第31話 月巫女編 鳥

出雲へ向けて出発してから10日が経った。

「だいぶ近づいたな」

「そうだな!みんなもう少しだ頑張ろう!」

「はひぃいい」

隊員たちに疲労が浮かんでいる。

町が近くにあれば宿を利用するが、無ければ野宿だからな、出来るだけ早く到着させるために基本走っているし日頃から訓練に勤しんでいる御手守師団の隊士であっても疲れるものは疲れる。

この先に宿場しゅくばまちがあるから今日は早めに宿に入って皆んなを休ませてやろう。かと剛善が考えている時。

黒い大きな影が一行を包み込んだ。

バサッ!

それは巨大な大鷲おおわしのような怪異物で一花を両脚で掴むと上空へ飛び上がった。

「きゃああああ!!高いぃいいい!!」

一花が叫び声をあげる。

「一花!!戦え!!」

剛善が上を見ながら叫ぶ。

「無理ぃぃいいいい!!助けてぇええ!!」

高いところが極度に苦手だからな。

俺は藍色の怪気を手に込める。

怪気を遠くまで飛ばして攻撃する技もある、しかし一花が暴れていて当たってしまう可能性もあるため使えない。

「美味しそうだ、特に膨らんだ胸がいい。脂肪がたっぷりで脂が乗って美味いんだ。」

怪異物がだらしなく涎を垂らしながら喋る。

「俺は【鳥隗ちょうかい】。俺は舌が肥えてるから胸の大きい女しか喰わねえ。」

「くっ!(高いところじゃなければこんなやつ瞬殺するのにっ!!手脚に力が入らん!!)」

早くしないと飛んで逃げられてしまうな。

怪気を手ではなく脚に込める。

跳んで近づくしかない。


【千年裏真流・じゅうの手・松風まつかぜ


蒼蒔は地面を蹴って高く跳び上がり木のてっぺんに降りた。

もう一度跳べばアイツに届くな。

【松風】

蒼蒔は鳥隗目掛けてもう一度跳んだ。

「男は肉が硬くて臭いから邪魔だカー!」


怪気かいきじゅつ矢羽根やばね


鳥隗の無数の羽が弓矢のように鋭く蒼蒔に向かって放たれる。

くそっ!空中じゃ全部は躱せない!当たる!


【白雲流・の手・遠鼓えんこ


幽姫が手を叩き放たれた白い怪気が飛んでくる羽根を包み粉々に砕いた。

「いいぞ!幽姫!」

「やっちゃえ!蒼蒔!」

俺は鳥隗の真後ろに近づく。

手の指が藍色の怪気で満たされる。


【千年裏真流・拾参じゅうさんの手・初音はつね


ザシュ!!

鳥隗の両翼と首を切断する!

「グカァー!!」

「キャアァアァア!!落ちるぅううう!!」

掴んでいた脚を離された一花が落下していく。

「ひぃいいいい!!いやぁぁぁあ!!!」

「任せろ!」

剛善が落ちてきた一花を受け止める。

「うぅう・・・私生きてる?」

「ああ生きてるぞ」

剛善が一花を地面に降ろす。

着物の袖で涙を拭う。

「ふんっ!呆気ないやつだったな!」

威勢を張ってみるがまだ脚がガタガタと震えていた。

蒼蒔が木の上から飛び降りる。

「一花ちゃんって相変わらず高いところ無理だね。小さい時に鬼ごっこで追いかけられて木に登って降りられなくて泣いてたことあったよねー」

「うぅ、そんな子どもの頃の話をするな」

「まだ俺と一花が御手守師団に入団したばかりの時に同じように空を飛ぶ怪異物でその時一花が・・・」

「あぁあ!!言うな!それ以上!」

一花が剛善の言葉を遮る。

何その話すっげー気になる。

「なんすか一花姉さんになんかあったんすか」

「それがな、思い出しても笑っちゃうんだがな・・・ふんどしが・・・それで・・・怒られて・・・自分で・・・だったんだ」

「あああぁあぁああああああ!!もういい!!先行くぞ!!」

一花の絶叫でほとんど聞こえなかったな。

後で剛善さんからコッソリ教えて貰おう。

うん、絶対に。

ご立腹の一花を先頭に俺たちは先を急いだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る