第136話 使命の最後に

 天界は騒然としていた。何とかクリエスがツルオカと戦えるように期待をした彼女たちであるが、結果は少しも想定していないものとなっている。


 予想される結末で一番可能性が薄いと思われる現実が選択されていた。世界は属性を覆し、魔王であったジョブを現人神へと昇華させている。


「そんな……?」


 ディーテは心からアストラル世界の救済を願っていたけれど、呆然としてしまう。


 世界という概念にも似た存在。それは最高神が最初の世界を構築した瞬間に生まれたという。幾つ創造したとしても必ず意志というべき世界が存在した。破滅へと向かうようにとち狂うこともあれば、土着神を生み出しては危機管理を行ったりもする。


「どうして……?」


 放心状態であるのはディーテだけの話ではない。シルアンナもまるで同じ心境であった。クリエスが更なる力を得るようにと神託を促していたのだが、どうしてか彼女の使徒は明確な神となっている。


「ディーテさまもシルアンナさまもしっかりするのですぅ。クリエスが戦う力を得たみたいなのですぅ!」


 どうやらポンネルだけはことの重大さに気付いていないらしい。彼女は悪墜ちした魂が善魂に復帰し、更には神格を得てしまう事実がどれほどの奇跡かを分かっていないようだ。


 しかしながら、ディーテは彼女の言葉に気付かされてもいた。今は呆けている場合ではないことを。


「シル、今回の事例は天上界に報告します。構わないですね?」


 使徒が魔王化したあと、現人神となったのだ。後にも先にもそのような事例はない。よって主神であるディーテには報告義務があった。


「クリエスはどうなるのです!? 彼の魂は救われるのですか!?」


 今もシルアンナの懸念はクリエスの魂である。よって彼女は報告よりも使徒の処遇について聞いた。


「いつまでも新人じゃ駄目よ? デバイスで確認してみなさい。クリエス君はもう魔王ではないのだから……」


 言われてシルアンナはデバイスに視線を向ける。もう何も映さなくなっていたそれを見つめていた。


【クリエス・フォスター】

【状態】アクティブ(寵愛)


 思わず息を呑んだ。加護が切れ、信徒たちの祈りを確認するくらいしかできなかったデバイスに使徒との接続が確認できていた。


「クリエス……」


 本当に現人神となってしまったらしい。もしも邪神を討伐したのなら、間違いなく天界はクリエスを喚び寄せるだろう。世界を救った神として天上界へと招かれるはずだ。


「ディーテ様、クリエスは世界を救えるのでしょうか!?」


 シルアンナに笑顔が戻っている。ずっと落ち込んでいた彼女は再び笑うことができた。


「ここまで来たのなら信じるしかありません。数多ある世界で邪神を唯一討伐したジョブを手に入れたのです。現人神クリエス君にアストラル世界を託しましょう……」


 頷きを返すシルアンナ。そもそも何とか戦えるジョブへの昇格を願っていたのだ。望んだこと以上の現実は浮き足立つ充分な理由であったものの、まだ勝利は確定していない。浮かれるのは世界を救ったあとであるべきだとシルアンナは思い直していた。


「さあ、愛すべき使徒たちの戦いぶりを見守りましょう。アストラル世界の歴史が紡がれる瞬間を見逃してはなりません」


 女神たちもまた緊張していた。先ほどと比べれば期待値は遥かに高くなっていたけれど、やはりツルオカが消失しない限りは安心できないのだと。


 天界の期待を一身に浴び、クリエスとツルオカの決戦が再開されようとしていた。



 ◇ ◇ ◇



「地獄へは一人で逝ってくれ……」


 クリエスはそんな風に返答していた。現状を問うツルオカに対して、行き着く未来を口にする。


「俺は現世を謳歌させてもらうよ。お前を討伐したそのあとで……」


 ツルオカはクリエスの話に何も答えなかった。一瞬にして雰囲気が一変した相手。魔王だったはずが、禍々しい魔力波は消え失せ、神々しさすら感じてしまう。


「そうか、貴様も昇華したのか。まったく世界に愛されている奴は楽でいいな?」


「悪いが、俺は女神にも愛されているんでね? もうお前には負けない」


 クリエスは強気に返している。魔王ではなくなり、スキルの殆どを消去されていたけれど、昇格したスキルはいずれもSSランクスキルなのだ。超回復を失ったとはいえ、負けるつもりはない。


