第30話 月巫女編 怪気術

出雲を目指す蒼蒔たち一行。

「ぼく水無くなっちゃったから汲んできていいかな?」

「あぁ、そうだな、少し休憩にするか」

近くの川へ竹筒を持って走る幽姫。

「うわ〜綺麗な川だな〜」

清く澄んだ水を手ですくって一口飲む。

「冷たくて美味しい!!走り疲れた身体に染み渡る!!」

竹筒を沈めて水を補充する。

ガサッ!!

木の影からいきなり怪異物が飛び出してきた。

「ひぃぃ!蒼っ!むぐっぐぅ、、んー、、」

叫ぼうとしたが口を押さえられて言葉を発せない。

大きさは人間の大人程であり緑色の身体は全身がシワで覆われている。

口からは長い舌を出し下品に涎を垂らしていた。

怪異物は幽姫を片手に抱えると山の奥に飛び去っていく。

「ケケケ!久しぶりに上物の女が捕まったぜ!!」

「(この怪異物、人の言葉を話せるんだ)」

ジタバタと手足を動かす幽姫。

「コラっ!暴れるな!喰っちまうぞ!」

口を押さえていた手が離れる。

「僕は女じゃない!!」

第一声に否定する。

「んあ?お前から少女の匂いがするが?」

「僕は男だ!草餅のバケモノ!!」

「バケモノとはなんだ!俺は

下漏げろう】様だ!!よく覚えとけよクソガキ!」

「降ろせ!降ろせ!」

ジタバタジタバタ

「あーもううるさいガキだな、お前の名前を言え」

「嫌だ!秘密!」

「こいつマジで喰ってやろうか」

下漏は長い舌で幽姫の頬を舐める。

「ひぃぃ!ばっちぃ!!」

「んほぉ!柔っこくて白くてスベスベで幼くて美味そうだ」

「(蒼蒔、助けて、、)」

下漏は土で出来た大きな穴の前で立ち止まる。

「ここが俺様の巣穴だ。」

巣穴の奥へ幽姫を運ぶ。

「ひぃいっ!!」

一番奥に着くとそこには沢山の少女の蝋人形が置かれていた。

「どうだ!俺様の秘蔵作品は!」

「えっ!これって本物の人間じゃないよね??」

あまりにも緻密に精巧に作られた蝋人形。

まるで生きた人間をそのまま蝋漬けにしたようだった。

「ケケケ、人間だよ。元はな。近くの村から上物の美少女だけを集めてきたんだ。」

「えぇ!!気色悪っ!!」

「このガキ!俺様の崇高な趣味をバカにしやがんのか!!」

口を開き鋭い牙を幽姫に向ける。

「キモいったらキモい!!女の子ばっかり集めてるなんてキモい!!」

「コイツ!マジで今すぐ殺してやりたいが、お前は俺様の作品の中でも最高傑作になりそうだから傷つけないでやる、ありがたく思え」

「べーー!!だ!僕は作品になんかならないもんね!!すぐに友達が助けに来てくれるもん!」

「あーもう、うるさいガキだ!これだから生きてる女は嫌いなんだ!人形になれば静かで美しいのに!いいからお前の名前を言え!」

「嫌だ!バケモノに名乗る名は無い!!」

「名前を言え!」

「嫌だ!」


一方、休憩していた蒼蒔たち。

「近くの川に行ったわりには遅くないか?」

「たしかにな、ちょっと様子を見てくるよ」

川へ行く蒼蒔。

「っ!幽姫がいない!!」

蒼蒔が叫ぶ。

「なに!?どこへ行ったんだ?」

幽姫の怪気を探る。

「山の奥の方に怪気の気配が向かっている。しかも2つの怪気を感じる。」

「おそらく片方は怪異物の怪気だ。水を汲んでる時に襲われて連れ去られたのかも知れん。」

「追いかけよう!!」

幽姫の怪気を追って山の奥へ入っていく蒼蒔たち。


「名を言え!」

「やだ!」

「言えったら言え!」

「やだやだ!!」

「ふう、なんて強情な娘なんだ!」

「しつこいな!言わないったら言わない!!」

「やっぱり身ぐるみ剥いで痛めつけてから名を言わせようか」

牙をギラつかせて近づいてくる。

構える幽姫。

「おーーい!!」

その時、巣穴の入り口の方から蒼蒔の呼ぶ声が聞こえてきた。

「助けに来てくれたんだ!」

入り口の方へ走る幽姫。

「あっ!こら待て!!」

追いかけてくる下漏。

入り口の外へ出る。

「僕はここだよぉ!!!」

叫ぶ。

大勢の足音が近づいてくる。

下漏が追いついて幽姫の腕を掴む。

ガサガサッ!!

木の間から蒼蒔たちが現れた。

「幽姫!助けに来たぞ!」

「蒼蒔!ありがとう!」

「ケケケ、お前ら御手守師団とかいう連中だな、ケケ、怪気を感じるよ」

「知能の高い怪異物だな」

「俺はお前たちが大嫌いだ!俺の崇高な趣味を邪魔してくるからな!今ここで死ね!」

怪気かいきじゅつ蝋名ろうめい凝固ぎょうこ

「っ!怪気術使いか!」


怪気かいきじゅつ

知能の高い上位の怪異物が使用する特異な能力のことである。


「【幽姫】!【蒼蒔】!」

下漏が2人の名前を叫ぶ。

カチンッ!

2人の身体が蝋人形に変わる。

「ケケケ!男の方はバラバラにぶっ壊して川に捨ててやるぜぇ!」

二花ふたは、俺が殺るよ」

「あぁ、武二たけじ任せたぞ」

下漏に歩み寄る剛善。

「ケケ!バーカ!お前らも蝋人形にしてやるよ!!」

「やれるもんならやってみろバーカ」

「ぐぬぬ、俺にバカって言いやがったな!もう許さねえ!【二花】【武二】人形になれぇ!!」

下漏の頭を両手で掴む剛善。

「どうした?蝋人形にしてみろ」

「ケケ!?名前を言ったのに何で人形にならないんだ!?」

「冥土の土産に教えてやる」

【剛寂流・の手・がんかいあつへき

下漏の頭部がメキメキと潰されていく。

「グゲェェェエ!!」

「よく覚えとけ!俺の名前は武人だ。」

グシャァッ!!

頭部が潰されて粉々に飛び散る。

蒼蒔と幽姫の身体が人間に戻る。

「術者を殺したから術がとけたな。」

「ん!?俺は、どうなってたんだ?」

「あっ助かった〜なんかバケモノ死んでるし!」

「名前を呼ぶことで蝋人形に変える術だったな。仕組みが分かれば造作もない。」

「先を急ぐぞ」

再び蒼蒔たちは出雲を目指す。

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