第102話 ミアのリング
ライオネッティ皇国をあとにしたクリエスたち。マイア皇妃に文句を言われないよう、充分な距離を取ったところで頂戴したリングについて調べることにした。
「魔眼!!」
まずは魔眼にて詳細を見てみることに。結界を解いてからクリエスは魔眼を実行している。
【銘】リング(絶)
【種別】リング
【制作者】シミラ・ツキムス・パントューザ
【レアリティ】★★★★★
【条件】
・闇属性スキルの所得
・レベル2000以下は取り外し不可
【効果】
・所有闇属性スキル昇格先全解放
・異性に嫌われる(装備者周辺にも影響)
・性欲が無限大に増幅
概ね聞いた通りであったものの、闇属性スキルについては既に得られているスキルの昇格先が解放されるだけらしい。
「イーサ、催淫は闇属性スキルなのか?」
『いや、催淫は種族の固有スキルじゃ。属性は伴っておらぬ』
「てことは俺の所有スキルで闇属性はあんまねぇな……」
イーサから受け継いだのは催淫を除くと初級の火属性魔法と初級の爆裂魔法のみ。闇属性スキルはミアから引き継いだスキルしかなかった。
「おいイーサ、お前は闇属性持ちだが、一つも闇属性スキルを持ってないのな?」
『むむ? なんじゃ婿殿は妾のステータスを丸裸にしおったのではなかったのか?』
おかしな話になる。イーサのステータスにある攻撃魔法は爆裂魔法と火属性魔法しかなかったのだ。しかも、基本的に爆裂魔法しか使っていないイーサは純粋な火属性魔法を殆ど習得していない。
「持ってるのかよ?」
『さあな? 閲覧できてからのお楽しみじゃ!』
そういえばイーサのステータスでスキル欄の一つが不明となっていた。もしも彼女が本当に闇属性スキルを持っているのなら、恐らくその閲覧不可スキルこそがそうなのだろう。
「んんー、てことは俺がこの指輪を装備したとして、死霊術と腐食術が統合した獄葬術しかない。獄葬術は既にSSランクだし、装備する意味はないかもな」
『婿殿、そんなことはないぞ? 統合した獄窓術を持っているのじゃ。全解放という意味ならば下位スキルも解放されるはずじゃて』
意外に的を射た意見が返ってくる。確かに獄葬術は死霊術と腐食術が元となっているのだ。全解放されるというのなら、死霊術と腐食術も解放される可能性が高い。
「えっとクリエス様……」
ここでヒナが口を挟む。二人の会話に何か問題でもあったのかもしれない。
「その死霊術と腐食術があるのなら、わたくしはレベルアップしやすいのですけれど……」
ヒナの話にクリエスは小首を傾げている。だが、直ぐに気が付く。そういえばヒナはミアの使役魔を倒して強くなっていたのだ。
「アンデッド化できればヒナが倒せるってことか?」
「ええまあ、ある程度の強さなら倒せるかと思います」
神格を得た今、Sランクの魔物でもアンデッドであれば討伐できる。ヒナはいち早く制約条件を満たしたいと口にした。
もし仮に腐食術にてアンデッド化し死霊術で使役できたのなら、ヒナは安全確実にレベルアップを遂げるだろう。またそれはミア自身が語っていたことでもある。彼女は古竜をアンデッド化して、使役した経験があると話していたのだから。
「まあそうか。ヒナの制約条件は喫緊の問題だよな。アンデッド以外は無理なのか?」
「お恥ずかしいのですが、剣術と魔法ではそこそこの魔物しか倒せません。わたくしはサブジョブを持っておりませんし……」
ヒナはSSランクジョブではあったが、支援ジョブであって戦闘ジョブではない。シルアンナからもらった超怪力のおかげで、ある程度の魔物は倒せたけれどレベルアップが見込めるような魔物とは戦えなかった。
『婿殿、娘ッ子もそういっておる。男なら装備するしかあるまい』
イーサもまた背中を押す。どうにも彼女は面白がっている感じであるけれど。
「ま、外れなくなってもレベル2000までは直ぐだしな。ヒナのために装備してみっか」
クリエスは覚悟を決める。女性に嫌われるなんて最悪のデメリットであるが、ヒナの頼みであれば断れない。彼女とキャッキャウフフの生活を続けるには制約を満たしてもらわなければならないのだから。
