男の朝



 早朝五時丁度、神楽 政宗の朝は日の出前から始まる。



 目覚ましが鳴ったその直後、彼の豪腕は既に時計の脳天を叩いていた。その速さ、コンマ五秒のロス。




 無駄に冴えきった双眼は天井を眺めつつ、真顔で大きく背伸びする。




 ポキポキと骨が鳴ると、政宗は上半身を起こし肩を回した。



 それから至る所から異質な音を奏で、高級羽毛布団から飛び出す。




 まず初めにキッチンへと降りて、流し台の下の棚から愛用のプロテインを取り出す。その後、冷蔵庫から豆乳のパックを出し、洗浄済みの専用カップへと適量を注ぐ。



 後は目分量で、摂りたい分のプロテインパウダーをカップへとふるい落とすと、蓋を装着してレッツシェイキング。



 そのポージングはボディビルダーのそれ。バーテンがカクテルを作る動作と掛け合わせた他人に見られたくない瞬間第八位にランクイン。



 

 一方その頃、雪乃は愛用のアイマスクを装着し布団を抱き枕にして夢の中である。



 


 数十回混ぜ合わせて完成した新鮮なプロテインを一気に流し込んだ政宗は、その後自室に戻りランニングウェアに着替えると、イヤホンを装着し未だ薄暗い外へと飛び出した。



 毎朝のランニング、途中公園に寄って筋トレ。



 最近じゃ年齢制限を設けた安全な遊具。昔より背丈が低くなったブランコ。


 だいの大人には座れぬ幅の板は無視し、ぴょんと飛び付く先は、その上の鉄パイプ。



 少し太めなそれは凡人では掴まるどころ滑り落ちてしまう。



 だがしかし、筋トレ馬鹿の握力は、軽く林檎を握り潰せる程。



 敵意を見せる取引先の者と握手する際は、格の差というものを見せつける様に、相手を捻り潰す。その時の政宗の表情は、終始笑顔である。







 まあそれはさて置き、ブランコにぶら下がった政宗は、そのまま懸垂を始めると、遂に日が出てきた。



 眩い光に照らされて、ランニングで掻いた汗が、キラキラと輝く。




 一日のノルマ五十回。終盤苦しみ悶えながら終わらせると、全身汗でびっしょりだ。



 帰りは様々なステップを踏みながら帰宅する。



 ランニングシューズを脱ぎ、そのままお風呂へと直行だ。





 非の打ち所がない筋肉で覆われた屈強な肉体美。シャワーを浴びる姿には惚れ惚れしてしまうこと間違いなし。




 全身を隈無く洗い終えると、腰にタオルを巻いたまま、仁王立ちで髪を半分乾かす。


 その後は微妙に生えてきた髭を剃り、顎に手を滑られせて剃り残しが無いか確認を取る。



 黒髪短髪、男は黙ってジェル。手のひらに適量を出すと、髪全体に濡れ感が出る様に馴染ませ、コームで毛の流れを作りつつ纏める。



 七三分けが古い?流行ってのは、巡り巡ってくるものさ。



 ヘアセットが完了すれば、自室に上がりスーツに袖を通す。


 

 クローゼットに掛けられた何十着と在るスーツは、全てオーダーメイド品。



 本日は薄いグレーの気分だ。紺色に微かに刺繍が施されたネクタイを巻き付けて、はい完成。




 これが神楽 政宗の出勤前のルーティンである。





 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る