第164話 レッドバジリスク


「アレフレアの街の城門が見えてきたみたい」


「あっ、本当だ! 帰ってきたね、テツヤお兄ちゃん!」


「そうだね、フィアちゃん。帰りは何事もなく帰ってこれて本当に良かったよ」


 王都からの道のりを無事に超え、アレフレアの街へと帰還した。王都からの帰り道は途中から別のルートを通り、行きとは別の街を訪れた。


 その村でもアウトドアショップの商品を卸す予定なので、良い宿を案内してもらい、盛大な歓迎を受けた。そのあとも道中で魔物が出たくらいで、特に大きな問題は起こらなかった。


 まあ、何か起きたとしても、みんながいてくれればどうとでもなった気がするけれどね。


「たった一週間なのに、だいぶ久しぶりに感じるよ」


「ふふ、それだけテツヤもこのアレフレアの街に愛着を持ったということだな」


「……うん、リリアの言う通り、そうかもね。王都や途中の街を訪れるのもとても楽しかったけれど、帰り道じゃ早くアレフレアの街に帰りたいと思っちゃったな」


 もう俺にとってはここが帰る街なのである。




「おお、安い! やっぱりこの食材はこれくらいの値段じゃないと!」


「いや、テツヤ。たぶんその値段は前とまったく変わらないよ」


「……そうだっけ。王都やその途中にあった街も物価がアレフレアの街とは全然違うから、そっちに慣れちゃったよ」


 アレフレアの街に無事到着し、店に戻ったところで特に荒らされたり、誰かが侵入したような痕跡もなかったので、フィアちゃんとドルファとアンジュとはその場で別れた。


 ドルファにはフィアちゃんを送ってもらいつつ、フィアちゃんの母親であるレーアさんへの王都のお土産を持ってもらった。王都には珍しいものや食材がいろいろとあったので、ついつい買いすぎてしまったな。


 とりあえず日も暮れそうなことだし、アレフレアの街の冒険者ギルドへの報告は明日の朝することにして、今は食材を購入しにランジェさんやベルナさんたちと一緒に市場へとやってきている。アレフレアの街よりも物価の高い市場を回ってきたから、この街で販売している物がすべて安く見えてしまうな。


 本来ならば今回の倍から3倍ほどかかる道のりをフェリーさんの召喚獣であるスレプのおかげでだいぶ短縮できた分、一気に物価が上がったような錯覚に陥ってしまうぞ。


「ギルドマスターからのお土産はレッドバジリスクだった」


「レッドバジリスクは王都から少し離れた山に生息しているのですが、かなり手ごわいうえに遭遇すること自体が稀なので、王都の中でも高級食材になっておりますわ」


「……物価の高い王都の高級食材か。値段は聞きたくないな」


 王都のギルドマスターのルハイルさんから渡されたお土産はレッドバジリスクという超高級食材だった。真っ赤な皮が特徴で、鱗はすでに取られ解体されてブロック肉の状態でいただいた。


 さすがに蛇の肉は元の世界でも食べたことがない。何かで読んだ知識だと、淡白な鶏のささみに近い味だったはずだが、バジリスクだもんな……さすがにどんな味か想像がつかん。


 とりあえず明日以降の食材も必要だから、適当な食材を買っていくとしよう。




「お待たせ、まずはレッドバジリスクをシンプルに焼いたものと、照り焼き風に焼いたものだよ」


 市場で買い物を終えて、お店の2階へと戻ってきた。お風呂までとはいかないが、ポータブルシャワーによって汗を流せたのはだいぶ気持ちがよかったな。他のみんなも水浴びをしたが、当然ランジェさんも覗きなんかはしていない。軽い感じにも見えるが紳士なのである。


 そして水浴びを終えて、レッドバジリスクを調理してみた。


「おお、とても良い香りだな。レッドバジリスクを食べるのは初めてだ。どんな味がするのだろうな」


 どうやらリリアもレッドバジリスクを食べるのは初めてのようだ。やはりそれくらいの高級食材なのだろう。


「うん、柔らかくて簡単に嚙み切れるのに、とても味が濃いのだな。それに皮際の部分はパリッとしていて脂も乗っていておいしいぞ!」


「皮があったままの方がおいしいよね。味付けはいつものアウトドアスパイスでつけてみたよ。肉の味が結構強いから、少しの味付けでも全然いけるな」


 試しに焼いてみたのだが、筋などもなくとても柔らかく、それほど脂はおおくないのにしっとりとした肉質でちゃんとした肉の旨みもあるとても良い食材だ。


 そして相変わらず異世界の食材にもアウトドアスパイスはよく合ってくれる。まさか異世界のほうでも万能な調味料になってくれるとはさすがだ。


「こっちの方もおいしい! 甘いのとしょっぱい味が絡み合って初めて食べる味!」


「照り焼きと言って、甘辛いタレを付けながら焼く調理法だよ。タレに砂糖を加えて焼いて、少し光沢が出るから照り焼きっていうんだ」


 照り焼きのほうは王都で手に入れた醤油と砂糖に料理酒を加えたタレを塗りながら焼いた照り焼きだ。タレを塗りながら焼くことによって旨みを閉じ込める効果がある。


「とちらも本当においしいです! 本当にテツヤさんは料理がお上手ですね」


「お口にあったなら良かったです。残りの肉は今日下味を付けておいて、明日燻製にするので楽しみにしておいてくださいね」


 燻製にすることによって、しばらくの間持つようになるし、燻製の香りが加わる。ライザックさんや他のみんなには燻製してから渡す予定だ。どんな味になるのか今から楽しみだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る