第31話 寄ってらっしゃい、見てらっしゃい


「おお、なんだなんだ?」


「おっ、ここはあの方位磁石を買った店じゃねえか。また何か新しい商品を売るのか!」


「あの方位磁石は便利だったものね、ちょっと見ていこうっと!」


 今回は前回と違ってある程度は店の知名度がある。そして昨日俺の体調が問題なかった時点で、明日から新しい商品を販売すると、昨日来てくれたお客さんに宣伝をしていたため、オープンした日よりも多くのお客さんが集まってくれている。


「足を止めてくれたみなさんに絶対に損はさせません! 今回はこのアウトドアショップで、みんなに癒しと元気を分けてくれる、看板娘のフィアちゃんが手伝ってくれま〜す!」


「よよよ、よろしくおします!」


「はい、みなさん、うちのお店の可愛い看板娘さんに拍手をお願いします!」


 パチパチパチパチ


「はわわわ……」


 多少噛んでしまったが、結果オーライだ。見ているお客さんも微笑ましく拍手してくれている。


「さて、最初の商品はこちら! 突然ですが、ここで問題です。この軽くて持ち運びも便利なこの筒状の物は、どうやって使うのでしょうか? ヒントはこうやって片側を口につけて使う物です」


 フィアちゃんが台の上に立ち、浄水器をお客さんに見えるように持ち上げたあと、水を吸うように浄水器の上に口をつける。


「それではそこのワイルドなヒゲのお兄さん! もしも正解したら無料で商品をプレゼントしますよ」


「おっ、俺か。そんじゃあ当ててやろうじゃねえか! ……う〜ん、あれだろ、どんな魔物も倒せような強力な毒がある吹き矢だろ!」


「そうそう、これさえあればどんな魔物に襲われてもイチコロで倒せる猛毒が……というわけではございません! 当店は安心安全を第一としているお店なので、そんな危険な道具は置きませんからね!


 とはいえ、そう答えてくれるんじゃないかと思っていました。だってどう見ても見た目は吹き矢ですからね、これ。しかしそれは世を忍ぶ仮の姿! これは浄水器といって、なんと川の水や湧き水を綺麗にして飲めるようにする魔法のような道具になります!」


「「「おおお〜!」」」


「賢い冒険者のみなさんなら当然知っていると思いますが、森にある湧き水や川の水をたくさん飲むと、お腹を壊したり吐き気がすることがありますよね? えっ、そんなこと全然知らなかったっと言うそこのあなた。大丈夫、実は俺もあんな綺麗な川の水が煮沸しないと飲めないなんて、つい数年前まではまったく知りませんでしたから!」


「くっくっく、さすがにそりゃ大袈裟だろ」


「いいぞ〜兄ちゃん、名調子!」


 ……いや、これは本当なんだけどな。都会っ子だった俺は、綺麗で透明な川の水ならいくら飲んでも大丈夫だと思っていた。川の水が身体に悪いことは数年前からキャンプを始めてようやく知ったのだが、どうやらこの世界の人なら誰でも知っている知識らしい。


「この細い管の中には、細かい汚れや病気の元になる物質を取り除く特殊なフィルターが入っております。そのため、川に直接垂らして水を飲んでもいいし、湧き水や雨水を水筒に汲んでからこいつで水飲んでもオッケーです。


 俺も数日前に試してみましたが、お腹を壊すことなくみなさんの前でこうしてピンピンしております! 森で水がなくなった緊急の際、川の水や湧き水をそのまま飲まなくてはいけない時にも、これさえあればより安全になります!」


「へえ〜、それは便利だ!」


「依頼の最中に飲み水がなくなって、引き返さなくちゃならない時もあるもんね」


「確かにそんなに大きな物でもないし、いざという時のために持っておいたほうがいいな」


「そんな便利なこの浄水器が、なんとたったの銀貨3枚での販売だ!」


「「「おおお〜!」」」


 ちなみにアウトドアショップでの仕入れ値は銀貨2枚なので、ひとつにつき銀貨1枚の儲けである。この浄水器はもっと高くても売れるとは思うが、方位磁石と同じで冒険者の生存率を上げられる商品でもあるから、駆け出し冒険者でも手に入りやすい価格にしておいた。


「えっ、この店にしか売っていないすごい道具がそんなに安くてもいいのかって? 当アウトドアショップは駆け出し冒険者を応援しているお店だからいいんです! どうしてもお礼が言いたいというお客様は、今度新しく店舗を借りて、もっと大きなお店を出す予定なので、ぜひそちらもご贔屓ください!」


「いいぞ〜、兄ちゃん!」


「贔屓するぞ〜」


 こうやって新しい店舗を出す宣伝も忘れない。


「ありがとうございます! ただしこちらも方位磁石と同じで注意点がございます。まずフィルターが少しずつ劣化していくので、300回ほどの使用回数制限があります。


 そして、この商品は汚れや病原菌を完璧に取り除くものではないので、泥水や汚れきった水までは飲むことができません。また、水が完璧に安全になるという保証まではできないので、普通よりも安全に水が飲めるようになる道具としてお使いいただければと思います」


 つまり、より安全に水が飲めるようになるだけなので、体調を崩しても保証まではできないよ、ということだ。俺は大丈夫だったが、他の人が全員大丈夫という保証もない。どんなクレーマーが来るかは分からないから、念には念を入れておかないとな。


「そりゃまあ限度はあるだろ」


「方位磁石やカラビナはとても便利だったし、今回も信用はできるな」


 方位磁石の件もあって、この店の信用性も多少はある。もしかしたら、いきなりこの浄水器を売っていても、あまり売れなかったかもしれない。


「ご理解ありがとうございます。そして最後にですが、看板娘のフィアちゃんが使用したこの浄水器は、金貨100枚を積まれても売ることはできませんので、どうぞご了承ください」


「ふえっ!?」


「くっくっく、そりゃ残念だな」


「ふふ、残念ね。フィアちゃんが使ったのが欲しかったわ」


「はわわわわ……」


 顔を真っ赤にして慌てるフィアちゃん。お客さんもフィアちゃんのいじり方が分かっていらっしゃることだ。

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