「ならば決戦と行こうか。邪の神が勝つか聖なる神が勝つか……」


 ツルオカの話には何だか笑ってしまう。戦闘前に考えていた構図とはまるで違っている。現状こそが望む未来であり、クリエスはようやく到達したのだと思う。


「いくぞ、クリエス!!」


 初めてツルオカから仕掛けて来た。どうやら彼も分かったらしい。目の前にいる存在が一筋縄ではいかない相手であると。


「クッソ!!」


 目で追うのも難しかったツルオカの剣。しかし、神眼を得たからだろうか、クリエスは難なくいなすことができた。


「ツルオカァァッ!!」


 透かさず反撃を加える。神器ラブボイーンがツルオカの脇腹を捕らえた。

 刹那に傷跡から光の粒が漏れ出す。肉体を失ったツルオカは存在を構成する神力を撒き散らしている。


「いける!!」


 クリエスは追撃にて再び腹を斬り裂く。先ほどツルオカがそうであったように、クリエスは彼を圧倒していた。


「ツルオカァァ、消失しろォォッ!!」


 幾度となく斬り裂かれるツルオカ。完全に立場が逆転している。攻撃を受けるたびにツルオカは神力を失い、神としての力が薄らいでいく。


 何度斬り付けられただろうか。ツルオカはふらつきながらも立ち上がり、再び剣を構えていた。


「何て様だ……。私は千年も要して、ただの悪党として消えゆくのか……」


「今さら命乞いか? 生憎だが、俺はお前を許さない。千年後である現在の被害は全部お前の責任なんだ。てめぇさえ、ちゃんと勇者をしていたのなら、全ての悲劇は起きなかったんだよ!!」


 クリエスは声を荒らげていた。千年前に終息したはずの災禍。再燃したのは明らかにツルオカの責任であると。


「何も知らぬ小僧が粋がるな! 私は天界に裏切られたのだからな!!」


 劣勢と分かってもツルオカは剣を収めなかった。深い傷を負っていたというのに、クリエスに斬りかかっている。今もまだ彼は信念に基づき行動しているらしい。


「しゃらくせぇぇっ! 前世の後悔は反省して生かすべきだぜ!」


 ツルオカが間違っているとクリエスは疑わない。彼自身、前世の失態を今世において精算していた。だからこそ、他者を恨むのではなく、自身の非を受け入れるべきだと。


 再びクリエスの斬撃がツルオカを捕らえている。クリエスは完全に見切っていた。得られたスキルはほぼ全てが自動的に行使され、ツルオカの攻撃に合わせるだけで充分であったのだ。


「ぐぅぉぉっ……」


 切断された左腕からは再び光の粒が漏れ出していた。もう勝機などないことをツルオカも理解していたことだろう。


 左腕は直ぐに再生されていたけれど、確実にツルオカの存在は薄くなったはず。


「ふはは、笑える。これが差なのか。望み望まれ成った神と、自称するだけの神。私が成りたかったものに貴様が成ったのか……」


 クリエスは唇を噛んだ。こんな今もツルオカは何も後悔していない。突如として現れた障害が想定外に大きかったと考えているだけのよう。


「クリエス、一つ言っておこう。女神は貴様が考えるほど親身になっていない。私たち使徒は道具に過ぎないのだ。壊れたら次を手に入れるだけ。命を懸けて戦ってやるなんて無駄なことなんだよ。私がその茶番を終わらせてやろうというのに、貴様は盲信するのか」


