第110話 地図と図鑑の販売


「そういえば、アウトドアショップに来てくれたお客さんから教えてもらったのですが、簡易版の地図の売り上げは順調みたいですね」


「おお、そうだった。本題を忘れていたぜ!」


「ええ、まずは地図についてですね。先週販売を始めてから1週間半が経過しましたが、売り上げはとても順調です。販売する値段をかなり低めに設定したため、多くの冒険者が地図を購入してくれました。


 冒険者だけではなく、商人や街の外に出る必要がある方にも幅広く購入されております。それに伴って方位磁石もまた売れ始めているので、もし可能でしたらしばらくの間はいつもより方位磁石を多めに置かせていただければと思います」


 ふむふむ。事前にパトリスさんと話していたようにやはり簡易版の地図であってもかなりの需要があったようだ。駆け出し冒険者が購入しやすいように値段をかなり抑えめにしたのもよかったのかもしれない。


「ええ、承知しました。次回は方位磁石を多めに納めますよ」


 どうやら地図が売れるに伴って方角を示す方位磁石も売れているようだ。確かに地図と合わせて方位磁石を持っていると、さらに道に迷う可能性が減るからな。


「ありがとうございます。続いて魔物図鑑となりますが、こちらも写本が無事に完成しました。まずは元の図鑑をお返しします。そしてこちらが写本した図鑑となります」


「はい。また元の方の図鑑が必要でしたら教えてください。……なるほど、絵も特徴を捉えていて分かりやすいですね」


 まずは元となった魔物図鑑を受け取る。写本の元となった地図はすでに処分してある。精巧すぎる地図や図鑑は余計なトラブルを生みそうだ。それほど高くないし、何かあった時はまた購入すればいいだけだからな。


 写本した魔物図鑑をちらりと見てみたが、元の図鑑の魔物の写真の特徴をうまく捉えて分かりやすい絵となっている。どうやら地図やこの魔物図鑑を写本した人は絵がとても上手なようだ。


 そして絵の下にはその魔物の特徴や弱点などが詳細に記載されている。うん、駆け出し冒険者には役立ちそうな情報がたくさん載っている。


「おお、これは分かりやすくて便利だな」


「結構な量があるので、一度持ち帰って確認していただければと思います。事情を知っているみなさんにも読んでいただいて問題ないか確認していただきたいですね。量が多いので、もちろん報酬もお支払いします」


 確かに数十ページはあるし、ここですぐに確認するよりも、お店に持って帰ってゆっくりと確認したいところだ。それに魔物について俺よりも詳しいランジェさんやドルファの意見も聞いておきたい。


「わかりました。それでは確認次第冒険者ギルドに持っていきますね」


「ありがとうございます。こちらの図鑑は大量に作って販売するわけではありませんので、それほど急がなくても大丈夫です」


 魔物図鑑は一般向けにも販売する予定だが、冒険者ギルドにて無料で公開するので、そこまで大量に写本する必要はない。


 簡易版の地図とは異なり、何十ページもあるし、絵も手書きで写さなければいけないため、販売するとなるとかなり高額になってしまう。その場合、肝心の駆け出し冒険者が購入できずに意味がないので、冒険者ギルドにて無料公開することになった。


 そのため地図の販売とは異なり、販売した時に一部の割合をもらうだけではなく、それとは別に情報料という形ですでに結構な金額をいただいている。情報には価値があることは、こちらの世界でも変わらないらしい。


「そこでなんだが、テツヤにひとつ相談事がある」


「はい。なんでしょうか?」


 冒険者ギルドマスターのライザックさんからの相談か……少しだけ身構えてしまうな。


 まあ少なくとも俺に戦闘能力は皆無だから、この依頼を受けてほしいとは言われないはずだ。


「この街と同じように、近くの街の冒険者ギルドでも、魔物図鑑の公開と簡易版の地図の販売を許可してほしい!」


「テツヤさんと契約をした際にはこの街での公開と販売のみとさせていただいておりましたが、可能でしたら他の冒険者ギルドでも同様に公開と販売を許可していただきたいのです。もちろん条件につきましてはこちらの冒険者ギルドと同じで問題ありません」


「ええ、許可しますよ」


「本当か!」


「……えっと、テツヤさん。許可をいただけるのはとてもありがたいのですが、本当によろしいのでしょうか?」


 パトリスさんは俺が即答したことについて心配しているようだ。


「はい。実は俺のほうからもちょうど提案しようと思っていたところなんですよ。魔物図鑑や簡易版の地図と一緒に少しずつですが、方位磁石と浄水器も別の街で販売してもらえればと思っています」


 実はこちらからもちょうどそのことについて提案しようと思っていたところだ。すでに従業員のみんなには話をしてある。


「おお、そりゃありがてえ!」


「ええ。このアレフレアの街ほどではないですが、道に迷って水や食料が足らずに死んでしまう冒険者は大勢おります。方位磁石や浄水器は他の街でも間違いなく必要とされるでしょう!」


「ただし条件があります。おそらく以前お店に直接やってきた男爵みたいに無茶を言う貴族がまた出てくるかもしれません。その際には冒険者ギルドに今まで以上に守ってほしいです」


 結局例の男爵を逮捕することはできなかったが、あれ以降ちょっかいを出してくる貴族はおらず、店の商品を大量に購入したいと言ってくる商店もいなくなった。


 冒険者ギルドがしっかりと貴族や商店を抑えてくれているようだ。これなら少しずつ他の街に商品を広げていっても大丈夫だろう。


「ええ、もちろんです! 地図や図鑑の出処がテツヤさんの店であることは絶対バレないようにします。また、販売をする街の大きな商店や貴族にアウトドアショップは冒険者ギルドの協力店であることをしっかりと通達しておきます!」


「はい、よろしくお願いします」

 

 パトリスさんと握手をする。冒険者ギルドとは引き続き良い関係を続けていけそうでなによりだ。


 ちなみに冒険者ギルドマスターであるライザックさんと先に握手するのを忘れていた。申し訳ないが、交渉事は完全にパトリスさん担当だと認識してしまっていたな……

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