第30話 川の水で実験


「はい、それとこれはロイヤ達とフィアちゃんの分だよ」


「俺達ももらっていいのかよ」


「ああ。その代わりにどんな料理に合うか、今度感想を教えてくれよな。多分この前もらった臭いのキツい干し肉とかもマシになると思うから」


「おお、あの肉の臭みが少しはマシになるのか!」


「でもさすがにこんなに高い物は貰えないわよ……」


「そうだな、さすがに俺達にとっては高価すぎるな……」


「ああ、これは他の人には内緒にしておいてほしいんだけど、実はこの香辛料はかなり安く仕入れられるんだよ。だからそこまで気にせずに受け取ってくれ。フィアちゃんもお母さんに渡して、料理に使ってもらってね」


 この世界では高価であっても、アウトドアショップでは銀貨2枚で購入することができる。


「それは嬉しいわね! テツヤ、ありがとう!」


「テツヤお兄ちゃん、ありがとう!」


「ここもご馳走になっているし、今度またテツヤの店に行くからな」


「ああ、それだったら数日後に新しい商品を店に出す予定だから、その時に来てくれると嬉しいな。またあの方位磁石みたいな冒険者に役に立つ道具を出す予定だからさ」


「おお、それは楽しみだな!」


「さあ、ここの払いはタダにしてもらったんだ。せっかくだし、腹一杯ご馳走になろう」


 そのあとはこの宿の料理をみんなで味わった。ただでさえ美味しい料理を、アウトドアスパイスでさらに美味しく味わうことができるようになったのはありがたいな。今後は屋台で買った料理にも使えるから、アウトドアスパイス様々である。


 お腹いっぱいになったあと、まだ日は落ちていなかったが、フィアちゃんを家の近くまで送っていった。こんな感じで、たまにみんなとご飯を食べに行くのは悪くないかもな。




 宿に帰ってから、ロイヤ達に頼んで汲んできてもらった川の水が入った水筒を取り出す。水筒は明日の朝に冒険者ギルドに行ってロイヤ達に返す予定だ。


 さて、いよいよ実験開始である。アウトドアショップの能力で購入できる浄水器はストロータイプだ。細い筒状のこのタイプの浄水器は、川の水や雨水などを吸い上げる際に、筒の中にあるフィルターや活性炭などで、水の中に含まれている汚れや細菌などを除去してくれる。


 本格的な浄水器は数万円近くする代わりに、かなり濁った泥水すらも、綺麗な水に変えることができる。今回アウトドアショップがレベル3になったことで、この浄水器は銀貨2枚で購入することができた。銀貨2枚で買えるこの浄水器は、そこまで本格的なものではないようだが、川の水や湧き水を飲む分には問題ないようだ。


「……さて、頼むぞ」


 水筒に浄水器を挿して、ロイヤ達が3ヶ所から汲んできてくれた川の水を飲んでいく。


「うん、味的にはなんの問題もないただの水だ。残った分は明日の朝に飲んでみて1日……いや、念のために2日間お腹を壊さなければ大丈夫だろう」


 あとは時間をあけてみて、俺が体調を崩さなければ、商品として販売するとしよう。






◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そして2日が過ぎ、特に体調の変化も起こらなかったので、いよいよ今日からアウトドアショップレベル3で購入できるようになったキャンプギアを販売する。


 予想通りと言うべきか、方位磁石やカラビナ、スプーンやフォークやコップなどの商品の売上は少しずつ落ちてきた。これらの商品に興味がある人は大体揃え終わったということだろう。


 もちろんこの始まりの街に新しくやってくる冒険者や商人は毎日いるので、売り上げがゼロになることはないが、そろそろ新しい商品を売り出していい頃合いだ。


 そして今回アウトドアスパイスの販売は止めることにした。市場を回ってみたのだが、塩やコショウなどのスパイスを扱う店はかなり多い。そんな中で、店舗も持っていない新しく開いたばかりの屋台の俺の店が、この世界では高品質であるアウトドアスパイスを販売すれば、トラブルの元になることは目に見えている。


 元の世界でもそうであったが、生活にとても身近な香辛料によって、大きな争いが起こってもおかしくはない。ファイヤースターターのように、個数を限定して販売することも考えたが、少なくとも護衛を雇うまではやめておこうと思う。


 あと数日もしたら、店舗を借りるための賃料が貯まるので、店舗を借りるのと同時に従業員兼護衛をひとり雇おうと思っている。店舗を借りることによって、販売できる商品が増え人手が足りなくなる。


 そしてどんなに治安が良い街といっても、悪人がいない街などありはしない。この街の大きな商店のほとんどは護衛を雇っている。そこまで大きな店舗を借りるつもりはないのだが、なにせ売る商品が少し特殊だからな。フィアちゃんもレーアさんから預かっていることだし、戦闘能力皆無の俺だけでは不安極まりないので、護衛は必須となる。


「さてと、店舗を借りるためにも頑張るとしますかね」


「テツヤお兄ちゃん?」


「ああ、ごめん。ちょっと気合を入れていたところだよ。それじゃあお店を開けようか」


「はいです!」


「お待たせしました。ただいまからお店を開きます」


 まずは先着3名様のファイヤースターターを店に並んでくれた順番に販売する。他の商品の売り上げは落ちてきたが、このファイヤースターターに関してはいつも店が開く前に3人のお客さんが並んでくれている。


 そして今日はここからが本番だ。いよいよ我がアウトドアショップによる商品第2弾の販売が始まる。ここからが俺の腕の見せ所である。


「さあさあ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! ここは冒険者の始まりの街であるアレフレア! いつ何時も駆け出し冒険者に味方する、みなさんのアウトドアショップが、方位磁石に続く新たな商品をお送りするよ!」

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