3-8 ふれんどりーふぁいあ!
「ゲームで長く一緒に遊んでいるフレンドがいるんだけど、そのフレンドに嘘を吐かれていたのを知って、それ以外にも嘘を吐いているんじゃないかと、ずっと悩んでいたんだ」
「うーん。嘘なんて誰でも吐いていると思うよ。私も普段は猫をかぶっているし、秘密のひとつやふたつあるから。たぶん、その人にも隠すだけの理由があるんじゃないかな?」
秘密というのは許嫁がいることだろうか。それとも友達がいないこと。考えれば考えるほど疑心暗鬼に陥る。そもそも常に隠し撮りをされていて気づかないなんてありえるのだろうか。いや、ありえないだろ普通。どこかで気づくはずだ。
まさかファンクラブの存在を既に知っていて隠している?
「私の秘密のひとつは、仲のいい友達がいないことだったんだ」
「……だった?」
「今はほら、昴くんがいるから」
そう言われて悪い気はしないが、心の中でどう思っているのか想像すると素直に喜べなくなる。自分で猫を被っていると言っているくらいだ。校内アイドルという皮を被った腹黒キャラの可能性もある。
好感度を上げてから一気に落とすつもりなのかもしれない。俺みたいなぼっちと仲良くなり、ファンクラブに嫌がらせをさせて苦しむ様子を楽しむ。そんなことをしているとは信じたくないが、他人の心の中を覗くことなんてできないのだから、本当のことは本人にしかわからない。
俺の葛藤は全部無駄だったのか?
「いろんな人に頼られることが多くて、いつの間にか陰では天使なんて呼ばれちゃっているけど、頼み事を断らないのはみんなと友達になりたかったからなの。でも、中々上手くいかなくて……」
そんなの友達というよりも、手伝いをしてくれる便利な小間使いだ。自身をシンデレラに見せかけるための印象操作なら、危うく騙されるところだった。その頼み事というのはファンクラブのメンバーを使った
「一方通行の親切で友達にはなれないし、そもそも友達ってなろうと思ってなるものじゃないだろ」
「だったら、どうすればよかったの? みんな私のことを遠巻きに見てくるか、簡単な挨拶をしてくるだけなんだよ。そんな人たちと、どうやって仲良くすればよかったの?」
愛良が悲しげな表情でそう呟いた。これが演技なんだと考えると自分が滑稽に思えてくる。
「ぼっちの俺に聞かれても。
「……知らないよ、そんなこと」
「急にどうしちゃったの? なんだか怖いよ?」
「どうせ、俺にしたことを他の奴にもしてるんだろ?」
「昴くんに話しかけたのは、この前言ったように占いがあったからで。他の人には迷惑だと思うからしてないよ……もしかして、迷惑だった?」
「ああ、迷惑だった」
「……そっか。そうなんだ」
一ノ瀬さんは去り際に「ごめんね」呟くと第二美術室から出ていった。これも演技なのだろう。そう思いたいのに、どうしてもそうは見えなかった。
帰宅後、何も手につかずベッドの上で転がると時間だけが過ぎていった。深夜零時になると同時に、スマホに通知が届いた。それはカレンダーアプリに登録していた、楽しみだったはずの予定。
「……今日、発売日だったのか」
サービス開始初日は
悶々とした気分を発散するためにFPSゲームを始めた俺は、プレイヤー名を「nyanta」にして、早々にチュートリアルを済ませると戦場に飛び込んだ。毎日遊ぶのは疲れるが、FPSはたまに遊びたくなる中毒性がある。下手の横好きではあるものの、ランダムマッチングで同じチームになった仲間に迷惑はかけられない。開幕で索敵アビリティを使用してチームを支援する。
「げっ、降下中に他のチームが降りていたから薄々勘づいていたけど、ここって激戦区じゃないか」
ナイフすら持っていない素手の状態で戦ったら、すぐに
相手は一人、俺と同様にまだ素手の状態。銃撃メインのゲームなのに初めての戦闘が殴りあいで始まった。一進一退の激しい戦いと言えば聞こえはいいが、FPSの殴りあいは基本的には殴る、ジャンプ、殴るという格好悪い戦闘スタイル。そんな泥試合を索敵キャラの俺が開始早々繰り広げた結果――
