第16話 めぞん一刻の響子さんじゃないのよ
とんとん拍子に話は進んで、半年を待たずにおたがいの結婚の意志がまとまった。
最初に進行性の病気で、目に障がいがあるとは伝えていた。
病名は円錐角膜。角膜が突出する原因不明の症状が、30歳を過ぎる頃までゆっくりと進行する。日本での発病率は、約1万人に1人程度、男女比はおよそ3:1で男性が多い。
私の場合、裸眼だと右目は重度なので、1センチの距離に近づけても識字できない。左目は中度なので、10センチまで近づければ読める。
角膜が歪んでいるので、メガネでは視力矯正できない。専用のハードコンタクトレンズを使用すれば日常生活は送れる。
角膜の経年劣化でレンズが将来的に入れられなくなる可能性があり、そうなればふつうの生活は不可能となる。(手術する選択肢はある)
コンタクトを入れても右目は物が三重に見え、光が乱反射するので昼夜ともに見えづらい。左目は酷使しすぎてレンズによる角膜の摩耗で視界がうっすら白化している。飛蚊症とともに左目の中奥に網膜の歪みがあり見えにくい部分が生じ、見える部分で見ようとするため常に視線が揺らぐせいで、めまいや頭痛の症状が出ることがある。
それから、婚約破棄をした経験があるという話は、もうすこしあとになって告げた。
居酒屋でお酒を飲んでいる時にその話が出て、彼が
「俺はね、めぞん一刻(高橋留美子著)の響子さんが好きなんだよ」
と言い出した。
「あの作品の最後のほうの話で、五代くんが響子さんの前夫である惣一郎さんの墓前で、語りかける場面があるんだよね」
私はめぞん一刻の漫画とアニメは観てなかったので、詳しいところはよくわからないのだけど。
彼の思い出語りから抜粋すると、こんな場面があるそうだ。
・五代くんの背後で響子さんが見守っている。
・五代くんは、惣一郎さんの墓前で宣言する。
「響子さんは惣一郎さんと過ごした大事な時間があって、その時間があったからこそ、いまの響子さんがある。だから響子さんのなかにいる惣一郎さんを引っくるめて、まるごと響子さんをもらいます」
(正確なセリフは、「初めて会った日から響子さんの中に、あなたがいて…そんな響子さんをおれは好きになった。だから…あなたもひっくるめて、響子さんをもらいます」。)
俺はあのシーンが大好きでねぇ、と泣くんですよ。
いまだに高橋留美子の作品は、『うる星やつら』と共に大好きらしいんだけどね。
なんでその話が出てくんの、とも思わなくもなかった(破談だから再婚じゃない、ってそうじゃない)けど、気持ちはすごく伝わった。
同時に「俺はべつに自分の子どもでなくても大丈夫」とも言ってた。
「目が見えなくなっても、俺が目のかわりになって最後まで面倒見るから」
いったい、どれだけ心が広いんだ。
* * *
一緒に沖縄旅行にでかけた。
すごく楽しかった。
宿泊したザ・ブセナテラスは、それはもう豪華で、素敵なリゾートホテルだった。
そこでプロポーズを受けた。
彼の自宅へ挨拶に行った。
お祖母さんがとても温かく接してくれて、すっと家族のなかに招き入れてくれたように感じた。
ご両親にご挨拶したら、お義父さんになぜか宗教を問われた。
両親が墓を持っているからそこの宗派ではありますけど、特にどこという特別はありません、と答えた気がする。(親族が某宗派のため、帰依がないか確認だけはしたかったらしい)
結婚が決まった時に、ふたりでオーネットの退会をしに行った。
彼は入会して半年経ってなかったので、お祝い金として会費の返金があったと記憶している。
彼の担当アドバイザーに報告したら、結婚式に参加しましょうか、と申し出を受けた。どうやら、ぜひ出てほしい、という会員もいるらしい。
招待客の数もかなりいたし、結婚相談所を通じて出会ったとは公言しにくくて、せっかくだけど丁重にお断りした。
