シュガー・トレック
@ramia294
ヤツハシ太陽系
宇宙。
それはお菓子に残された最後のフロンティア。
そこには、お菓子屋さんの想像を絶する新しい味覚、新しい香りが待ち受けているに違いない。
これは、お菓子屋さん組合、最初の試みとして、5年間の調査飛行に飛び立った、ドラ焼き型宇宙船アンアマイ号の驚異に満ちた物語である。
航宙日誌、お菓子歴、砂糖大さじ一杯。
船長記録。
キントキ連合太陽系の地球から、糖度9のスピードで一週間。
お菓子屋さん組合から命令された調査宙域に近づく。
我々キントキ連合と敵対するモンブラン帝国宙域とロールケーキ共和国宙域に接するワタガシ銀河は、キントキ連合宙域だ。
ワタガシ銀河内の辺境の太陽系、ヤツハシから、SOSが発信されたのが、ひと月前。
当宙域にて、モンブラン帝国の戦艦が、消失したのが三週間前。
強力なモンブラン戦艦がチョコの包み紙を引き裂くように簡単に撃沈。
モンブラン帝国は、協定違反のキントキ宙域侵犯には、言及せず、キントキ連合の攻撃であると一方的に決めつけ、時限付き宣戦布告。
事態を甘くないと見たお菓子屋さん組合は、最新の装備を持つアンアマイ号に調査を命令した。
辺境太陽系のキントキ連合基地から、脱出してきたシャーベット級トレーラー艦メロンシロップ号の救出を第一優先に、事態調査とモンブラン帝国への対応が、今回の任務である。
以上。
船内を縦横無尽に走るパイナップルエレベーターのドアが開く。
ブリッジを覆う全天周モニターの星の光が、線になって飛んでいく。
操舵士のグミ・グレープが、言った。
「店長、いや船長。ロールケーキ共和国の陰謀ではないでしょうか?」
チーズ・カール船長は、頷く。
「もちろんその可能性も高い。しかし、証明しなければ、モンブラン帝国は納得しない。このまま全面戦争になる」
副店長、いや副船長で、お菓子開発主任のバターサンド星と地球人のハーフであるミスタースイートポテトが、冷静に自体分析をする。
有能な彼の事を、船内では尊敬を込めて、ミスタースイートと呼んでいる。
バターサンド星の人間は、外見上地球人と変わらない。
たったひとつを除いては。
彼らは、通常の耳とは別に、ウサ耳を持っている。
これは、耳というよりも感情表現のための器官らしい。
何よりも論理を重んじるバターサンド星では、ウサ耳がいつもピンと立ち、動かないことが、価値ある事とされている。
感情に左右されず、論理的思考に、自らの身を置いている証拠らしい。
「モンブラン帝国の戦艦は、強力です。彼らの戦艦に対する我々の優位点は、エネルギーのアンコの精製技術だけです。その彼らの戦艦をチョコの包み紙の様に、簡単に引き裂く技術がロールケーキ共和国にあるとは、思えませんが」
ミスタースイートのウサ耳は、動かない。
ただし、地球人とのハーフの彼は、片方が常に折れている。
艦長、いや店長、いやカール船長が言った。
「とにかく、モンブラン帝国の航宙艦が消えた宙域に行ってみるしかないな。その前に、メロンシロップ号救出だ」
カールの心の中には、不安でいっぱいだった。
メロンシロップ号には、カール船長のかつての恋人、シフォン・ケーキ博士が乗っているはずだった。
この宇宙には、良質の砂糖を産出する星が、いくつかあるが、ヤツハシ太陽系の第3惑星、コンペイトウもそのひとつ。
その全てが砂で出来ているのかと思える、白く広大なグラニュー大陸は、砂ではなく、全て良質な砂糖だった。
キントキ連合のモンブラン帝国やロールケーキ共和国に対する優位点。
高エネルギーアンコ精製には、このコンペイトウ産砂糖の存在に頼るところが、大きかった。
その存在は、キントキ連合のトップシークレットだった。
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