第159話 プロポーズ
プロポーズ……
いきなりドルファがとんでもないことを言い始めた。いや、とんでもないと言うことでもないのか。
「見ていれば分かるが、テツヤさんはリリアのことを好きなんだろう?」
「……そうだね。確かにリリアのことは異性として好きだよ」
リリアのことをどう思っているかと言えば、間違いなく好きである。出会った時は綺麗で強くて優しい女性で、どちらかと言うと憧れや尊敬に近い感情だったが、長い間近くで過ごしていくうちにその気持ちは好意へと変わってきた。
この世界に来てからずっと恋愛なんかよりも、生きていくためにその日の宿代と食費を稼ぐことしか頭の中になかったが、今では安定した生活を送れるようになった。
さすがにプロポーズはいろいろとすっ飛ばしすぎだが、リリアと付き合ってみたいという気持ちは確かにある。
「というかテツヤがまだリリアと付き合っていないという状況が信じられないんだけどね。だって今も2人で一緒に暮らしているわけでしょ?」
「そ、それは護衛としてアウトドアショップの店を守ってくれているわけだし……」
確かにリリアとはひとつ屋根の下で暮らしてはいるけれど、それはあくまでもうちのお店を守る従業員としての仕事だ。
そうとは分かっていても、あの店で暮らし始めた当初はリリアと2人きりでものすごくドキドキしていたぞ。最近ではリリアと常に一緒に行動していたから多少は慣れてきたけど。
「まあ僕もテツヤの作ってくれるご飯があまりにもおいしいから、アレフレアにいる時はお店に泊まるようにしてたけれど、そこは気を遣うべきだったかもね。今度からはご飯の時だけは戻ってくるけれど、宿は取ることにするよ」
「いやいや、そこは気にしなくても大丈夫だよ!」
確かに最近はランジェさんが街にやってきている時はうちのお店に泊まっていた。ランジェさんの寝具なんかもすでにうちの店に置いてある。
今の俺としてはずっとリリアと二人きりでいるよりもたまにランジェさんが泊ってくれている方が気は楽かもしれない。あと、ご飯の時だけは戻ってくるのね……
「リリアだって、いくら護衛とはいえ、好まない相手と一緒の家に住みはしないだろう。というかリリアの方は本当に分かりやすくテツヤさんのことを好きだと思うぞ」
「そうだね。僕の方から見てもリリアはテツヤのことが好きだと思うよ」
「本当!?」
そりゃ俺の方も、もしかしたらリリアは俺のことが好きなんじゃないかと思うようなことが何度かあった。とはいえ、俺は元の世界では女性と付き合ったことすらなかったし、恋愛のことなんて何ひとつまともな経験がなかった。
これくらいは普通のことなのかなと思っていたり、ただでさえ童貞は勘違いしやすい生き物だからな。少し優しくされただけで、相手の女性は俺のことを好きなんじゃないかと思い込んでしまう悲しい習性があるのである。
でもドルファとランジェさんがそう言ってくれるのなら、少なくとも可能性はありそうだ。
「リリアも今まで冒険者として一筋でやってきたから恋愛方面には疎そうだからね。向こうから誘われるのを待つんじゃなくて、自分から積極的にアピールしていかないと駄目だよ」
「な、なるほど……勉強になります」
女性経験の豊富なランジェさんがものすごく頼りになる。失礼だけれど、今までで一番ランジェさんのことを尊敬しているかもしれない。思わず敬語で話してしまったし、なんなら弟子入りしたいくらいだ!
「プロポーズと同時だと、テツヤの方は完全回復薬で釣ったと思われちゃうし、リリアの方は完全回復薬目的にプロポーズを受け入れたって変に邪推されるかもね。プロポーズが受け入れられて、いざ結婚する時に完全回復薬をプレゼントする流れがいいんじゃないかな」
「すごいな、ランジェ。俺もそれでいいと思う。一従業員としてそれほど高価な物を受け取ってくれないかもしれないが、さすがに伴侶からのプレゼントなら受け取ってくれるんじゃないか」
「うん、なるほど。ランジェさん、ドルファ、ありがとう。俺は全然恋愛経験とかがなかったから、2人が相談に乗ってくれて助かったよ」
ひとまずはその流れで考えてみよう。まずはリリアに受け入れてもらえることを考えつつ、完全回復薬を手に入れるための努力をするとしよう。
「これくらい全然構わないよ」
「ああ、俺もそういった経験はないが、話を聞くくらいはできるぞ」
2人がいてくれて本当に良かったよ。たぶん俺一人じゃ何にも進まなかったと思うからな。
「そういえばベルナさんとフェリーさんもだいぶテツヤのことを慕っていると思うけれど?」
「……へっ?」
なぜかここでベルナさんとフェリーさんの話がランジェさんから出てきた。
「いや、あれはご飯とかお菓子に反応しているだけで、好意じゃないと思うよ」
ベルナさんとフェリーさんは凄腕のAランク冒険者で、強いうえにとても綺麗で可愛いから、アイドル並みの人気がある。その2人から好かれているなんて、俺もさすがにそこまでうぬぼれてはないぞ。
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