第25話 6月14日 日曜日

 昨日はK市まで遠出をしてそのあとは学習センターで吹奏楽部の演奏を聴き疲れて家に帰ったはずなのにポストが気になってあまり眠れなかった。

 

 それでも昨日は昨日で意外と充実した一日だったのかもしれない。

 吹奏楽部が秋山さんが好きなアイドルの曲を演奏していて秋山さんに教えてもらっていなければ僕はなんの曲かわからなかっただろう。


 そんなことを頭に過らせまるで受験結果の発表のようにポストのとろこまで行き颯爽と銀色のふたを開いてみた。

 えっ、封筒が二枚のままで増えてない。

 これはこれで思考が止まってしまう。


 休日はしっかり休むのか? これでまたどうしたらいいのかわからなくなった。

 スパムメールも事業としてやってる場合ゴールデンウィークのような長期休暇にはメールが届かなくなるというし。

 とはいえやっぱり詐欺の確率は低い気がする。

 なんだかすっきりしないままで家に戻った。

 そのあと、もう一回布団にくるまりゴロゴロする。



 気づけば寝てしまったようで昼近くに起きた。

 今日も外出の準備を終え電話ボックスに向かう。

 受話器を手にし、十一桁の番号を押した。 


 「あっ……」


 「もしもし拓海くん?」


 「はい。昨日はありがとうございました」


 「どうしたの?」


 僕は自分から電話をかけておいて気づいた。

 今日、菊池さんはカレンダーどおりの休みの日だった。

 むしろ僕が今日電話してしまったことで余計な心配をさせてしまったかもしれない。

 話題を変えて早めにきりあげよう。


 「今、言ったばっかりなんですけど昨日はどうもというお礼を」


 「いやいや、いいのいいの」


 「要件はそれだけです」


 「そっかい。ありがとう。じゃあまた明日ね」


 「はい」


 話を終えるとテレホンカードの残りは「4」になっていた。

 僕はまた電話ボックスの周辺を見回した。

 U町にだって公衆電話はある。

 そう、彼女はもうここにくることはないんだ。

 

 でも、心の中で「今日は日曜日だから」とごまかしてみる。

 僕はU町にある公衆電話の場所を一ヶ所だけ知っていた。

 それはU町の国道沿いにある大手ドラッグストアの前の歩道のところだ。

 

 ……またなんとなく受話器上げてテレホンカードを入れた。

 ボタンの「1」を押して、また「1」を押す。


 受話器の向こうでブツブツと音がしている。

 ……やめた……僕は受話器を置く。

 電話機がどうしてやめたんだ?というふうにピピーピピーピピーと鳴った。

 

 公衆電話はテレホンカードを出し終えるととたんに静かになった。

 ここであともうひとつ「11」につづく「1」のボタンを押せば”約束かどうかわからない約束”が叶わなくなってしまう気がした。


 「111」にかけるのをやめて僕は「117」に電話する。

 電話口の向こうで人工の女の人が今の時間を告げてきた。

 刻々と時間が経過していきテレホンカードの残りは「4」から「3」になった。


 もうすこしだけ電話ボックスにいようかな? 理由はふたつある。

 家に帰って家のポストを開けるといやおうでもまたあの白い封筒のことを考えなくちゃならない。

 そしてもうひとつ。

 どうして彼女はそんなに急に消えてしまったのか?って気持ちが大きくなるから。

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