアショップで先日発売されたドライシャンプーについてなのですが……」


「ドライシャンプーですか?」


 ドライシャンプーは2週間ほど前からアウトドアショップで売り出した商品だ。冒険者は長時間活動していることが多いから、水も必要とせずに頭をサッパリとできるので、特に女性冒険者に結構な人気が出ている。


 そして冒険者からの要望があって、無香料のドライシャンプーの販売も始めた。冒険者活動をしている際は爽やかな香りによって魔物に位置が気付かれてしまうらしいからな。


 今では冒険者たちが無香料のドライシャンプー、一般の女性たちが化粧品としていい香りのするドライシャンプーを購入してくれている。ドライシャンプーは髪の脂を吸ってくれて髪がサラサラになるから、化粧品代わりにも使えるようだ。


 あとドライシャンプーを毎日使用するのは良くなかったかもしれないから、数日に一度くらいの使用で、いつも通りちゃんと髪は水やお湯で流すように説明書きを添えておいた。


「ああ、実はテツヤのところのドライシャンプーを定期的に一定量を卸したいという話が出てきてな……」


「なるほど。それでしたら、いつも通りお断りしておいてください」


 アウトドアショップで販売している商品は他の店に卸す気はない。これまでもいくつかの大きな商店や貴族なんかからそういった話も出てきたが、すべて断ってきた。


 冒険者達の生存率を上げることができる方位磁石や浄水器や携帯食料なんかは冒険者ギルドを通して販売しているが、その他のキャンプギアなんかはこの街のうちの店だけで販売するようにしている。


 今ではうちの店は冒険者ギルドの協力店に登録されているので、面倒な商人や貴族なんかが直接うちの店に来ることはなくなった。


「「………………」」


 なぜかバツの悪そうな顔をして、ライザックさんとパトリスさんが顔を見合わせている。なんだろう、ちょっと嫌な予感がする。


「……テツヤさんから言われているように、これまでは商店や貴族からのそういったお話は全て断っているのですが、実は今回話を持ってきたのはこの国の王族の方なのです」


「えっ、王族ですか!?」


「そ、それはかなりすごいことではないのか!?」


「ああ。王都の冒険者ギルドを通してうちの冒険者ギルドへ正式に連絡が来ている。リリアの言う通り、普通の店なら王族からそんな話が来たら飛び上がるほど喜ぶことだろうが、テツヤはそうじゃないんだろ?」


「……ええ、そうですね」


 もちろんお金を稼いだり名誉を得る目的なら、店で販売している商品が王族に認められるのはとても素晴らしいことだが、俺の場合はそれよりもあまり目立たずにのんびりとした生活を送りたいのだ。


 あんまり大きく派手に商売をして忙しくなりすぎたり、同業者や大きな商店とのいざこざなんてまっぴらごめんである。


「というか、ドライシャンプーを販売してからまだ2週間しか経っていないのに、もう試されたんですか?」


「どうやら以前よりアウトドアショップに目を付けられていたようですよ。テツヤさんのお店で何か新商品が発売されたら、すぐに確認をされていたようです。今回のドライシャンプーはとても素晴らしい商品だったので、真っ先に声を掛けられたのでしょうね」


 マジか……


 おそらくは王族の女性が化粧品として使用したいのだろう。王族とつながりを作りたいと思う気持ちもあるけれど、どちらかというと面倒ごとに巻き込まれたくないという方が本音なのだが……

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