第190話 テント


 いろいろと考えて、従業員のみんなやライザックさんとパトリスさんに相談し、これからはいくつかのキャンプギアをグレゴさんたちこちらの世界の人たちに作ってもらおうと考えている。


 いくつか理由はあるが、一番の理由は仕入れにかんしてだ。現在の店の規模ならば、ランジェさんの収納魔法によって商品を仕入れているで通るかもしれないが、店の規模を大きくするならば、さすがにひとりの収納魔法で全部を仕入れると言う言い訳は少し厳しい。


 それならば一部の商品はこちらの世界の素材を使用して、こちらの世界で作ってしまえばよいのではないかと考えたわけである。そういうわけで特に大きくてこちらでも作ることが可能そうなテントやテーブルやチェアなどのキャンプギアを選んでみた。


「おそらく金属製の部分は可能だと思うんですけれど、こちらの布の部分が一番の課題なんですよね」


 そしてもうひとつの理由がテントなどに使用されている素材である。一般的なテントはポリエステルやナイロンなどの化学繊維で作られているため、プラスチックなどと同様自然に分解されてくれないのだ。


 元の世界でのプラスチックごみなんかは海や山なんかで何百年も残ってしまうというのは有名な話だ。まあ、そこまで気にする必要はないのかもしれないが、自然を汚さないに越したことはないからな。


「……ふ~む。こちらポールは面白い仕組みをしておるな。なるほど伸縮する素材のもので、金属製の部分を引っ張りつつ、はめ込むことができるようになっているのか。確かにこれなら再現はできるであろう」


 グレゴさんは建てたテントのポール部分を検分していく。やはり元の世界のテントは職人心をくすぐるみたいだ。


「こちらの布は何でできておるのか分からんな。ほう、丈夫なうえにしかも軽いとは素晴らしい! 確かにこれなら支えとなるポール部分がそこまで強固な金属でなくとも自立できるわけだな。ほう、中の部分は通気性がよく、軽い布でできており、外側の部分は丈夫な布でできているようだ」


「俺の世界では暑い時にはこの内側のインナーテントだけで過ごしたりすることもできました。それに外側部分のフライシートを上からかけることで、寒い時期にはより温かく過ごせるようになるんです。とはいえ、まずは外側部分の一枚だけ作ってみて良いと思います」


 こちらの世界では地域によってかなり温度差があるらしい。この辺りは比較的暖かいほうだから、最初はフライシートのみのテントで十分だろう。昔のテントはそもそも一重の構造だったらしいしな。


 この素材を使用したテントができて、余裕があれば軽いでできたインナーテントも含めた二重のテントを作ってみてもいいかもしれない。


「軽くて丈夫な上に水を通さないので、雨にも強いんですよね。もしもこれに近い素材があればとても助かるのですが」


 こちらの世界にも防水性の素材なんかはあるから、自然に優しい素材で元の世界の化学繊維に近いような布を作れるのではないかと思っている。グレゴさんに作ってもらったようかんやレトルトカレーを入れている保存パックもこちらの素材でできているわけだしな。


 これがうまくできれば、今うちの店で販売しているブルーシートもその素材で作って販売することができる。一応破れたブルーシートは店で買い取るようにしているが、自然に優しい素材で制作することができそうならそうしたいところだ。


「ふ~む、もしかすると保存パックの素材を加工すれば、そのままこれに近いものが作れるかもしれんな」


「おお、本当ですか!」


 確かにあの保存パックはレトルトカレーを入れてもこぼれないから完全に水を通さない上にそこそこ丈夫だ。それにグレゴさんは保存パックを作るまでに様々な加工をしてきたから、その素材の加工方法には相当詳しいだろう。


「素材については冒険者ギルドから調達することも可能だぜ。これらの道具は駆け出し冒険者の役に立つからな」


「ええ。冒険者ギルドの方でも全面的にバックアップしますので、何か必要な素材などがあればお申し付けください」


 冒険者ギルドのライザックさんとパトリスさんにも一緒に来てもらったのはそういうわけである。必要な素材なんかの確保や人手が足りない場合には冒険者ギルドの協力を仰ぐ。


 これらのキャンプギアは冒険者の役に立ってくれる。冒険者が持つ道具は軽くて丈夫なものの方が良いに決まっているからな。


 ライザックさんとパトリスさんにこのことを相談したら、快く協力してくれることになった。


「ほう、冒険者ギルドが協力してくれるのであればとても助かるな。こっちのテーブルやチェアも面白い構造をしておる。別の世界とやらという技術も非常に興味深い。この依頼、ありがたく受けさせてもらうとしよう」


「ありがとうございます!」


 よし! どうやらグレゴさんの協力を得られそうで何よりだ。グレゴさんとは俺がこの世界にやってきてから付き合いも長いし、俺の秘密を話しても問題ないと判断した。うまくテントやテーブルやチェアが再現できるといいな。

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