四話 フレンドのためにできること

4-1 友達が多い(らしい)フレンドの見つけかた

 あれから数日考えた末、結論を出した。


 自分では解決できないのなら解決できそうな相手に頼めばいい。餅は餅屋、友達作りは友達の多い人が適任である。大団円で終わるのなら他力本願でも問題ない。俺のレフィーニャさん像が壊れるのなんて些細なこと。


 ニャンタ:俺もスマホ版が気になるから聞いてみてよ。レフィーニャさんなら、ぼっちの俺とは違って簡単に聞けるでしょ

 レフィーニャ:聞いてみるけど期待しないで

 System:レフィーニャがログアウトしました


 長年レフィーニャさんと一緒に遊んでいたから、少なからず悪い人ではないのは確かだ。リアルでレフィーニャさんに会ったら事情を説明して、手助けしてもらえないか頼んでみよう。レフィーニャさんのことだ、上手くやってくれるはず。


 単純に一ノ瀬さんと喧嘩をしたから会いづらいというのもあるが、今までがおかしかったのだ。校内アイドルとぼっちが仲良くなるなんて普通ありえない。つまり普通の関係に戻るだけで、レフィーニャさんに丸投げしても実質ノーダメージである。


 翌日、珍しく昼休みを居心地の悪い教室で過ごしたが、レフィーニャさんらしき人物から話しかけられることはなかった。高校にいる間、誰も話しかけてこなかったのは言うまでもない。


 まるで俺の心を写したかのように、どんよりとした空から大粒の雨が降り注ぐ中、帰路についていると視線を感じた。振り向くと看板の後ろに何かが隠れた。残念ながら傘を差しているため隠れても無意味に近い。制服のデザインからみて猫乃瀬高校の女子生徒。


 期待に胸を膨らませながらリアルのレフィーニャさん(仮)に近づく。胸元に青と白のストライプのリボンが結んである長い黒髪の女子生徒。リボンの色で俺と同じ二年生だと知ると小さくガッツポーズをする。同級生ならレフィーニャさんの確率が高い。


「あー、その。こんにちは」


 つい緊張して無難な挨拶をしてしまった。小柄な体型で身長差があり、傘で隠れていて顔がよく見えない。それでも、まさか話しかけられるとは思っていなかったようで、驚いた表情を浮かべていることは伝わってくる。


 高校の制服を着ていなければ中学生……いや、小学生だと判断しただろう。鳳先生といい勝負かもしれない。同じことをどこかで思ったような気がする。ああ、そうだ。七海の友達の――


「七海の友達の、たまこっちさん……だよな。俺に何か用事?」

「……」


 返事が返ってこないが、このまま黙っているのは印象が悪い。どうしたものかと頭を悩ませていると、ふと、あることを思い出した。レフィーニャさんは俺がスマホ版のトラ猫ワルツを遊んでいる所を目撃した。つまり俺のクラスメイトである可能性が高い。七海のクラスメイトの、たまこっちさんは別人。期待が外れて肩を落とす。


 七海の友達なら一ノ瀬さんのファンクラブがらみの用事だろう。下級生にクソムシと呼ばれた経験から察した俺は安心させることにした。


「もう一ノ瀬さんには近づかないから、警告とかいらないよ。それに色々あって喧嘩したから俺は嫌われただろうし」


 言葉にすると胸がチクリと傷んだ。


 そんなハプニングがありつつも再び帰路につくが、なぜか今もなお尾行が続いている。立ち止まると一緒に立ち止まり、振り向くと電柱や建物の影に隠れてしまう。


 本人は隠れたつもりなのだろう。でも傘をさしているから尾行がバレバレなんだよな。話しかけてもまた同じことになりそうだ。ここは某ステルスゲームの敵兵のようなザル判定で乗り越えるか。それでも完璧な兵士になれない俺は、視界に入るとつい気になってしまい、何度か目が合ってしまった。


 しばらくすると、たまこっちさんの尾行が終了した。緊張の糸が切れて肩の力を抜く。自宅に到着して玄関前で鍵を探っていると、少し離れた電柱の後ろから長い黒髪が見えた。


「あの髪って……」


 なるほど。尾行を止めたのではなく、傘を差していると見つかるということに気づいただけか。制服が濡れていて色が濃くなっている。あの様子だと髪の毛も塗れているのだろう。七海の友達に風邪をひかせるわけにはいかない。はあ、仕方がない。俺は電柱に向かって声をかけた。


「ここ俺の家だから、せめて髪だけでも乾かさない? そのままだと絶対風邪を引くから」


 最初は警戒をしていた、たまこっちさんだが、くしゅんという可愛いくしゃみをすると、恥ずかしそうに頷いた。つい家に上げてしまったが、どうしたものか。俺の部屋に案内したものの、相手が無口だと中々会話が成立しない。


 これはそう、初めて歴戦王に挑む時のような緊張だ。七海に救難信号レインを送るべきか。いや、今は部活中だろうし機械音痴の七海が読めるかどうかも怪しい。それでも一抹の望みを賭けて七海にレインを送った。


「昴、さっき玄関で足音がしたけど七海ちゃんが来たのか?」


 脱衣場にタオルを取りに行くと、後ろから声をかけられた。振り向くと親父がドアからのそっと顔を出していた。知らない女の子を家にあげたと知られたら面倒だ。何か言い訳を考えないと。


「あー、さっき帰り道で会って、傘を忘れたみたいだから一緒に帰ってきたんだよ」


 嘘は吐いていない。名前を出していないだけ。帰り道で会ったのが七海だとは限らないのだから。我ながら完璧な返答だ。


「そうなのか。よし、せっかくだ。七海ちゃんに挨拶でもしておくか」

「いやいや、しなくていいから! 髪を乾かしたらすぐ帰る予定だから!」


 親父の肩を掴むと強引にリビングに押し込んでドアを閉めた。からかうような親父の声を放置してタオル片手に自分の部屋に戻ると、たまこっちさんは両手で持っている何かをじっと見つめていた。


 近づくとそれは一ノ瀬さんが羊毛フェルトで作ったテトのぬいぐるみ。いや、羊毛フェルトで作ったものだと言っていたか。かわいいものを小さい女の子が持つと映えるものだ。七海じゃないが、これは俺でも和む。温かい目で見守っていると、たまこっちさんが呟いた。


「アメちゃん」

「え、ああ。アメショのキャラの……」

「少し違うけど、にてる」


 トラ猫ワルツのアメリカンショートヘアの猫。それがアメというキャラクター。一ノ瀬さんは親戚が飼っている猫のテトをイメージして作ったから見た目が少し異なる。


「そのキャラが出てくるゲームって知ってる?」

「……ん。猫ワルツ」

「それ、シアンとラニーニャの猫ワルツのことだよな?」


 たまこっちさんがこくりと頷く。散々「トラ猫ワルツ」と呼んでいるが、正式名称はこちらのほうである。スマホ版はアプリのタイトルを短くしないとショートカットにタイトルが入らないため短くした。タイトルを知っていて、俺の後をついてきたということは――


 もしかして、レフィーニャさんなのか?




 ―――――――――――――――

 今回のゲームネタ【救難信号】


ひと狩り行こうぜ!」で有名なシリーズの、ワールドで登場したマルチプレイお助けシステム。ソロではクリアが難しい、または誰かと気軽にマルチプレイで遊びたい時に、クエスト中にパーティー募集をすることができる便利機能。

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