融合体

「ドクター、ビスケットドクター。コールドスリープルームへ向かってくれ」


 通信器から聞こえる、カールの声にビスケットは、嫌な予感しかしなかった。


『奴が、ドクターと呼ぶ時は、たいていヤッカイ事だ』


 しかし、予想外にその部屋は、平穏に包まれていた。

 数多い星の人々全員が、コールドスリープ中だった。

 

 その昔、航宙船には、必ずコールドスリープ室はあった。

 その頃の航宙船が、光速を超えてから、糖度3の壁を超えることが、なかなか出来なかったのだ。

 メロンシロップ号の速度は、糖度7。

 

 コールドスリープ室は、メロンシロップ号にも、もちろん設備としてはあるだろう。

 しかし、使われたことがないはずだ。


「カール。移植民は、ほぼ全員いるが、シフォンの名は無いぞ。彼女だけがいない」


 ドクターがディスプレイを確認している。


「船長、移動体発見。船内です」


 ミスタースイートが、ショルダーバッグ型のセンサーを覗き込んでいる。

 スイートの指さす方向から現れたのは…、

 シフォンだった。


「シフォン」


 カールが、不用意に近づこうとするところをミスタースイートが止めた。


「船長。あれはシフォン博士ではありません。センサーは、機械と人間の融合体と表示しています」


「確かに、医療トリコーダーの表示も人間ではないな」


 ドクタービスケットが、追認した。


「どういうことだ?」


 カールの目には、あの頃のままのシフォンに、見える。


「この人間の身体を吸収した」


 シフォンが、話しだした。

 

「この艦船を吸収するには、原始的過ぎるので改造する必要があると判断した。そのためには、不合理な存在の炭素体の力が必要であった。他の炭素体を守るため、この炭素体は自己犠牲という非論理的行動を行い、活動停止したので、強制融合を行った」


 ミスタースイートが付け加えた。


「船長、彼女と移動体との分離は、不可能です」


 トレーラー艦、メロンシロップのコールドスリープルームの照明は、人の目に優しい柔らかな光をカール達に提供していた。

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