 言霊を試すつもりなのかとクリエスは思う。彼が壊れた経緯を知らぬクリエスには策であるとしか考えられない。


「ツルオカ、能書きを垂れんな? 俺は煮えくり返ってるんだ。他の何を許しても、お前だけは許さない。さっさと地獄へ墜ちろ……」


 言ってクリエスは斬りかかっていく。動こうともしないツルオカを斬り刻んでいた。

 彼の神力が尽きるまで。永遠に続く罰であるかのように。


 もう既に態勢は決した。薄れゆく存在の神は人知れず消えていくだけであろう。


 ところが、二人が戦う場に、神々しい輝きが降り注いだ。

 瞬時に手を止めるクリエス。ツルオカもまた朦朧とした視線を向けていた。


「ディーテ様……?」


 まだ決着は付いていない。だというのにディーテが降臨している。彼女はツルオカに恨まれていることを知っていたというのに。


 ツルオカはクックと邪悪な笑い声を上げて、言葉を発している。


「ディーテ、無残にも斬り裂かれる私を笑いに来たのか?」


 女神は憎むべき相手。更には女神もまた自身を恨んでいる。明確な立場は降臨の理由をそんな風に感じさせていた。


「コウイチ、お久しぶりです。ワタシは別に笑いに来たわけではありません。寧ろ謝罪に来たと申しましょうか……」


 どうやらディーテはツルオカの最後を確信し、降臨したらしい。彼に伝える話があるのだと。


「まずは貴方を二度も転生させたこと申し訳なかったと考えております。貴方が何も語らなかった理由は後に調べさせてもらいました。女神イリアの愚行は詫びるしかありません。しかし、彼女は千年が経過した今も、まだ罰を受けております。どうか今際の時にまで彼女を恨まずにいて欲しいと考えておるのです」


 ディーテの話にツルオカは表情を険しくする。彼にとって今さらな話だ。世界の滅亡と女神の惨殺を決めた彼にとっては……。


「私を浄化するつもりか? 馬鹿にするな。私の恨みは簡単に解消できるものではない。それにイリアが生きていたとして関係ないことだ!」


「いいえ、関係は大ありです。なぜならイリアは貴方が天に還らなかったことで罰を解かれていないのです。世界を滅ぼした罪は五百年前に解かれたというのに……」


 どうやら女神イリアは二重の罰を受けていたらしい。世界を滅ぼしたこと。更にはどうしてかツルオカの魂が輪廻に還らなかったことを罪に問われている。


「なぜ私が輪廻に還らなかったことがイリアの罰になる?」


「貴方はレスバー世界を救った勇者でしたからね。貴方が世界と共に失われる直前、イリアは貴方に憎悪を芽生えさせました。その報告義務を怠ったからです。発覚したのは貴方がアストラル世界に転生をした一ヶ月後のこと。死後に強大な悪霊と化する恐れがあると管理局から報告を受けました。報告義務違反はそこまで重罪ではありませんけれど、貴方の魂を管理局が確認するまでイリアは沈黙の懺悔室という何もない暗闇に囚われたままなのです」


 第9048番世界レスバーが滅びてから千年。女神イリアは資格を剥奪されただけでなく、ずっと沈黙の懺悔室に囚われたままなのだという。


「ふはは、あの小悪魔らしい最後じゃないか? ウケるな……」


 無理矢理に大笑いしたあと、ツルオカは長い息を吐いた。


 悔恨と憎悪を全て吐き出すかのように。最後に残った純愛を確かめるかのように。

 小さく頭を振る。どこを見るでもなくツルオカが口にした。


「もう還る……。イリアを楽にしてやってくれ――――」


 期待したままの返答にディーテは笑みを浮かべている。

 これにて全てが終わった。そう確信するに足る返答に違いない。


「クリエス君、最後は破邪神滅を使ってください。それは現人神の固有スキル。邪神の存在を無に帰する術式です。身体を構成していた神格は失われ、溶け込んでいた魂が再び現れます。管理局員が速やかに魂を回収いたしますので……」


