第111話 とある来訪者


「冒険者ギルドのほうも順調そうでよかったよ」


「この街以外の街の冒険者ギルドでも方位磁石や浄水器や地図が購入できるようになるのはみんなも喜ぶだろう。最近では少し離れた街からこの店の噂を聞いて、わざわざ足を運んでくる冒険者もいるからな」


 リリアの言う通り、アウトドアショップに来てくれるお客さんの中には、かなり離れた街からわざわざやってきてくれるお客さんも結構いる。


 これからは少しずつだが、アウトドアショップで販売している商品を他の街でも販売できるようにしていこう。いずれは他の街にアウトドアショップの支店なんかを建てていってもいいかもしれない。


 まあ、販売する商品を購入できるのが俺ひとりという時点であまり現実的ではないけどな。


「少しずつだけどこの街以外にも冒険者のために便利な道具を広げていければいいね。そういえば明日で今週も終わりだし、今週の休みの午前中にまたみんなを誘ってバーベキューでもしようか?」


「アンジュの歓迎会だな。新しい仲間も増えたことだし、もちろんいいと思うぞ! 前回はおいしい料理がたくさんあったから、今回も楽しみだな!」


 最初はどうなるかとも思ったが、なんとかドルファのほうも落ち着いてくれたようで、今日はだいぶまともな接客に戻ってきてくれた。


 明日でアンジュがアウトドアショップで働き始めてから1週間になる。アンジュのほうは元からまったく問題なかったが、ドルファのほうもとりあえずは大丈夫そうだ。1週間の試用期間が終わり、アンジュが問題なさそうならこれで正式採用となる。


 新しい仲間も増えたことだし、またパーッとみんなで楽しむとしよう。ぶっちゃけ魔物図鑑の情報料として結構な金額を冒険者ギルドからもらったので、今回は前回よりも良い食材をそろえてみるとしよう!






「いらっしゃいませ!」


 時刻は夕方前、今日の営業も無事に終わりそうだ。朝アンジュとドルファに確認したところ、ふたりともこれからもこの店で働いてくれるとのことなので安心した。明日のバーベキューも喜んで参加してくれるようだ。


 ランジェさんとフィアちゃんも明日は参加できるようだ。フィアちゃんの母親であるレーアさんにも、フィアちゃんに声を掛けてもらう予定だ。前日の確認になってしまって申し訳ない。


 閉店前の夕方前になるとお客さんもだいぶ減ってくる。店内に数人が残っているくらいだ。


「いらっしゃいま……せ」


 とそこに新しいお客さんが入ってきた……のだが、やってきたのは女性冒険者の2人組だ。


 実はこの街の女性冒険者も結構な割合で存在する。女性のパーティも珍しいものではなく、女性数人でアウトドアショップに来店してショッピング感覚で買い物をしている姿もたまに見かける。


 しかしやってきた女性冒険者の2人組はこの街にいる女性の駆け出し冒険者とは少し様子が異なっていた。


「すみません、アウトドアショップという店はここで間違いないでしょうか?」


「………………」


「……はい、ここであっていますよ。なにかお探しでしょうか?」


 ひとりはとても丁寧な言葉遣いをしており、姿勢正しく俺へと話しかけてきた。肩よりも長くて燃え盛る炎のような真っ赤な色をしたロングヘア、深紅の宝石のような美しく赤い瞳、リリアやアンジュとは異なったベクトルの整った容姿。


 そして気になるのはその女性が装備している鎧やその長い剣だ。この街にいる駆け出し冒険者が身に付けているような安い物ではなく、とても高価そうな鎧や剣に見える。

 

 もうひとりの女性は青い髪が特徴的な小柄な女の子だ。濃紺の地面にまで届きそうな長いローブに身を包んでおり、これまた高価そうな大きい水晶を先端に付けた杖を持っている。耳が長くとがっているところを見ると、この子もランジェさんと同じエルフらしい。


 この世界では彼女達のように赤色や青色をした髪の色をした人も大勢いるが、2人並んでいるところを見るのは初めてかもしれない。


「冒険者ギルドマスターのライザック殿の紹介で来ました。申し訳ございませんが、お店が終わってから少しだけお時間を頂戴したいと、こちらのお店の店長にお伝えいただいてもよろしいでしょうか?」


「………………」


「ライザックさんの?」


 どうやらこの2人の女性は冒険者ギルドの関係者のようだ。見た目通り冒険者らしい。


「ベルナ、それにフェリーじゃないか!?」


 2人と話していると、突然商品棚を整理していたリリアが2人のもとへやってきた。


 んん? もしかしてリリアの知り合いだったりするのか?


「リリア、久しぶりですね!」


「……リリア、久しぶり!」


 やはり向こうもリリアのことを知っているようだ。そしてこっちの小さな女の子は初めてしゃべったが、とても小さい声をしているな。


「2人ともどうしてこの街に? 王都にいたのではなかったのか?」


 おっとどうやらこの2人、王都からわざわざこのアレフレアの街までやってきたのか。察するにリリアの冒険者時代の知り合いといったところだろう。


 確かリリアも冒険者の活動をしていた時は王都を拠点にしていたと聞いている。


「ライザック殿から、リリアがこちらの店で働いているとお聞きました。久しぶりにリリアに会いに来たのも理由のひとつですが、実はこのアウトドアショップの店長さんに相談したいことがあります」


 この2人はどうやら俺に用があるらしい。


「俺がこの店の店長をしているテツヤと申します」


「ベルナと申します。こちらはフェリーです。テツヤさん、どうぞよろしくお願いします」


「………………」


 ベルナという赤い髪の女性が丁寧な自己紹介をしてくれる。フェリーと呼ばれている女の子はベルナさんの後ろに隠れてしまった。もしかすると人見知りなのかもしれない。


「テツヤ、彼女達は王都での私の知り合いで、王都でとても有名なAランク冒険者だ」

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