第165話 地図の扱い


「テツヤさん、お帰りなさい」


「おお、テツヤ、久しぶりだな。無事に戻ってきたようで何よりだぜ」


「パトリスさん、ライザックさん、ただいまです。ええ、みんなのおかげで怪我ひとつなく、無事に帰ってこれました」


 アレフレアの街に戻ってきた翌日、冒険者ギルドへとやってきた。リリアとベルナさん、フェリーさんも一緒で、ランジェさんはゆっくりとお店で休んでいる。


 今日は休みにして、明日からお店を再開する予定だ。


「ベルナとフェリーもテツヤの護衛をありがとうな。2人が護衛を務めてくれたおかげで、なんの心配もしていないぞ」


「お安い御用」


「ええ。とても楽しい護衛でしたわ」


「……それで、あれだ。ルハイルのやつは元気そうだったか?」


 ライザックさんがそっぽを向きながら、そんなことを呟く。


 ルハイルさんとは元パーティメンバーだったと言っていたし、気になるところはあるのだろうな。


「はい、とても元気そうでしたよ。とても忙しそうにしていましたけれどね」


「そうか、そりゃよかった。まあ、昔からいつもあいつは真面目に考え過ぎるからよ。もっと肩の力を抜いて適当にやりゃあいいのによう」


「ギルドマスター……」


「なんだよ、俺もちゃんとやる時はやってるだろ!」


 うん、やっぱりライザックさんは副ギルドマスターのパトリスさんがいてこそな感じもするな。


「そういえば、ルハイルさんもライザックさんはいつも若手冒険者のことを考えてくれているって褒めていましたよ」


「……ちっ、あいつの方こそいろいろとお節介焼きのくせしてよう」


 ライザックさんが少し照れているっぽい。やはり昔のパーティメンバーからのそういった言葉は嬉しいのかもな。


「あいつのことだから、どうせテツヤにも俺の顔は悪人面とか言ってんだろ?」


「………………」


 そういえばそんなことを言っていた気がする……


 元パーティメンバーで付き合いもそれなりに長いようだし、お互いの言いそうなことは予想できるらしい。


「やっぱりか。まあ、あいつも元気そうにやっているならそれでいい。それで、例の方位磁石についてはどうだった?」


「ええ。いろいろと王都の方で調べてもらえることになりました。俺たちが帰る時には、もうすでにいろいろと検証をして、成果も少し出ていたようです。この分ならすぐに王都の方でも方位磁石を作れるようになるかもしれませんね」


「それは仕事が早いですね。そうですか、それはなによりです」


「王都の冒険者ギルドでもアウトドアショップのことを気にかけてくれるそうです。それと、例の地図と図鑑についてですが、どうやら購入した際に俺がいる場所を起点としてその情報が記されるみたいですね」


「やはり、そうでしたか。とても良い知らせではありますが、その情報については最大限慎重に取り扱うようにしていただければと思います……」


「……やっぱり、結構な大ごとですよね」


「はい。図鑑もそうですが、大きな問題は地図ですね。テツヤさんの周囲の地理情報がほんのわずかなお金と引き換えにすべて分かるというのはとんでもないことです。貴族や王族が知れば、間違いなくテツヤさんを取り込もうとするでしょうね」


「そこまでですか……」


「ええ。地図の方は自国についてもそうですが、他国との争いの際にどれだけテツヤさんの能力が有用かは言うまでもないと思います。幸い、現在は他国と戦争はしておりませんが、むしろテツヤさんの能力を巡って戦争が起きてもおかしくないくらいですね」


「………………」


 パトリスさんが真剣な顔をして話す。


 大袈裟かもしれないが、パトリスさんの話も最もかもな。その場にいる周辺の正確な地図を作り出す能力なんて、チートにもほどがある。しかも大きな街や村の正確な位置も分かるわけだし、他国との戦争が起きた際にはその有用性は計り知れない。


 ついでに言えば、お金さえあれば、いくらでも食料を調達することも可能になるわけだし、本気で俺を巡って戦争が起こってもおかしくないかもしれない。


 ……なんだか怖くなってきた。


「正しい使い方をすればこれほど素晴らしい能力も他にないと思うのですが、力というものはどうしてもそれを悪用したり、自分の者にしたい輩は多いものですからね」


 正しく使えば、地図により道に迷う人は減り、図鑑により魔物や植物などを今まで以上に活用できるのだが、そういう人ばかりでもないのはとても悲しい。特にここは異世界で、権力や暴力によってその力を手に入れようとする人は多くいそうだ。


「とりあえず、このことはルハイルさんにはまだ伝えていないです。とはいえ、地図のあったほうが便利というのも事実なんですよね……」


「そうですね。やはりこちらと同じように簡易な地図を写して、それを旅の者が売ったという形で王都へ伝えるのが一番な気はします」


「ルハイルのやつはかなり鋭いからな。しばらく時間を空けてからでいいと思うぞ」


「そうですね。今のところはそれでいきます。それと地図にかんしては今まで以上に慎重に扱うようにしておきます」


 今地図のことを知っているのは、うちの店の従業員とベルナさん、フェリーさん、パトリスさん、ライザックさんだ。地図の扱いについては他のキャンプギアとは一線を画して重要な秘密にしておかないといけないようだな。

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