第086話 未来へ
キングヒュドラアンデッドを討伐したヒナ。サナタリア島に飴玉をお供えしてから、小舟に乗り込んでいた。
「ウンディー、悪いけど帰りもお願いね?」
「大丈夫だよ!」
ウンディーに飴玉をあげてから、ヒナははぁっと長い息を吐く。正直に疲れてしまった。
思い返されるのは先ほどの一部始終。サラが力をくれたことから、ジョブが天使になってしまったこと。絶体絶命の危機を脱したことを。
この疲労感は恐らく心労に違いない。大幅なレベルアップを遂げ、身体の調子は良い。やはりサラが失われてしまったことが精神的に堪えているのだと思う。
「お嬢様、先ほどの話をお聞かせください。赤い妖精は何処に行ったのです!?」
船が走り出して間もなく、エルサが再び聞いた。本気を出したと誤魔化したのだが、やはり異変に気付いている。かなり躊躇われる内容であったけれど、小さく息を吐いてから、ヒナは話し始めた。
「実はあのとき、サラがわたくしに力をくれたのです。自身の存在をわたくしに預けてくれました……」
他に手段はなかった。あの大精霊が失われるしか、この現状には辿り着けない。サラは身を挺してヒナたちを守ったのだ。
「まあそれで、わたくしは彼女の力を得たのです」
「あの妖精にそんな力があったのですか? 飴玉をなめているか眠るだけの妖精に」
「サラは良い子ですよ? それに妖精ではなく本当に大精霊だったの。神格を持つ世界の守人だったのよ」
眉間のしわを増やすエルサ。どう考えても穀潰しであった妖精が大精霊だなんて今でも信じられない。
「証拠はあります。サラがくれた力は人の手に余るものでしたから……」
「はぁ、そうなのですね?」
どこまでも信用しないエルサにヒナは告げる。サラがくれた力が何をもたらせたのかと。
「わたくしは天使にジョブチェンジしました――――」
言葉を失うエルサは意味もなく頭を振るだけだ。大精霊という話だけでも受け入れ難いというのに、天使というジョブだなんて伝記にすら存在しないものだ。
「天使……ですか?」
「ええ、そうです。あの魔物キングヒュドラアンデッドはヒュドラゾンビが進化したものなのです。事前に聞いていたヒュドラゾンビとは異なり、わたくしとレベル差がありすぎました。よってダメージを与えるには魂の格を上げるしかなかったのです。それでもレベル差が問題となりますが、幸いにもわたくしはアンデッド特化の強力なスキルがありましたからね。つまり、かの魔物を討伐できたのはサラが力をくれたからです。彼女の神格をわたくしは引き継いだことになります」
小舟から見ていたエルサだが、確かに異様な大きさであった。しかし、ヒュドラゾンビだと考えていた魔物は実をいうと進化した姿であったのだという。
「わたくしやエルサが今も生きているのはサラのおかげなのですよ」
エルサは何度も顔を振っている。本当に大精霊であったこと。自らの存在を失ってまでヒナを救ったこと。見ているだけだった自分とはまるで異なるのだと。
「お嬢様、私は不甲斐なく思います。サラでさえ、やるべきことがあったというのに」
「エルサ、悲観しなくてもいいわ。エルサがいてくれるだけで、わたくしは安心するのですから……」
「そうでしょうか? まあ私はサラを見習いたい。最後はこの身が滅びようとも、お嬢様を助けたいと思います」
そんなことは望んでいない。だからこそヒナは返事をしなかった。終末世界はピクニックなどではない。全員が笑顔で乗り切れるはずもないと分かっている。だが、ヒナは全員の笑顔が最後まであることを願っていたから。
「そういえば、わたくしレベル1000を超えたのですよ?」
ヒナは話題を変えた。通知によるとレベル1005。先ほどの戦闘にてヒナは700以上もレベルアップしている。
「それでしたら、お嬢様の制約とやらも?」
そういえばまだステータスをチェックしていない。ヒナは期待しながら、ステータスを呼びだしている。
【名前】ヒナ・テオドール
【種別】人族
【年齢】17
【ジョブ】天使
【属性】光・火
【レベル】1005
【体力】120(+24)
【魔力】1095(+219)
【戦闘】144(+316)
【知恵】1131(+226)
【俊敏】223(+44)
【信仰】1328(+265)
【魅力】879(+175)
【幸運】462(+92)
【加護】ディーテの加護
【スキル】
[超怪力]戦闘値50%アップ
[華の女子高生]制服を着ているとステータス二割増
・ファイアー(100)
・フレイムアロー(45)
・プロージョン(100)
・ハイプロージョン(41)
・ライトヒール(100)
・ヒール(100)
・ハイヒール(1)
・エリアハイヒール(0)
・清浄(5)
・セイクリッドフレア(45)
・天使の祝福
・聖域
期待以上の伸びであった。魔力や知恵などは千を超えていたし、懸念の一つである戦闘値は制約の値をクリアしている。残す問題は体力値だけとなっていた。
「エルサ、戦闘値は制約を達成したわ!」
喜々としてエルサに報告を済ませる。200という途方もない目標であったはずが、ヒナは補正を足して戦闘値200を超えていた。
「やりましたね! 体力値というものはどうなのです?」
「体力値はあと56ですね。レベル1200くらいで達成できるとディーテ様は仰っていました」
人生に光が射してきた。女神でさえも諦めていたというのに、ゴールが近付いている。
唯一の可能性として示されていた[華の女子高生]の昇格を待たずしても達成できるような気がしていた。
「そういえば天使の初期スキルも獲得したのだったわ……」
ステータスを見て思い出す。レベルアップ等の通知にスキル獲得の知らせがあったことを。早速とヒナは得られたスキルについて詳細を見てみる。
【天使の祝福】
【レアリティ】S
【説明】他者の運気を上げる。
一つ目のスキルはあまり使えそうにない。自分以外の幸運値を上げるといった内容だろう。レアリティはいきなりSランクであったけれど、それは天使というジョブのランクがSSランクであるからかもしれない。
【聖域】
【レアリティ】S
【説明】邪悪から身を守る絶対防御の神光。ただし、攻撃もできない。
こちらもまた神格を感じさせるスキルであった。防御魔法のようであるが、使用中は攻撃ができないようだ。
「なるほどね。基礎スキルだから、使い勝手が良くないのかしら?」
得られた二つの初期スキルは共に期待外れである。アンデッド以外に有効な攻撃スキルであれば良かったのにと考えずにはいられない。
「エルサ、わたくしは必ず十八歳になって見せますから」
ここでヒナは決意を口にする。願望ではなく強い意志をそのままに。前世もまた十七歳で失われていたのだ。だからこそ、今世こそは生きてやろうと。
「お嬢様、お願いします。私はお嬢様が失われた世界など考えられません。これからもアストラル世界を照らし続けて欲しいと願っております」
過剰な評価のようにも感じるけれど、ヒナは笑みを浮かべながら頷いた。
今は期待しかしない。閉ざされた未来が開こうとしているのだ。このまま突き進んで行こうとヒナは思う。
「さあ、ドワーフの里に戻りましょうか!」
世直しの続きである。大海原を走る小舟の上。流れる風に桃色をした長い髪を棚引かせながら、ヒナは水平線の先を眺めていた。
この先に未来はきっとあるはずだと……。
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明日の更新は朝八時頃と夕方五時頃を予
定しております!(>_<)/
※頃なのでご注意を!
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