第191話 技術の結晶


「必要な素材なんかがあれば、いつでも冒険者ギルドに言ってくれよ。すぐに冒険者に依頼を出して手に入れてみせるぜ! 難しい素材だったら俺が行ってやるからな!」


「ギルドマスターは別の仕事があるでしょうに……」


 冒険者ギルドマスターのライザックさんが自信満々にそう言うが、すぐにパトリスさんが窘める。


「ですが、大丈夫ですよ。もしもこの街の冒険者では難しい素材だったり、遠い場所で取れる素材であれば他の街の冒険者ギルドに協力を求めますから」


「ええ、とても頼りにしていますよ」


 今回の新しいキャンプギアの開発は冒険者ギルドとの共同開発ということになる。冒険者ギルドを挟まずにうちの店だけで開発するのも悪くないが、どちらにせよ素材の確保については冒険者ギルドの協力がいるからな。


 それにうちの店だけでやるよりも冒険者ギルドを挟んだ方が、このアレフレアの街だけでなく、多くの街へ商品を届けることができる。利益の一部は冒険者ギルドへ支払うことになるが、結果的にはそっちの方が儲けも大きいはずだ。


 うん、店も大きくすることだし、今後はちゃんと収益のことも考えていかないといけないもんな。


「ふ~む、それにしてもこちらのテーブルやチェアも金属部分は面白い構造をしておるな。ほう、こうやって動かすとうまく畳めるのか」


「ええ、面白いですよね。あっ、他にも参考になりそうな別のタイプのテントやテーブルやチェアも置いていきますね」


 ライザックさんにお願いして一緒に持ってきてもらった別のキャンプギアも出して組み立てる。それぞれは1~2キロのキャンプギアもこれだけあれば結構な重さになるから、俺ひとりでは持てなかったんだよ……


 リリアの方が力は強いのが分かっているけれど、そこは俺の男としての意地で頑張って持ってきた。まあ、途中でライザックさんの力は借りたけれどな。


「こんなに小さくできるのはおもしれえよな」


「ここの仕掛けなんて面白いですよね」


「こっちのやつもすごく便利だぞ。現役時代にこれらの道具があればだいぶ楽だっただろうな」


 最近のテーブルやチェアはそれぞれ構造が違ったりするからな。元の世界のアウトドアメーカーの技術の結晶だから、職人でないライザックさん、パトリスさん、リリアも興味津々だ。


 リリアも元は冒険者だから、女性だけれどこういうのは好きなのだろう。当然俺も最新のキャンプギアをお店で見るのは大好きだ。


 そんな感じでグレゴさんにキャンプギアの作成をお願いした。


 元の世界でも新商品の開発には時間が掛かっていたはずだからな。こちらの方は気長に待つとしよう。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ブライモンさん、マドレットさん、いらっしゃいますか?」


「あらあら、テツヤさんにリリアさん。どうぞ上がってください。あなた~テツヤさんとリリアさんよ」


「おう、今行くぞ」


「それでは失礼します」


「お邪魔します」


 鍛冶屋のグレゴさんにキャンプギアの開発をお願いした数日後、アウトドアショップの営業が終わった後にリリアと一緒に、アウトドアショップの店のお隣さんであるブライモンさんとマドレットさんの家を訪れに来た。


 おふたりは60代くらいのご夫婦で、俺たちが隣の店にアウトドアショップを開く前からここに店を構えている。


「こちらはいつものですみませんが、ようかんとお餅です」


「いつもありがとうな。うちで漬けた漬物があるから、帰りに持って行ってくれ」


「こちらこそいつもありがとうございます。あの野菜の漬物は本当においしいですよね」


「ああ。特に白いご飯と本当に合って、いつも以上にご飯が進んでしまうからな」


 お隣さんとの関係は良好で、たまに漬物を差し入れでもらったりするのだ。それがアルファ米の白いご飯によく合うんだよね。


 俺の方もお返しにようかんやチョコレートバーなんかを持っていくと、とても喜んでくれている。王都から帰ってきた時にもらったレッドバジリスクの肉の燻製なんかも少しだけだがおすそ分けした。


 こういった日ごろのご近所付き合いは大事である。特にうちの店はお客さんが結構来て並んでくれるから、両隣のお隣さんに迷惑を掛けてしまうこともある。もちろんその辺りはしっかりと配慮しているつもりだが、駆け出し冒険者の中にはゴミをそこらへんにポイ捨てするマナーの悪いやつもいるからな……


「気に入っていただけて良かったです。いつもおいしいお菓子やお土産なんかをありがとうございます。うちの人はこのようかんが大好物なんですよ」


「ええ、いつもご贔屓にしていただいて嬉しいです」


 ブライモンさんはようかんをとても気に入ってくれたようで、たまにお店に来てようかんを買っていってくれる。


「ああ、この前教えてもらったおしるこというものもうまかった。ようかんを温めて溶かすとあんな味になるとはな」


「おしるこも気に入ってもらえてよかったです。実は今日はおふたりにお願いがあってきました」


 そう、実はこちらのご夫婦は不動産屋を経営している。アウトドアショップの新しい店舗について相談にやってきたというわけだ。

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