「じゃあ、装備すっぞ? ヒナは絶対に俺を嫌わないでくれよ?」
「もちろんですわ!」
ヒナの返答にクリエスは笑みを見せた。断言してくれるならば躊躇ってなどいられない。リング(絶)を装備し、闇属性スキルを全解放するだけだ。
クリエスは右手の中指にリングを通す。すると瞬く間にサイズがクリエスの指に合わせて収縮する。魔道具であるのは知っていたけれど、流石に少しばかり驚いてしまう。
『死霊使役術を獲得しました』
『死体使役術【極】を獲得しました』
『アンデッド耐性を獲得しました』
『アンデッド耐性【極】を獲得しました』
『腐食術を獲得しました』
『腐食術【極】を獲得しました』
『アンデッド生成術を獲得しました』
『アンデッド生成術【極】を獲得しました』
脳裏に通知が鳴り響く。少しばかり不安に感じていたけれど、確かに全てを解放したように思う。これであれば難なくアンデッドを生み出し、使役できるはずだ。
「おいヒナ、やったぞ! 俺は闇属性スキルを全解放したんだ!」
喜々としてヒナに報告する。クリエスは彼女が望んだままのスキルを手に入れたのだと。
「クリエス様、別に頼んだ覚えはありませんわ!」
ところが、どうしてかヒナはプイッと顔を背けてしまう。何が何だか分からないクリエス。本を正せばヒナが願っていたことなのに。
「どうしたんだよ、ヒナ……」
「勘違いしないで欲しいですわ。わたくし、別に嬉しくなんかありませんの!」
どうも人格が変わってしまったかのよう。その原因は一つしかない。リング(絶)が及ぼす影響として女性に嫌われる効果があったのだ。
しかしながら、言葉とは裏腹にヒナは頬を染めたりしている。もうクリエスには何が何だか分からない
。
「お嬢様、せっかくクリエス殿が装備してくださったですよ?」
堪らずエルサが口を挟む。主人は礼儀正しい人であり、このような矛盾した話をする人ではないのだと。
「クリエス様が勝手に装備されただけです。わたくしのためという話にはほんの少しだけ嬉しいかもですけれど、わたくしが頼み込んだわけではありませんわ!」
エルサが諭すも無駄であった。ヒナは中身が入れ替わってしまったかのようだ。
「エルサさんは何ともないのですか?」
「私ですか? いや、どうも胸のつかえが下りたかのような感じですね。今は晴れやかな気分です」
眉根を寄せるクリエス。しかしながら、思い当たる節があった。考えられる原因が一つだけある。
「エルサさんは女難の効果を受けていたから、相殺されたってことか?」
気持ちを押し殺したエルサであったが、やはり心の奥底でクリエスに好意を抱いていたのかもしれない。リング(絶)による効果により好きと嫌いが相殺されたのだと思われる。
『まあそうじゃろうなぁ……』
イーサがクリエスの予想に相槌を打つ。彼女も同じ意見であるらしい。
「イーサは問題ないのか?」
『妾は婿殿と魂を共有しとるからの。嫌うといった感情はレジストされとるはずじゃ。主人と敵対するような感情は持てぬ』
なるほどとクリエス。主従関係が明らかなクリエスとイーサは彼女たちとまるで状況が異なっているようだ。
「じゃあ、ヒナの状態はなんだ? 嫌っているという感じでもないしな」
『うむ。妾はそれを知っておるぞ。聞きたいか?』
意外にもイーサはヒナの状態がどうなっているのか見当を付けているらしい。
当然のこと、クリエスは頷いて話の続きを促している。
『娘ッ子の状態はツンデレ――――』
イーサの説明にクリエスは眉根を寄せた。初めて聞く言葉である。状態は元より意味すら分からなかった。
「何だよ、ツンデレって……」
『異界の言葉らしいの。本心とは異なる反応をしてしまう女のことじゃ。天の邪鬼というか、素直じゃないオナゴを意味する。つまりツンツンしつつ、デレデレなのじゃ!』
何だか妙に納得している。確かに態度はデレっぽいけれど、ヒナの台詞はツンツンとしていたのだから。
『尻穴大辞典で読んだから間違いない!』
「異界情報まで載ってるとかアカシックレコードなの!?」