彼が勤めていた会社から、福利厚生の一環として結婚祝いにホットプレートをもらった。
みっつの選択肢があって、使い勝手がいいからと選んだ気がする。
そのホットプレートも20年使ったある晩、いざお好み焼きを!と準備万端で通電したら、突然接続部が焦げ出してお亡くなりになってしまった。
慌てて夜の7時に車で家電量販店行って、ちょうどコロナ禍に入ったころで家族料理が流行っていたのか人気商品が品切れになっていて、次に売れ筋だったホットプレートを購入した思い出。
2021年の年末に冷蔵庫が力尽きて保冷しなくなってしまったのを最後に、新婚当初に購入した家電はすべて交換となって、現在は結婚してから買い直した新しいものとなった。
結婚式まで半年先となってアパートを決め、彼がひとりでしばらく暮らしていた。
じつはすぐにでも籍を入れろ、と母がうるさくて、いいよ、という彼の二つ返事で一緒に暮らしてもいないのに、結婚式の3ヶ月前に入籍した経緯がある。
とにかく、ずうっと言い聞かされてきた話がある。
母の同僚でもあった、友人の話だ。
その友人の結婚が決まって、お相手の男性は小学校の先生だったと言う。
当時は、ご時世的にいろいろ
今でこそ家庭訪問なんてものはなくなり、先生が家を確認してチャイムを鳴らして在宅を確認したら帰る、という形式になっているけれど。
50年ほど前は、一軒一軒回って、お茶とお茶菓子が出て、30分から1時間ほど家族と談笑するのが当たり前だった時代があったのだ。
しかも、飲酒運転も当たり前の時代だったので、回った家庭の先でビールをすすめられてしまい、アルコールを口にした状態でバイクに乗り、次の家に向かおうとした道すがら、電柱に衝突して亡くなってしまったのだった。
友人はまだ籍を入れてなかったから、と母は何度も私に話した。
あの時、籍を入れていたら。
その友人は、その後ずっと独身を貫かれて近年傘寿を迎えられた。
うーん。
正直ね、なんで私たちがその無念を晴らさなければならんのか、わからんようなわかるような……別にいいけど。
素直に親の言いつけを守った自分も、なんなん?って言えばそうなんだけども。
よくも、彼のご両親がなんとも言わなかったもんだなあ、と今にして思う。(なんで?と思ってたかもしれないけど)
式を挙げて、一緒に暮らし始めた頃、夫に言われたのね。
どうも私が遠慮しているように感じたらしい。
「喧嘩したって、きみのこと嫌いにならないよ」
その言葉に、すごく安堵したのを覚えている。
今ではたまーに怒鳴り合いの喧嘩して犬が怯えることもあるけど(⌒-⌒; )、翌日には仲直りして仲良くやってます。
「おかあさん(私)が趣味」と公言して
色々あったけど、夫と出会ってからのほうが自由にさせてもらっている。
次女が生まれて1ヶ月でお空に還ってしまったときも、時間をかけて乗り越えることができたのは、そばにいてくれたのが夫だったからだと心から感謝している。
いつも優しく誠実に、私を人間扱いしてくれてありがとう。
✳︎ ✳︎ ✳︎
そうだ、最後にひとつだけ白状しときます。
実は、もうひとつの結婚相談所(ツヴァイ)はオーネットを退会してからも、しばらく放置してました。
もし、また破談になったら、と不安だったのよ。
用心して、万が一の対処法を残しておきたかったんだよね。夫とお付き合いをはじめた頃に活動休止届を出していたので在籍だけしてた状態だったし、さすがに入籍前には退会したけど。
黙ってて、ごめんねごめんね〜 (・ω≦) テヘペロ
おしまいっ!!!
おまけとして、オーネットの月刊誌に載った記事を転載しておきます。
次ページに続く。
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