第114話 新たなる力を
「決して許さぬ……」
谷底から聞こえる声。加えて地鳴りのような音。どうやら魔王ケンタは壁に足を突き刺しながら登っているのだと思われる。
「マジかよ。イーサがいたら、何度も落下させられるのにな……」
残念ながらイーサは姿が見えないどころか、言葉すら発しない。完全に休眠状態となっているのは明らかだ。
次第に音が大きくなっていく。明確にケンタはこの崖を登っているはずだ。どのような状態で登っているのか想像もできないけれど、魔王である彼は下半身が馬でありながら垂直の壁を登れるらしい。
「ヒナは有効なスキルを持っていないか?」
「いえ、わたくしは中級までの爆裂魔法と火属性魔法しかございません」
天使というSSランクジョブに期待したクリエスだが、ヒナは適切な攻撃魔法を持っていないという。
「なら、上がってくるまで腐食術をかけ続けるっきゃねぇか」
できることをこなすだけだ。反撃がない内にできる限りダメージを与えておくしかない。地上に戻ってしまえば、またも削り合いが始まるのだから。
小一時間ほどが経過し、ようやくとケンタの巨体が確認できるようになっていた。まだしばらくかかりそうであるが、油断は禁物である。
「ヒナは聖域を使ってくれ」
「いやしかし、クリエス様!?」
どうやらヒナも戦うつもりであったらしい。彼女はクリエスの話に首を振っていた。今度は自分も戦うのだと。
しかしながら、ヒナは思い知らされてしまう。
「お前が死ねば、俺が戦う意味はなくなる――――」
続けられたクリエスの話にヒナは息を呑む。
やはり天界で聞いたままだ。今もクリエスは何よりも自分を求めている。たとえ比較する対象が世界であったとしても。
「ヒナ、生きてくれ……」
どうあっても戦闘に参加するつもりであったが、ヒナは頷きを返していた。要所要所で向けられる彼の言葉は常に心を揺さぶったあと、溶け込むようにして気持ちを穏やかにする。
「クリエス様……」
「頼む。俺は必ず勝利するから……」
ここが今世の正念場であった。邪神が誕生していない現状において、クリエスの使命は魔王ケンタを輪廻に還すことだけ。それさえ完遂となればヒナと一緒に暮らす生活が始まるはずだ。
「腐食術[極]!!」
早速と腐食術を撃ち放つも、効いているのか分からない。何しろケンタは立ち止まることすらなく、ガスンガスンと大股で壁をよじ登ってくるままなのだ。
予想よりも随分と速い。何発も撃ち放つ余裕はなさそうだ。この分であると相当な深さから彼は戻ってきたのだと思われる。
「ふはは! 人族、俺様は不死身だ!」
息切れすらしていないケンタには溜め息しか出ない。切り札であったイーサの全魔力を投じたというのに、見た感じは何の効果もなさそうである。
「しかし、どうやって登ってきてんだ?」
足を一本ずつ壁に刺しているのなら、こんなにも速く登れるはずがない。
クリエスが魔眼を使用し目を凝らすと、
「マジ……?」
崖を登るケンタの全貌が明らかとなった。
何とケンタは五本の足を使用して登っていたのだ。五本目の足は言わずもがな股間に生えたモノであり、足と器用に刺し替えながら、弾むように岩壁を登ってくる。
少しばかり羨ましく感じるアレ強度。さりとて見とれている場合ではない。
「腐り落ちやがれぇぇっ!」
今度は股間に向かって腐食術を発動。一点集中とし、何とか再び崖下に落としてやろうと。しかしながら、ケンタのアレは強靭であった。確かに腐った感じはあったけれど、回復するまでの時間を耐え抜き、巨体が落下するのを防いでいる。
「何てやつだよ……」
尚も腐食術を連発するけれど、ケンタの上昇は止められない。最後は跳び上がるようにして崖を踏破してしまう。
「人族、お前は俺様を完全に怒らせた。慰みものとして死ぬがいい!」
「るせぇ! 俺は獣姦なんぞに興味ねぇんだよ!」
ケンタはいきり立ったアレを突きつけてくる。クリエスは男であったというのに、構うことなく腰を振った。