もう既に尻穴とは何の関係もない。さりとて尻穴大辞典にはツンデレなる単語の意味が記されていた。
『穴が開くほど読んだからな。尻穴だけに!』
「いや、すまん。割とマジで尻穴大辞典に興味湧いてきたわ」
クリエスもまた看過されつつある。何でも載っている尻穴大辞典に。
『そうじゃろう? 著者は原初の悪魔なのじゃ。堕天した最初の天使であるサソイウケ氏が記したものじゃよ!』
嬉々として語るイーサであったけれど、著者名を聞いただけでクリエスの興味は失われている。
どのような親を持ち、如何なる経緯があったとしてサソイウケだなんて名前になるはずがない。やはり堕天した天使は悪魔なのだ。尻穴大辞典は禁忌である男同士の愛について語る書物に違いない。
「まあ尻穴だからしゃーねぇか……」
『また読みたいのぅ。しかし、千年以上も前の書物じゃからなぁ……』
懐かしそうに目を瞑って当時を振り返るイーサ。彼女は女と男だけでなく、男と男の情愛でも美味しくいただけるのだろう。
「そこの二人! どうして、わたくしに関係のない話をしているのですか!? わたくしの話をしていただいてもよろしくてよ?」
クリエスとイーサが話し込んでいたからか、ヒナが口を挟む。またも少し頬を染めつつも、そっぽを向いている。
「意味合いが分かると、これはこれで良いものだな?」
『そうじゃろう? 流石は尻穴大辞典じゃ!』
「べ、別にクリエス様に相手をして欲しいわけではないのですからね!?」
懸念されたリング(絶)の効果であるが、パーティー内にさして問題はなかった。今後向かう街などで出生率が下がったりするだけであろう。
『娘ッ子は女難スキルを魂の格によってレジストしとるが、リングの効果はある程度受けておるようじゃな。察するに製作者であるシミツキパンツは神器ともいえるアイテムを生み出せる優秀な錬金術士なのじゃろう』
神格持ちのヒナが少しでも影響を受けるのならば、シミツキパンツが製作したリング(絶)は本当に神器と呼べるのかもしれない。
「ま、ツンツンしたヒナも一興だな?」
『そういうことじゃ!』
「別にクリエス様のためにツンツンしているのではないのですからね!?」
和やかに話が済もうとしていたとき、クリエスの身体に異変が生じてしまう。
あろうことか股間が膨れ上がり、今までに経験したことのない角度で反り上がってしまう。クリエス自身は少しも興奮していなかったというのに。
「うお! 何だこれ!?」
『ふはは、来たか! 婿殿の性欲が無限大に増幅しておる! 妾に任せるのじゃ!』
どうやら指輪の効果にある性欲無限大による反応らしい。即座にイーサが性欲を吸い上げてくれたおかげで、ヒナに襲いかかることは免れたけれど、もし仮にイーサがいなければとんでもないことになっていたかもしれない。
「おいイーサ、お前はこれを狙っていたのか?」
『良いではないか! 妾が全て吸い上げてやる。何の問題もなかろう!』
どうもイーサに一杯喰わされたようだ。さりとて現状はヒナの希望通りでもある。さっさとアンデッドを倒して、彼女には制約を遂げてもらわねばならないのだから。
「しっかし、今の感じじゃ、ミアは相当な苦労をしたと思う。性欲が爆発しそうになっても異性に嫌われてしまうなんて……」
『駄肉はそれで殺戮を繰り返しておったのかもしれんな。殺戮によって行き場のない感情を発散させていたのじゃろう』
まあ確かにとクリエス。レベルを上げて取り外したいという願望に加え、ミアは破壊衝動により性欲を紛らわせていたのかもしれない。
『ま、婿殿は安心せい。妾が責任を持って吸い続けてやるからの!』
「ちくしょう、完璧に騙されちまった……」
笑い声が木霊する。残念な効果が付与されたけれど、一応はことなきを得たのだ。更には充分な成果もあったことだし、結果を見ると何の問題もない。
ならば先を急ぐだけ。ヒナのレベルアップをしつつ、魔王候補ケンタへと近付いていくだけだ。
クリエスたち一行は再び馬車を走らせるのだった……。
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