第185話 高級なお酒


「へえ~このお酒は酒精が強いけれどおいしいですね」


「うん、独特な香りがするけれど、とってもおいしいよ!」


「ああ、こいつは癖になりそうな味だ」


「ほう、分かっておるじゃないか。こいつはドワーフ御用達の酒でな、この街には売ってない代物だ。他の街から取り寄せて、ここぞという時に飲む用にしているのだ」


 グレゴさんからもらったお酒をみんなで飲んでいる。このお酒は白くて少し濁ったお酒で酒精が他のエールやワインよりも少し高い。だけど酒精が高いわりに少し甘口なので飲みやすい。


 独特な香りがするから、駄目な人は駄目な味のような気もするが、俺もランジェさんもドルファも大丈夫そうだ。


 お酒が飲めない組はデザートをこれでもかと楽しんでいる。酒が飲める人はこっちに集まってゆっくりと肉を焼きつつ酒を味わっていた。


「こいつはうめえな! あとでどこから取り寄せているか教えてもらいたいもんだぜ!」


「ああ、もちろん構わないぞ。ライザック殿が持ってきてくれたエールも普通のものよりうまいものだ。それに氷魔法で少し冷やした方がうまいと言うのは初めて知ったぞ!」


「まあ、氷魔法を使えるやつはあんまいねえからな。それを酒に使うとはランジェは贅沢なやつだ。それにしても普段テツヤ達には世話になっているから、このエールや果実のジュースも別の街から取り寄せた最高級品なんだが、まさかこんなうまい肉にありつけるとは思わなかったぜ……」


 冒険者ギルドのライザックさんとパトリスからいただいたエールや果実のジュースもアレフレアの街で売っている物よりもおいしいと思ったら、他の街から取り寄せた高級品らしい。


 そもそも魔法を使える人が少ないし、ライザックさんの言う通りエールやジュースを氷魔法で冷やして飲むのは贅沢な味だ。


「お肉はベルナさん達からいただいたものですからね。あまりにも量が多かったので、おふたりにお願いしてみんなで楽しませてもらいました」


「ちょうどたくさん手に入ったので、皆さんで楽しんでもらえてよかったですわ。ライザックさんのお酒もグレゴさんのお酒もとてもおいしいですし、こちらのお肉にもよく合いますね!」


 そう言いながら、焼いたドラゴンの肉やローストドラゴンの肉を美味しそうに食べながら、お酒を飲んでいくベルナさん。


 ……うちの店でご飯を食べていた時にはあんまりお酒を飲んでいなかったが、今日はだいぶ飲んでいるみたいだ。たぶんドワーフのグレゴさんと同じくらい飲んでいる気がするぞ。意外とベルナさんはのんべえなのかもしれない。


「気に入ってくれたなら良かったぜ! ……それにしても、ベルナとフェリーが持ってきてくれた肉の味は少し覚えがあるな。まあ俺の予想通りなら、確かに他のやつには言わねえほうがいいだろう」


 おっと、どうやらライザックさんはこの肉が何の肉なのか分かるらしい。ライザックさんも元Aランク冒険者だから、もしかしたらアースドラゴンの肉を食べたことがあるのかもしれない。


「そうですね。世の中には知らなくていいこともありますよ」


 うん、俺もこのアースドラゴンの肉がいくらするのかは正直に言って知りたくない。しかも王都の価格だと、物価がこのアレフレアの街数倍するから余計に知りたくないのである。


「肉自体の味もうめえが、こっちの味付けや調理方法は初めてみたぜ。それに以前からテツヤとは一緒に飲みたいと思っていたところだからちょうど良かったな」


「ええ、俺もそう思っていたところです。それにこういった場所へ来て大勢で飲むお酒はこれまた格別ですよね」


 ライザックさんとも長い付き合いだが、ライザックさんは冒険者ギルドマスターということもあり、俺も小さいながらお店の店長ということでなかなか時間が合わなかった。こうやってじっくりと酒を飲むことは初めてのことになる。


 店の従業員だとドルファとランジェさんしかお酒を飲まないから、一緒に飲んだとしても数杯くらいだ。たまにはこうやって大勢と一緒にたくさん酒を楽しむのも悪くないな。


「うまい酒にうまい肉、今日は誘ってくれて感謝するぜ!」


「儂もこれほどうまい肉が食べられて感謝しているぞ。また何か作りたい物があれば遠慮なく持ってくるといい」


「楽しんでくれたようで何よりですよ。またこうやって大勢で楽しむような会を開きますから、ぜひ参加してください」


 どうやらゲストであるライザックさんとグレゴさんも楽しんでくれたようで何よりだ。俺もこれだけ大勢で飲み食いできて本当に楽しかったし、またみんなを誘ってバーベキューをするとしよう。


 さすがにその際の肉は今日よりは劣ってしまうかもしれないが、その分は工夫でカバーしてうまい料理を用意するか。


「テツヤお兄ちゃん、おしるこがなくなっちゃったです……」


「テツヤ、まだおしるこはある?」


「あれ、結構多めに作っておいたはずなんだけれどな。了解、今追加で作るからちょっとだけ待っていてね」


 酒飲み組でのんびりとお酒を楽しんでいると、フィアちゃんとフェリーさんがこちらに来た。どうやらデザートのおしるこがなくなってしまったようだ。


 今日は来てくれた人が大勢いるから、結構多めに作ったつもりだったんだけれどな。材料は多めに持ってきているからすぐに新しく作ってあげるとしよう。ついでに酒飲み組の分のデザートも作って持ってくるか。


「……休日のお父さんみたいだな」


 ライザックさんの言葉はしっかりと聞こえているぞ……確かに側から見たらそんなかんじだけれど、あとでフェリーさんに怒られても知らないからな。


「ふふ、あの人見知りなフェリーがこれほどみなさんと楽しそうにしているのは新鮮ですわね」


 まあ、フェリーさんが楽しんでくれているのは何よりだ。また定期的にこうやって大勢とバーベキューをするとしよう。


 唯一面倒なのは後片付けなんだよなあ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る