 ディーテがクリエスに指示を出す。一連の危機に終止符を打つべく話を。


 どうやらツルオカの魂は管理局により回収されることになっているようだ。邪神にまで成ったツルオカは抹消処分となるのだろう。


 はぁっとクリエスは息を吐いた。ようやく終わろうとしている。既にツルオカも覚悟をした今となっては見送るだけの仕事しかない。


「ツルオカ、覚悟したとして許したわけじゃない。この刀に見覚えはないか?」


 クリエスはドザエモンから譲り受けたラブボイーンを掲げている。千年から経過していたけれど、じっくりと見つめたならば思い出すのではないかと。


「あのジジイの刀か? お前はオルカプス火山に行ったのか?」

「ドザエモンに譲り受けたんだ。彼は地縛霊となって千年も俺を待っていた……」


 クリエスは説明するも、ツルオカは興味を示さない。自身の疑問を口にするだけだ。


「なるほど、イフリートを討伐したのか。どうりで昇華の力が足りないと感じるはずだ。しかし、オーブはどうして破壊しなかった?」


「あの頃の俺は本当に弱くてな。邪神竜にすら敵わなかったんだ。まあそんなことは良い。お前の師匠であるドザエモンの刀によって天へと還れ。然るべき処分を受けろ」


 本当に救いようのない男だとクリエスは思った。ドザエモンの愛刀ラブボイーンを掲げたまま、クリエスは最後のスキルを実行する。


「破邪神滅――――」


 言ってクリエスは愛刀ラブボイーンを力一杯に振り下ろした。


 全てが終わる。千年前から続いた災禍。この一振りにて終わらせるのだと。

 刹那に神の力が撃ち出されていた。目も眩むような輝き。神々しく目映い光は一瞬にしてツルオカへと直撃する。


 ツルオカは断末魔の声すら上げることなく、静かに術式の餌食となっていた。


 徐に存在を消失させるツルオカ。恐らくは苦痛を伴ったはずだが、彼は無言のまま全てを受け入れている。


 邪神という存在がアストラル世界から消失したあと、輝く光の粒を纏う魂が露わになっていく。


 時を移さず、ディーテの脇から二体の天使が現れた。それは瞬く間に露わとなった魂を拘束。恐らくは天界の魂管理局員なのだろう。天使たちは一言も発することなく、ツルオカの魂を連行していく。


 溜め息を吐くのはクリエス。現状は願ったままの未来であったものの、彼が旅路で失ったものも少なからずあったからだ。


「クリエス君、本当に良くやってくれました。まさか魔王から現人神に昇華してしまうなんて、想像すらしていない事象です。残りの人生を堪能して欲しいと思います」


 ディーテからの労いに頷きを返す。しかしながら、クリエスにはまだ疑問が残っている。


「ディーテ様、俺は世界と話をしました。まあ結果は見ての通りなのですが、あいつは俺の願いを叶えてくれると言ったんです。だからヒナが十八歳以降も生きられるようにと願いました……」


 今もまだ半信半疑である。世界が語った内容によると、ヒナの未来は既に開けているらしい。しかしながら、自身はもう魔王ではなくなったし、ヒナに魂強度を分け与えることができなくなっているのだ。


「でも、世界はもうヒナの未来が閉ざされていないと話していました。ヒナの制約は既に遂げられているのでしょうか?」


 疑問はそれだけだ。自身が余生を満喫するには彼女の存在が必要不可欠。自分だけが生き残ったとして、嬉しいとは思えない。


「あの急激な変化はやはり世界の仕業だったのですね? あの一瞬、恐らく君は世界という事象の中へ隔離されていたのでしょう。ワタシどもが観測できない異なる次元に。やはりクリエス君は世界に愛されていたのだと思います」


 ディーテはまずあの瞬間に起きた世界との邂逅について話す。観測不可能な空間にクリエスが囚われていたのだと。


「それでヒナに関してですが、残念ながらまだ制約条件を遂げておりません。まあしかし、君もヒナも世界に生きる者たち。ワタシたちよりも世界の方が良く分かっているはずです。世界がそう話すのでしたら、心配する必要はないでしょう」


 ディーテにもどうやってヒナが制約を遂げるのか分かっていないようだ。北部から南端まで移動したクリエスたちはかなりの時間を要していた。クリエスと同じ誕生日であれば、ヒナに残された時間はあと十日しかなかったというのに。


「そうですか……。一つ聞きたいのですけれど、俺は神なんですよね? 普通に生活して構わないのでしょうか?」


 ヒナに関しての問題が解消したとして、自身は神となったらしいのだ。人として生きていけるのか疑問が湧き立つ。


「ええ、問題ありません。魂こそ神核に溶け込んでおりますが、現人神や天使はジョブですからね。世界が定めた理に従うだけ。超常的なスキルを持ちますけれど、クリエス君やヒナは肉体に依存します。老いて失われたとき、真の昇華が待っていることでしょう」


