10.王子10歳・秋。誕生日。

「アリサ殿、二十歳の誕生日おめでとうございます」

「クレイグ様、わざわざお仕事中にありがとうございます」


 差し出されたのは一本の赤いバラ。白い紙に包まれただけの簡素なものだけれど、祝ってくださる気持ちが嬉しいです。


「それ、なに」


 そのままオースティン様の部屋に入ると、王子はむっと口をへの字に曲げてしまわれた。


「今そこで、クレイグ様にいただいたんです。私、今日誕生日でして」

「知ってる。二十歳だよね」

「はい」


 この国では二十歳にも盛大な祝いをするのです。といっても私は養女だし、ほかにたくさんの義兄弟がいるので、家ではおめでとうの言葉とプレゼントだけでしょうけど。

 オースティン様は私に背を向けると、慌ててなにかを隠しています。


「どうされました?」

「わ、見ちゃだめ!」


 だめと言われると余計に気になるんですが?

 グイッと覗き込むと、一本の赤いバラが目に入りました。


「……バラ? もしかして、私に、ですか?」


 オースティン様は私から目を逸らしたまま、悔しそうな顔で頷いてくださいました。

 そっか、贈り物が被っちゃって、つらかったんですね……。

 私の口元には笑みが、そして目からは涙が押し寄せてきます。


「くださいますか?」

「アリサはクレイグにもらったやつがあるんでしょ」

「オースティン様のバラも、欲しいのです」


 そう言うと、オースティン様は振り返ってそのバラを渡してくださったのです。

 少し照れ臭そうに微笑んでいるその姿は、あなたの方を愛でたいくらいに可愛らしい姿でした。


 そのあと、オースティン様とクレイグ様が、二人並んで庭師に怒られている姿を見かけました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る