「汚えもん向けんじゃねぇぇっ!」
透かさず斬り落とすも、やはりケンタは超回復をしている。身体のどこを斬り裂こうとも同じことであった。
「タケノコ狩りとか趣味じゃねぇんだよ!!」
再び削り合いが始まっている。クリエスは攻撃に合わせ、その都度、向けられる部位を斬り落としていたけれど、以前と変わった様子はない。イーサの全魔力を使い切ったというのに、ケンタの精力はまだまだ健在であるようだ。
「クッソ……」
何時間が経過しただろうか。クリエスは流石に疲れ果てていた。数え切れないほど刀を振ったけれど、その度に回復されてしまったのでは精神力まで失われてしまう。
クリエスは朧気にこの戦いの結末を予感している。それは望むはずもないこと。力尽きた自分自身が天へと還ることであった。
「しゃーねぇ。地獄への道先案内人に立候補してやっか……」
気力を繋ぐものはヒナの存在であった。立っていられるのも、今も刀が振れることも、彼女がいたからだ。
「この先に俺は死ぬだろう……」
ヒナを残して逝く。しかし、それには条件が一つだけある。
「魔王ケンタ、そのときにはお前も死ぬんだっ!!」
道連れとして逝く。それだけは決めていた。魔王という脅威を残して旅立つなどクリエスにはできない。アストラル世界の希望であり、クリエスにとっての生き甲斐でもあるヒナが無事でいられるようにと。
「こざかしい! 何度斬ろうが同じことだ!」
渾身の一太刀を浴びせていた。魔力を乗せたクリエスの一撃は例によってケンタの右足を斬り落としている。けれども、それは繰り返し見続けた光景。即座にケンタの足は超回復し、よろめくことすらない。
「幾らでも斬り落としてやるっ!!」
尚も斬りかかる。クリエスはカウンター攻撃を止め、攻め続けていた。明確に死を意識した彼は守るよりも、攻撃を優先している。
【寵愛通信】シルアンナ
不意に届く通信。この期に及んで何の用事だと思うも、クリエスは通信許可を出す。
「何だ!?」
『クリエス、無茶をしないで! 世界には貴方が必要なの! 大勢がクリエスのために祈っている! 貴方がアストラル世界の救世主なのだと私たちは世界中に神託を与えた!』
知らされるのは女神たちの行動であった。クリエスが知らぬ間に女神たちは世界に住む人々へ救世主の存在を明らかとしたらしい。
『きっと祈りは届く。クリエスは力を授かるはず。世界が認めた貴方ならできるわ』
漠然とした話。以前に聞かされた世界がジョブを決定しているという内容に則したものだろう。けれど、クリエスは今もクレリックであり、後衛職であるというのに刀を振るしかなくなっているのだ。
◇ ◇ ◇
レクリゾン共和国ダグリアのとある治療院。院長であるサマンサは本日最後の患者を診察したあと治療院を閉めようと外に出て、どうしてか空を見上げている。
「まさかクリエス君が救世主だなんてね。確かに才能があるとは言ったけど、治癒士としての枠まで飛び越えちゃうなんて……」
苦笑いのサマンサ。両手を組み、空に祈りを捧げている。
◇ ◇ ◇
レクリゾン共和国内にある港町エルス。大通りにある老舗武具屋の店先に二つの影があった。一人は巡回中の冒険者ギルドサブマスターであり、一人は店主であるお婆さんである。
「救世主クリエスはワシの店で武具を買い揃えたんじゃ。どうだ凄いだろ?」
「お婆ちゃん、それくらいじゃ驚かないわよ? 何しろ、私はカリエス君と一夜を過ごした仲。あの夜はまさに盛大なキノコ狩りパーティーといっても過言ではないわ。何しろ受け止められないくらいに収穫できたからね?」
「相変わらずお前さんは妄想が過ぎるの? ワシはサービスでビッグナスビを付けてやったんじゃ。それは救世主殿も喜んでおったわ!」
二人は嘘を言い合っている。互いがクリエスを虜にしたと言い張って譲らない。
「ああん! カリエス君、早く帰ってきて! 魔王を倒すよりも、私を討伐してぇぇっ!」
「救世主クリエスはビッグナスビが予約済みじゃ! 板胸の出番はない!」