 どうやらクリエスとヒナは今後も人族として存在できるらしい。ただディーテは超常的な力をあまり行使しないようにと付け加えている。エクストラヒールなど人前で使うべきではないと口にしていた。


 ディーテの身体が薄くなっていく。どうやら顕現する時間が終わりを告げたようだ。

 小さく微笑み、ディーテはクリエスに会釈をしている。


「クリエス君……いえ、現人神クリエス様、天界は貴殿が還られる日を心待ちにしております。多大なる功績について、最高神様はご一考くださることでしょう。死後に褒章が与えられる日をお待ちください」


 言って女神ディーテがアストラル世界を去る。満足そうに消えゆく彼女は最後まで笑顔であった。


 本当に終わったのだとクリエスは思う。天界のガチャに引っかかったことから始まった使命の数々。全てやり遂げたことを実感できている。


「クリエス様!!」


 誰もいなくなったかと思えば、甲高い声がクリエスを呼んだ。

 声の主は言わずもがなヒナであった。彼女もまた邪神ツルオカの消失を確認し、黄金の羽根を羽ばたかせてクリエスの元へと向かっている。


「ヒナ……」


 全ての懸念が払拭された今、ヒナの存在こそがクリエスの全てだった。

 空中に金色の鱗粉を撒き散らしながら飛ぶ彼女には表情を緩めるしかない。


「マジ天使じゃん……」

 

 勢い余って飛び込んできたヒナをクリエスは抱き留めた。

 もう痺れることはない。現人神となった今、二人に障害は残されていなかった。力強く存分に抱きしめるだけ。彼女の存在や温もりを確かめるように。


「ヒナ、俺は神になったよ」

「はい……。とても嬉しゅうございます」


「まあ、それで世界が話していたんだが、ヒナの制約はもう遂げられる運命にあるらしい。恐らく帰路に強大な魔物が現れるのだろう。ヒナはそいつにトドメを刺せばいい。成人したあとの世界を堪能しようぜ?」


 ヒナは頷きを返している。女神や世界、加えてクリエスがそう言うのだから、自分の未来もまた切り開かれたのだと思う。

 全てはクリエスのおかげ。世界が救われたのも、自分自身の幸せでさえも。


「クリエス様は本当に神様になられたのですね……」


 神格はヒナにも感じ取れたことだろう。再び彼の腕の中へと入り込んだヒナは実感したはずだ。女神と世界により彼が愛されていることを。


「クリエス様は全てに愛されております。でも女神様や世界様よりも……」


 ヒナは顔を上げ、クリエスを見つめながら言った。


「わたくしは深い愛を語れます」


 超常的な存在よりも。森羅万象全てを含めたとしても。

 ヒナには確固たる意志と揺るぎない想いがある。


「永久に続く時間と永遠に朽ちることのない想い。わたくしは全てを貴方様に捧げます……」


 クリエスは笑みを大きくした。

 やっと報われたのだと思う。前世から燻り続けた邪な願い。数多ある障害の全てを乗り越え、ようやく到達したのだと。


 クリエスはヒナと唇を重ねた。

 今度こそは本当に夢が叶ったのだと。腕の中にいる天使を手に入れられたはずと。


 温かい日差しが降り注ぐ荒野。二人は長い時間をかけて手に入れた安息の時間を確かめていた。この愛が辿り着いた未来をその身に実感している。


 この日、アストラル世界に再び平穏が訪れた。

 邪竜と魔王、そして邪神という前代未聞の災禍に見舞われた世界は二人の転生者によって救われている。


 煩悩のままに転生した聖職者と悪役令嬢になりたいと願って転生をした女子高生の救世譚。静かにその幕を下ろす。


 残念なる女神の使徒たちは今、明確に英雄となっていた……。





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次回は遂に最終回です!

四ヶ月に亘り毎日更新しました物語が大団円を迎えます。

どうぞ最後までお付き合いくださいませ!(>_<)/

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