第182話 乾杯


「みんな集まってくれてありがとう。今日は日ごろお世話になっているみんなが少しでも楽しんでくれればと思う。それじゃあ早速乾杯をしよう、乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 面倒で堅苦しい挨拶はなしにして、早速乾杯をする。果実のジュースとエールの入ったコップがぶつかり合い、コンッという音が周りから鳴り響く。


「うん、これはおいしいお酒だね!」


「ああ、こいつはうまい酒だな」


「うむ、冷やしたエールというものはなかなかうまいものであるな」


 ランジェさんとドルファとグレゴさんがいただいたエールをうまそうに飲んでいる。グレゴさんからもらったお酒は少し酒精が強いらしいので、最初はライザックさんとパトリスさんからもらったエールをランジェさんの氷魔法で少し冷やしてもらったお酒で乾杯をする。


「確かにこのお酒は街で売っているお酒よりもおいしいね。ライザックさん、パトリスさん、ありがとうございます」


「皆さんに気に入っていただけてよかったです。いつもテツヤさんたちからはおいしいお菓子やお肉をいただいておりますから、ちょっといいものを奮発してみました」


「おう、いつもうまいもんをもらっているからな。それにしても冷やしたエールってのもなかなかうまいじゃねえか」


「なかなかおいしいでしょ。僕のお気に入りの飲み方なんだよ」


 やはりエールは少し冷やしたくらいが一番おいしい。ランジェさんの氷魔法に感謝だな。


「とってもおいしいです!」


「あ、あの、とってもおいしいです!」


「おう、こっちの果実ジュースもいい果物を使っているらしいぞ。たくさん持ってきたから、いくらでも飲んでくれよ!」


「こちらも冷やして飲むとおいしいですね」


 フィアちゃんとアルベラちゃんがライザックさんとパトリスさんにお礼を伝える。


 フィアちゃんはもうライザックさんには慣れているからいいが、アルベラちゃんはライザックさんと初対面なので、その強面の顔に恐る恐るといった感じだ。……俺も最初会った時はだいぶ怖かったからな。


 パトリスさんもお酒は駄目なようで、果実ジュースを飲んでいる。お酒を飲めるのは男性陣が俺達5人と女性陣はベルナさんだけで、圧倒的にお酒を飲める人の方が少ないみたいだな。


「それじゃあお肉を焼いていくので、どんどん食べてくださいね。お肉の方はこちらにいるベルナさんとフェリーさんに提供していただきました」


 乾杯を終えていよいよバーベキューの始まりだ。


 今回のメインとなるアースドラゴンの肉。テーブルほどの巨大な肉塊の一部を昨日のうちにバーベキュー用に薄くカットしておいた。


 以前にワイバーンの肉をベルナさんとフェリーさんからもらったが、その肉よりも深い色の赤身で白い脂身のサシが多い。ついに俺もドラゴンを食べる時が来た。


 やはり異世界と言えばドラゴンの肉だが、この異世界ではそう簡単に手に入る代物ではなく、俺自身が戦闘をできないということもあって、食べられるとは思っていなかった。


 ベルナさんとフェリーさんには本当に感謝している。


 ジュ~


 美しい霜降りのドラゴンの肉を十分に目で味わってから、コンロへとのせると肉の焼ける至福の音が聞こえ、おいしいそうな香りが周囲へと広がっていく。軽く両面を焼いてみんなのお皿へと配る。今日は人数も多いので、アウトドアショップの能力で購入した大きなバーベキューコンロを2つ用意してある。


 まず最初はドラゴンの肉の味をしっかりと味わうために少量の塩だけで味わってもらう。さあ、いよいよドラゴンの肉を実食だ!


「……っ!?」


 なんという味だ! たった一切れの焼いた肉によってここまで衝撃を受けたのは初めてだ!


 肉はとても柔らかく、口の中へ入れた瞬間に溶けていくようである。肉の臭みなどはまったく感じられず、ただただ濃厚な肉の旨みだけが口の中に広がってしばらくの間残って、ゆっくりと消えていく。


 これまでにダナマベアやワイバーン、ベヒーモスなどの高級肉などを食べてきたが、間違いなくその頂点に立つ味だ!


「こんなにおいしいお肉は初めて食べました!」


「本当においしいです!」


「なんだこの肉! うますぎるぞ!」


 アンジュ、レーアさん、ロイヤ、他のみんなも次々に絶賛の声を上げていく。俺と同じでみんなこのアースドラゴンの肉のおいしさにとても驚いているみたいだ。


「これは本当に驚いたな……想像のさらに上を行く味だったよ! ベルナさん、フェリーさん、本当にありがとう!」


「皆さんに喜んでいただいてよかったですわ!」


「……頑張った甲斐があった」


 ベルナさんとフェリーさんへみんながお礼を述べる。ちなみにこの肉がドラゴンであることはみんなには内緒にしてもらっている。


 ドラゴンは肉の中でも最上級の肉となるので、みんな手が進まなくなってしまうもんな。……俺も正直に言って、あの肉の塊でいくらするのかは知りたくないのである。


「肉はまだたくさんあるので、各自でどんどん焼いて食べてくださいね。今回はたくさんの味付けを用意したので、ぜひ試してみてください」


 今回は様々な味付けを用意してある。まずは定番のアウトドアスパイスと自家製の焼き肉のタレ。焼き肉のタレも王都で醤油と味噌が手に入ったこともあって、以前よりもさらに改良を加えてある。


 そして今回アウトドアショップのレベルが5に上がって新しく購入できるようになった商品である2種類のアウトドアソースを用意した。

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