第162話 帰還
「さあ、名残り惜しいけれど、アレフレアの街へ帰ろうか」
王都での観光を2日間十分に楽しみ、いよいよアレフレアの街へと帰る。
当初の目的であった方位磁石の作り方を教えるということと、アウトドアショップの店の商品を王都にも置いてもらうという交渉はひとまずうまくいった。地図と魔物図鑑および植物図鑑については今後の状況を見て、王都の冒険者ギルドマスターであるルハイルさんに折を見て伝えるとしよう。
そしてもうひとつの目的であった完全回復薬について、今回は購入することができなかったが、ある程度の購入金額の目安はついた。もう少しでアウトドアショップの能力がレベル5に上がるので、また新しい商品を販売できるようになれば、自然とお金も貯まっていくだろう。
「とっても楽しかったね、テツヤお兄ちゃん! また王都に来たいね!」
分かりやすく、笑顔でそのフサフサとした尻尾をブンブンと振っているフィアちゃん。王都の街はよっぽど楽しかったようだ。
「そうだね。今度はお母さんと一緒に来られるといいね」
今回はフィアちゃんの母親のレーアさんは仕事が忙しくて王都に来ることができなかったから、次回王都に来るときは一緒だといいな。昨日はレーアさんやアレフレアの街でお世話になっていた人たちに王都のお土産を購入したから喜んでもらえればと思う。
「久しぶりの王都は本当に楽しかったな。連れてきてくれて礼を言うぞ、テツヤ」
「いや、むしろ護衛として来てくれてこっちも助かったよ」
今回は王都の中では特に大きな問題はなかったが、次回王都に来るときは変なやつに絡まれる可能性もある。その時こそリリアやみんなの出番だ。何せ相変わらず俺には戦闘能力は皆無だからな。
「初めて王都に来ましたけれど、本当に楽しかったです。テツヤさん、本当にありがとうございました」
「ああ、まさか王都に来る機会があるとは思ってもいなかった。ありがとうな、テツヤさん」
「2人にはいつもお世話になっているからね」
アンジュとドルファも王都を楽しんでくれたようでなによりだ。
とはいえ、今回は俺たちの滞在費は王都の冒険者ギルド持ちだからな。物価の高価な王都で従業員全員の滞在費はなかなかのものだ。それほど頻繁に来ることはできないだろう。
「みなさん、王都を楽しんでくれたようで良かったですわ」
「また、いつでも王都へ遊びに来てほしい。さすがにあの宿までとはいかないけれど、今度は私たちのパーティハウスに招待する」
「ベルナさんとフェリーさんには本当にお世話になりました。今度はぜひお邪魔させてください」
王都にはベルナさんとフェリーさんのパーティハウスがあるようだ。多分王都の家賃とかはとんでもなく高いんだろうな……
俺たち全員が入れるくらい大きいらしいので、今度王都へ来た時にはぜひお世話になろう。というか2人にはまたこのままアレフレアの街まで護衛してくれるんだけれどね。
「やあ、テツヤくん。これからアレフレアの街へと戻るんだってね。ギリギリ間に合って良かったよ」
「ルハイルさん、わざわざ来てくれてありがとうございます」
高級宿の庭で積み荷などを整理し、いよいよアレフレアの街へ出発というところで、冒険者ギルドマスターのルハイルさんが来てくれた。
「例の件について、多少見通しが立ったから報告しようと思ってね」
「すごいですね。もう見通しが立ったんですか」
例の件とは方位磁石の作り方のことだろう。もう何らかの鉱石と雷魔法により方位磁石を作る目途が立ったのか。さすがに仕事が早い。
「ああ、このままいけばすぐに試作品ができることになりそうだよ。テツヤくんたちが帰る前に多少の成果ができて良かった。それとこれは私からのお土産だ。帰ったらみんなで食べてくれ。ついでにライザックのやつにも渡してやってくれ」
そう言いながらルハイルさんはこちらに50センチメートルほどの大きな包みを渡してきた。食べてくれということは何らかの食材だろう。
「ありがとうございます。街に戻ったらみんなで楽しませてもらいます。こちらこそ例の件はお世話になりました」
「ああ、少しでも役に立てたのなら何よりだ。個人的にもテツヤくんを応援しているよ」
男性陣以外は何の話だか分からずに首をかしげているが、昨日の王都一の魔道具屋へ紹介してくれた件である。
「ベルナ、フェリー。このまま油断せずにテツヤくんたちの護衛を頼むぞ」
「はい、お任せください」
「任せて」
ベルナさんとフェリーさんがルハイルさんに勢いよく返事をする。帰りの道もAランク冒険者の彼女たちがいれば問題ないだろう。
「リリアも久しぶりに元気そうな姿が見られて本当に良かった。今回は私が忙しくてほとんど話せなかったが、今度王都へ来た時には個人的にもいろいろと聞かせてくれ」
「ええ。今度来た時にはぜひ」
リリアが王都にいた頃はルハイルさんとも交流があったらしい。今回は仕事が忙しかったようだが、いろいろと積もる話もあるのだろう。
「ああ、その時を楽しみに待っているよ。それでは邪魔をした。私はこれで失礼――」
「初めましてルハイルさん、Bランク冒険者のランジェと申します!」
ルハイルさんが別れを告げて帰ろうとしたところで、ランジェさんが突然ルハイルさんに声をかけた。
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