◇ ◇ ◇
フォントーレス公国。歴史上初めて公国内の聖堂に女神ディーテが降臨し、城下も公王城も大騒ぎであった。
公王城の謁見の間には貴族が集められ、神託と今後の対応について公王から説明がある。
「我がフォントーレス公国の男爵フォスター卿が救世主として魔王と対峙しておられる! 各諸侯は所領へと戻り、救世主クリエス男爵に祈りを捧げるよう通達せよ! 良いな? 必ず公国の男爵であることを明確に伝えるのだぞ!?」
公王はあくまでフォントーレス貴族クリエス・フォスター男爵を推していくつもりのよう。各諸侯たちは直ぐさま頷きを返すが、文言を付け足そうとする者がいた。
それは公国唯一の王位継承者となったアナスタシア姫殿下である。
「貴方たち、救世主クリエス様はワタクシのフィアンセ。その辺りも激推ししておくのですよ!」
◇ ◇ ◇
アーレスト王は上機嫌で演説を行っていた。
民を前に拡声魔法にて声を張っている。
「我が王国民たちよ、安心するがいい! 邪神竜ナーガラージに続き、我が国の英雄クリエス子爵が魔王をも討ってくれるだろう! 救世主は我が国のフォスター卿なのだ! ちなみに儂が自ら、かの者に子爵位を授けたのだ!」
思惑は様々であったけれど、救世主クリエスに皆が期待している。クリエスならば世界を救ってくれるだろうと。
◇ ◇ ◇
ライオネッティ皇国でも大騒ぎとなっていた。そこまでディーテ教を信仰していないハイエルフたちであったが、直に顕現されては女神の神々しさに感嘆の声を上げるしかない。
「貴方、ミアの旦那様が救世主ですって!」
「ほう、ミアが帰ってきたら酒宴を開くしかないな……」
相変わらず間の抜けた皇王に皇妃は薄い視線を向けている。
「貴方、ミアはもう天へと還ったのですよ?」
軽蔑の視線を向けられていたというのに、皇王は気にすることなく返す。
「いや、天晴れ! 今宵はミアも立派なハチミツクラウンを生成することだろう!」
◇ ◇ ◇
千年の時を経て、再び大地が裂けたグランタル聖王国でも大々的にクリエスへの祈りが捧げられていた。
「シルアンナ神の使徒クリエス・フォスター卿が救世主! 聖女であるヒナ様と共に魔王と戦っておられる! ディーテ様曰く、祈りは彼の力になるという。ならば我らは祈るのみ! 救世主クリエス卿が魔王を討伐できるように!」
エバートン教皇の演説は世界各国のディーテ教会へと映写術式により発信されている。
「信徒たちよ祈れ! 救世主クリエス卿がアストラル世界に安寧をもたらせてくれるようにと!」
エバートン教皇の号令により、信徒たちは一斉に祈りを捧げる。邪悪を屠る救世主。世界を救う者としてクリエスの名を。
『救世主クリエス様、どうか世界をお救いください』――――と。
◇ ◇ ◇
クリエスは不毛とも感じる削り合いを続けていた。何時間が経過したことだろう。しかしながら、今も魔王ケンタは超回復を見せており、斬ったそばから容易に回復している。
「ちくしょう……」
荒い息を吐くのはクリエスだ。既に死を覚悟していたものの、やはり魔王ケンタを道連れとしなければ死んでも死にきれない。
「悪霊になんかなってたまるか……」
クリエスは力を振り絞る。自らの命を対価としてヒナだけは生かす。それがクリエスの人生における至上命令であった。だからこそ、魔王ケンタよりも先に力尽きるわけにはならない。
「クソ……」
クリエスは目眩を覚えていた。それは魔力切れの兆候。既にポーション類は底を突き、刀に魔力を込めることすらできなくなっている。貴重な魔力供給器であるイーサが休眠状態であるのだから、長期戦による削り合いの結末は明らかであった。
ここで初めて膝をつくクリエス。しかし、彼は重い身体を起こしている。まだ死ぬわけにはならないのだと。
「なあ、頼むよ……」
朦朧としたクリエスは荒い息を吐きながら独り言のように呟く。まるで幻覚でも見ているかのように。
