衛星ポテチ

 航宙日誌、お菓子歴、砂糖大さじ二杯。

 辺境の太陽系、ヤツハシに侵入。

 ヤツハシの第三惑星周回軌道には、全長5キロメートルの巨大な砂糖のコンテナ反応がある。

 しかし、コンテナを曳くトレーラー船のメロンシロップ号の反応は、無い。


「グミ操舵士。第五惑星衛星、衛星ポテチへ、向かへ亅


「座標、第五惑星衛星ポテチに固定。マドレーヌエンジン出力80パーセント。到着まで、2時間」


 ミスタースイートが、右眉を上げた。


「船長。その衛星に、キントキ連合の施設は、ありませんが」


「青春の思い出というやつかな?ミスタースイート、君にもあるだろろう?」


 カールの唐突な話をスイートは理解出来なかった。

 折れた耳が、微かに動く。

 恋愛の話なのだから、無理もない。


 もちろん、論理を重んじるバターサンド星に、楽しい恋愛時代はない。

 すべての人間の遺伝子情報を記録された、コンピューターが選ぶ相手。

 確かに優秀な人材が続々と生まれる。

 しかし、バターサンド人に、楽しい恋愛時代は存在しない。

 ミスタースイートの存在は、バターサンド星では、不幸な事故と呼ばれていた。

 しかし、カールは信じていた。

 ミスタースイートのウサ耳の右側が半分折れているのは、地球人の血を引く者であり、彼の心の奥底には熱い感情が、存在していることを。


 カールが士官学校時代、シフォンは、当時まだ若く美しい化学教師だった。

 美しい彼女を見た若かりしカールが恋に落ちるのも無理なかったが、彼女の立場上もちろんそのことは秘密だった。

 秘密でも、惹かれ合う男女は、ふたりの距離を少しでも縮めようとするものだ。

 秘密を守るため不自然でなく、彼女とふたりになれる場所は、意外に校内にたくさんあった。

 最短距離で移動出来る人気にんきのある通路のそばの少しだけ遠回りになってしまう人気ひとけのない通路。

 授業中の教室の隣の使用されていない教室。

 特に、化学準備室は使いやすかった。

 化学実験中の隣の教室は騒がしいが、すでに実験中の場合、準備室は見向きもされなかった。


 目立つものの、そばに隠れる。

 彼らの恋は、日々スリルに満ちたものだったのだ。


『あのスリルが、若い恋をさらに燃え上がらせる要因に……』


 カールの胸に甘酸っぱいものが、蘇る。



 謎の敵や、モンブラン帝国の戦艦は、当然、ヤツハシ太陽系の最も巨大な惑星は、真っ先に探しに来るだろう。

 しかし、その衛星までは、見落とすだろう。

 次の惑星の調査を優先するはず。

 あのシフォン・ケーキならそう考えるとカール船長は、推理した。


 衛星ポテチの周回軌道上にアンアマイ号を乗せると、全星センサーを使用。

 衛星と言えど、この太陽系の第3惑星の地球と同じ大きさのある星。

 その巨大な山脈の側に擬装したメロンシロップ号を見つけた。


「メロンシロップ号にレーザー通信」


 キャンディー通信主任に指示する。

 

「店長、いや船長、応答がありません」


「降りるぞ。ミスタースイート一緒に来てくれ。キャンディー主任、ビスケット医療主任を販売室、いや、転送室へ。グミ主任ブリッジは、任せる」


 転送室では、不機嫌そうに、ビスケット医療主任が、カールを出迎えた。


「たしか、下にはシフォン・ケーキ博士がいるはずだな。学生時代の続きか?お前たちのアリバイ作りに、どれだけ協力させられたと思っている」


 ミスタースイートが、右眉をあげる。

 カールが、士官学校同期の医療主任に説明する。


「ビスケ、これはお菓子屋さん組合の命令だよ」


 

 保安要員のふたりを含め、5人の姿が転送室で、光の粒に変わると、同時にメロンシップ内に5人の姿が現れた。


 船内には、人影が無かった。


 大型のメロンシップ内で、人の姿に出会わない事は、珍しくない。



 

 



 

 

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