第112話 Aランク冒険者


「Aランク冒険者!?」


 今リリアはAランク冒険者と言ったのか!?


 Aランク冒険者……リリアは元Bランク冒険者で、ランジェさんは現役のBランク冒険者だ。その2人よりも冒険者のランクが上ということになる。


 一番身近なところだと、ライザックさんが確か元Aランク冒険者だったはずだ。だがこの2人はまだだいぶ若く見える。ベルナさんはリリアの少し上くらいの年齢かな。


 もうひとりのフェリーさんは小学校高学年くらいの年齢に見えるが、実際のところはエルフなので見た目通りの年齢なのかはわからない。


「お、おい! まさかあの王都で有名な冒険者の『灼熱帝のベルナ』様じゃないか!?」


「ってことはあっちの女の子は『蒼翠嵐そうすいらんのフェリー』様か! すげえ、どっちも超有名なAランク冒険者じゃないか!」


 店内にいる常連の駆け出し冒険者達もこの2人を知っているらしい。どうやら2人ともかなり有名な冒険者のようだ。それと二つ名がある冒険者って超格好いいよね! 中二病っぽい二つ名とか大好物です!


 ……なんてアホなことを考えている場合ではない。そんな有名な冒険者が、始まりの街と呼ばれるアレフレアにあるうちの店へ何の用だ?


 Aランク冒険者ということは、もしもなにかあった時にリリアやランジェさん達の力では抑えることができないということだ。もちろんリリアの知り合いならそんなことはしないと思うが、否が応でも緊張してしまう。


「なにかお話があるということですので、2階へご案内します」


 今は閉店間近ということもあってお客さんも少ない。これなら俺とリリアが抜けても問題なさそうだ。


「いえ、事前に連絡もせずに来てしまいましたので、こちらのことは気にしないでください。こちらのお店が閉店するまで、店内の商品を見せていただいてもよろしいでしょうか?」


「……ご配慮ありがとうございます。もちろん大丈夫ですよ」


 どうやらアウトドアショップの閉店の時間に合わせて来てくれたらしい。もうあと20分もすればアウトドアショップが閉店する時間だ。丁寧な話し方といい、以前この店にやってきた男爵の使いのように無茶苦茶を言うつもりはないと信じたい。




「「「ありがとうございました!」」」


 本日のお店の営業が無事に終了する。……いや、本当に無事なのかはこれから次第な気もするがな。


「大変お待たせしました。それでは2階へどうぞ」


「ありがとうございます」


「………………」


「リリアは俺と一緒に来てね。みんなはいつも通り閉店作業をよろしく」


 リリアはこの2人と知り合いみたいだし、話に同席してもらうとしよう。


「テツヤ、僕も行くよ」


「いや、ランジェさんは大丈夫だよ。みんなと一緒に閉店作業をよろしくね」


 リリアと一緒に護衛を買って出てくれるのは嬉しいが、実力行使となった場合、どちらにせよAランク冒険者には敵わないだろう。


「……残念。了解だよ」


 ……決してベルナさんが美人で、フェリーさんが可愛いから同席を求めたわけではないはずだ。




「たいしたもてなしもできませんがどうぞ」


「ありがとうございます」


「………………」


 テーブルの向かいに座っているベルナさんとフェリーさんにお茶を出す。この店にはちゃんとした応接室はないので、普段生活している居間のテーブルに座ってもらった。


「ベルナとフェリーには王都でとても世話になったんだ。何度か臨時でパーティを組ませてもらったこともあるんだぞ!」


「へえ~そうなんだね」


 久しぶりの知り合いに会えたのがよっぽど嬉しいのか、リリアが普段よりも楽しそうに話をしている。


「リリアと会うのは半年ぶりくらいですね。こちらこそいろいろとお世話になりましたわ!」


「王都では女性で高ランク冒険者が少ないんだ。この2人は本当に強いんだぞ。ベルナの剣技は王都の中でも5指に入る腕前だし、フェリーは魔法学園を首席で卒業した天才魔導士なんだ!」


「おお、リリアがそこまで言うなら、本当にすごい腕前なんだね!」


 元Bランク冒険者であるリリアがそこまで褒めるとはよっぽどのことなのだろう。そしてどうやらこの世界には魔法学園があるらしい。そこを卒業しているということはそこそこの年齢のような……うむ、その件について触れるのはやめておこう。


「それを言うのなら、リリアもとても強かったですわ。目にも留まらないスピードと圧倒的なパワーで敵を薙ぎ払っていました」


「……リリア、とても強かった」


 どうやらリリアの強さも相当だったらしい。


「本当は私達と正式にパーティを組んでほしかったのですが、残念ながら断られてしまいました」


「……残念だった」


「あの時はすまなかった。とても光栄な誘いだったのだが、すでにパーティに入っていたし、なにより2人のほうがよっぽど強かったからな」


 おう、マジか。リリアはAランク冒険者のパーティに誘われるほど強かったのか。


「リリアもAランク冒険者まであと一歩で上がれるところでしたから、それほど実力は変わりませんわ。……それだけにとても残念な事故でした」


「……悲しい」


 ……冒険者として、あと一歩でAランク冒険者に上がれるというところで左腕を失ったのか。それはさぞ無念だっただろう。


「ふふ、みんなが気にすることはないぞ。左腕は失ったが、全員の命は助かったんだし、何の不満もない。それに……」


 リリアは残った右腕をブンブンと回し、なんでもなかったかのようにアピールする。


 そして優しく微笑み、ゆっくりと話す。


「冒険者は引退したが、新人冒険者と直接かかわれ、手助けができるこの店に雇ってもらえた。毎日の生活も新鮮で楽しくて、私は今の生活にとても満足しているんだ!」




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皆さまの日々の応援のおかげで別の作品ですが、カクヨムコンテスト8特別賞を受賞することができました!


いつも拙作を読んでいただきまして、本当にありがとうございます(*´꒳`*)

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