「俺は死んでもいい。だから力をくれ……」
誰に話しかけているのか。小さなその声は尚も続く。
「せめて愛する人を守れる力を――――」
それは世界に向けてのメッセージだった。漠然とした存在に願うもの。覚悟と希望をごちゃ混ぜにした彼の本心に他ならない。
「俺はまだ還るわけにはならねぇんだよォォッ!!」
次の瞬間、クリエスの身体が輝きを帯びた。
声の限りに叫んだクリエス。どうしてか腹の底から力が湧き出ている。
「俺に力をくれぇぇえええっ!!」
刹那に視界がクリアになり、なぜか疲労感が抜けている。彼を包む謎の光は輝きを増し、遂には太陽の如く直視できないほどの光を帯びていった。
「っ!?」
溢れ出す力は身体中を循環し、なぜだか分からぬうちに全身へと満ちていく。
程なくクリエスは知らされていた。何が起きているのかを。
『ジョブ【クレリック】は【救世主】に昇格しました――――』
息を呑むしかない。世界に願ったのはクリエス自身であったけれど、呟いたのは朦朧とした意識下での独り言に他ならない。突然の通知には戸惑っていたけれど、更なる困惑が彼に届けられてしまう。
『ジョブ【救世主】はスキル【獄葬術】と統合が可能です』
意味が分からない。待望のSランクジョブへと昇格したというのに、スキルとの統合が可能だなんてと。
スキル獄葬術はアンデッド系一個体につき一度だけ可能な絶対命令。アンデッド系であれば天へと自発的に還すことが可能であり、服従させることも可能。かといって使用したのはドザエモンへの一度だけだ。
クリエスは選択を迫られている。統合か否か。
悩ましい問題であったけれど、クリエスは決断していた。既にイーサとは契約を結んでいるのだし、使う予定のないスキルならば統合しておくべきであると。
「統合しろォォッ!!」
クリエスがそう叫ぶと、直ぐさま反応がある。
『ジョブ【救世主】は【獄葬術】と統合し【パニッシャー】に昇格しました』
パニッシャーとは断罪者のこと。罪を責め、罰を与える者を指す。クリエスが昇格したパニッシャーは罪を裁く者だという。
唖然とするクリエスに更なる通知が届く。
『スキル【ジャッジメント】を獲得しました』
まるで理解できないが、クリエスはパニッシャーというジョブに進化し、ジャッジメントというスキルを獲得したらしい。
「ふはは、人族よ! 何かしら力を得たというのか? こざかしい!」
クリエスの輝きを目の当たりにした魔王ケンタ。自身も経験した進化ではないかと考えているようだ。
「るせぇ、今から斬り刻んでやんよ……」
言ってクリエスは獲得したスキルを確認する。魔王相手に有益なスキルなのかどうかと。
クリエスはゴクリと唾を飲み込む。どう判断していいのか分からぬそのスキルに。
【スキル】ジャッジメント
【種別】補助スキル
【効果】悪を屠る力。巨悪を裁く力。
【レアリティ】SSランク
有能なスキルかどうかの判断がつかない。漠然としすぎた説明はクリエスを戸惑わせている。しかし、悪を屠る力との説明。クリエスは期待せずにはいられなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
天界にあるディーテの業務室は静まり返っていた。そこにはディーテの他、シルアンナと見習いのポンネルがいたというのに。
クリエスのジョブチェンジは天界が願った通りなのだが、想定外のジョブチェンジが加わったために、理解が及んでいない。
しかしながら、長い息を吐いたディーテはポツリと呟く。
「やはり世界はクリエス君に託したのね……」
作為的にジョブチェンジを促した天界にも想像できなかった世界の動き。彼女はそれが世界の意志であり、思惑だと理解したらしい。
「ディーテ様、どうして二度もジョブチェンジしたのでしょう?」
シルアンナが問う。救世主は歴としたSランクジョブなのだ。それをどうして聞いたこともないジョブへと昇格させたのかと。