「な、なんとか倒せた」
体力はミリ残りで危険を示す赤色になっている。キルされた仲間は復帰を待たずにパーティーを抜けて次の戦場に向かっていた。そして生き残った俺も戦闘音で位置を特定されて、そのまま漁夫の利された。
一試合目は銃すら使えず終了したが、勝ち負けなんて、その時の運。勝っても負けても楽しめばいい。それは分かっているが何かしらの成果を得たくて試合を繰り返す。コンコルド効果とは、このことを言うのだろう。
負けに負けて時刻は深夜を余裕で過ぎていた。その結果、集中力が完全に切れてクソエイムを連発。それでも今回は最後の二チームに残った。相手は一人で俺のチームは二人。人数的には有利。
それに味方は「yoyu」というプレイヤー名にするような人物だ。マッチングした時は「余裕」なんて名前にして自信過剰だなと思っていたが、その名に恥じることない神エイムで何度も窮地を救ってくれた。
これなら勝てるかもしれない。期待をしてエリア縮小の位置まで移動開始。索敵できそうな崖を見つけ、茂みに隠れて索敵アビリティを使用していると、いきなり襲撃を受けた。発射音と同時にヘッドショットが一発入り、咄嗟に回避行動を取って地面に伏せるとすぐに二発の発射音が聞こえてきた。敵の武器は三点バーストか。
攻撃された位置を確認すると、なぜか俺の後ろから。おかしい、そこは索敵したはずだ。くそっ、こんなときにバグかよ。
「射線上に入るなって、ピンク頭の隠れ巨乳も言ってなかった?」
は? ボイチャ?
届くのは同じチームの仲間だけ。つまり、この声の主は俺の後ろにいたyoyuという同じチームのプレイヤー。声からして女性。それに陽キャっぽいギャル風な喋り方で、煽るように言ってくるのが更にムカつく。
アーマーが削られていないということは味方からの攻撃。コイツ、三点バーストのスナイパーライフルを持っていたよな。俺は
このゲームは味方に射撃してもダメージが入らないとはいえ、無意味な射撃は敵に居場所を特定されるから、本来ならやる意味がない。
「射線上に入ってないんだが」
「そう? でもほら、勝ったから問題ないっしょ」
「何を言って……」
俺の言葉を遮るように勝利のファンファーレが鳴り響いた。FFされてから発射音は聞こえてこなかった。つまり、さっきの三発のうち二発が敵に当たったのだろう。射線上に入るなと言っていたが、俺のキャラと敵が平行になるように狙ったということだ。こんな芸当、わざとでなければ説明がつかない。
目指していた初勝利はそんな後味の悪い結果で幕を閉じ、ふと机の上を見ると、あるものが視界に入った。一ノ瀬さんから貰った羊毛フェルトのテト。トラ猫ワルツのゲームイラストを上手く再現している。ゲームをやり込んでいないと、ここまでのことは出来ない。
今まで一緒に昼休みを過ごしてきて、一ノ瀬さんが腹黒い性格ではないということは十分理解している。理解しているものの、ぼっちの俺が友達になったところで焼け石に水。なぜなら俺には一ノ瀬さんの問題を解決することも、手助けすることもできないのだから。
そんな葛藤から、ただただ解放されたかった。一ノ瀬さんからしてみれば意味もわからない一方的な行為だったはずだ。そうか、どうしてyoyuにFFされて無性にイラついたのかがわかった。俺も無意識にFFしていたのか。それを理解すると同時に自分が情けなくなる。
「……はぁ。何やってるんだ、俺は」
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今回のゲームネタ【FF】
ちなみにピンク頭の隠れ巨乳とは、神を喰らうゲームに登場する誤射姫。射線を確認しないで射撃するため、敵味方関係なく攻撃することで有名。
※ゲームネタの紹介と被ってしまったため次回予告は割愛します。これはここで書かないと二度と紹介できないので。次回、「一ノ瀬愛良とフレンド機能」完結です。
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