「それはワタシたちの見込み違い。恐らくジョブ【救世主】では魔王ケンタに太刀打ちできないのでしょう。だからこそ世界は新たな力をクリエス君に与えた……」
パニッシャーなるジョブはシルアンナどころか、ディーテも知らない未知なるジョブ。世界の意志が生み出したとしか思えないものだった。
「シル、クリエス君のステータス詳細をモニターへ回して。世界が何を彼に施したのか確認してみましょう」
「了解しました……」
シルアンナも何が起きたのか理解していない。かといって、魂の管理者でしかない女神たちにできることなど限られている。ディーテが話すようにクリエスの状態確認が現状で最も必要な行動であると思う。
【ジョブ】パニッシャー
【レアリティ】Sランク
【説明】断罪者。罪を裁く者。敵対者が悪であるほど強大な力を得る。
「これは……?」
一瞬にして昇格を果たしたパニッシャーなるジョブ。更には獲得したジャッジメントというスキル。内容を確認したディーテは何度も顔を振っていた。
「まだ彼は神格を得ていないの……?」
ディーテは昇格先のパニッシャーが神格相当であると考えていた。しかしながら、期待したジョブはSランクであり、ヒナのような神格を持つSSランクではない。
「ディーテ様、クリエスはまだ神格を得るに充分な魂強度を持っていないのでは?」
独り言にも似た呟きにシルアンナが返す。世界の思惑に反して、クリエスの力不足ではないかと。
「そんなことはあり得ません。クリエス君は邪神竜ナーガラージを討伐しているのです。かの魂強度を奪った彼には神格を得るに充分な魂強度があるはずです」
ナーガラージはシルフという大精霊の魂を取り込み、神格を得たのだ。その邪神竜を倒したクリエスに足りないはずはなかった。
「力を欲したクリエス君の願い。なぜに世界は応えなかったのか分かりかねます。今もまだ世界はバランスを崩したままなのでしょうかね」
「そうなると、魔王ケンタの討伐は困難なのでしょうか?」
シルアンナが問いを重ねた。せっかく昇格を果たしたというのに、クリエスは戦えないのかと。世界はクリエスに全てを託したように感じられたけれど、バランスを崩したまま的外れなジョブを与えてしまったのだろうかと。
「それは分かりません。我々が彼を救世主にしてしまったこと。そこから間違っていた可能性は高いかと思われます。世界が苦渋の選択の末にパニッシャーなるジョブを与えた可能性を否定できません」
シルアンナは愕然としていた。良かれと考え、女神たちは下界を先導したのだ。クリエスのSランクジョブ化を促し、現に彼を救世主としていた。だからこそ、それが間違いであっただなんて考えたくもない。またも世界と女神は噛み合っていなかったなんて。
「現状打破の鍵はジョブに付随するスキル。世界の本命は【ジャッジメント】というスキルであるはずです」
「しかし、ジャッジメントは明確な効果が記されておりませんよ?」
シルアンナは困惑していた。何しろスキル【ジャッジメント】はSSランクスキルであったけれど、漠然とした説明しかないスキル。ステータスアップのような分かりやすい内容ではなく、ただ巨悪を裁く力とあるだけだ。
「恐らくパニッシャーとジャッジメントはワンセット。悪に対抗するためのジョブとスキルです。現状で世界がクリエス君にできることの最善であると祈りましょう」
世界がまだ正常ではないと考えるに充分な昇格であった。最善であると仮定するしか女神たちは希望を抱けない。
「とにかく【救世主】以降のジョブツリーは不明なのです。願わくばクリエス君が巨悪を屠れることを期待するしかありません」
最後はクリエス頼みであった。世界が与えたジョブとスキルを駆使して、魔王を討伐してくれるようにと。
先が見えない戦いをクリエスが突破してくれるように。ジョブ昇格とスキルを獲得した彼に女神たちは期待するしかなかった……。
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