第080話 新たなる力を

 クリエスは理解していた。ドザエモンの話にある命令が何を指すのか。彼が望む最後とは何かを。


 静かに目を閉じてクリエスは念じている。ドザエモンが望む結末に沿って、手に入れたばかりのスキルを実行していた。


「獄葬術――――」


 初めて使用するスキルだ。ミアが残した腐食術と死霊術が統合したSSランクスキル。クリエスはドザエモンに対して発動している。


「ドザエモン、俺の刀によって天へと還れ。穏やかな来世があることを祈っている」


『御意……』


 クリエスは再び上段に刀を構え、心の内に巨乳ラブと念じながら力一杯に振り下ろしている。


「巨乳に幸あれぇぇええええっ!!」


 次の瞬間、ドザエモンに向かって弓形をした魔力刃が二つ並んで撃ち出されていた。刀身と同じく薄桃色の輝きをその軌跡に残しながら……。


 魔力刃はもの凄い勢いで撃ち出されたかと思えば、瞬く間にドザエモンを貫通し、巨蛇の胃袋まで真っ二つにしてしまう。粘液も強度も関係なく、綺麗に一刀両断としていた。


『ご立派です。参りました。もう儂には俗世に思い残すことなどござりませぬ……』


 言ってドザエモンが消えゆく。獄葬術の命令に従うかのように。


『ありがとうございます――――』


 しばらくして、クリエスの足下が揺れ出す。胴体を半円状に斬り裂かれた巨蛇が暴れ出したのだ。


 少しの余韻も感じられないまま、クリエスは現実に戻されていた。割れた隙間から飛び出しては再びラブボイーンを上段へと構える。


「旅立ちの手向けだ! 黄泉路への道しるべとしろ!」


 再度、心に念じる。ドザエモンが今度こそ迷わぬように、天へと還る道筋を示してやろうと。


「巨乳ラァァアアアブ!!」


 またもやボイウェーブを撃ち出している。先ほどよりも強大な魔力刃。見上げるように撃ち出したそれは巨蛇の身体を輪切りにするだけでなく、天高く撃ち出されていく。


 程なく魔力刃は火口の壁へと突き刺さったけれど、クリエスは彼に届いたはずと信じている。ドザエモンが輪廻へと還る手伝いができたと思った。


 刹那に脳裏へ通知が届く。


『レベル1429になりました』


 それはレベルアップの通知である。しかし、考えていたよりも多い。どうしてかレベル1200の巨蛇アスラを倒しただけで400以上もレベルアップを遂げていた。


 その謎は直ぐさま解消される。続く通知の内容によって。


『土属性を獲得しました』

『サブジョブ剣士が昇格できます――――』


 絶句するクリエス。戦闘による属性の獲得は非常に稀である。恐らくはドザエモンの置き土産。通常の討伐では極小の確率でしかないけれど、クリエスの魂を宿り木にしていた彼の属性はそのまま譲渡されたような格好であるらしい。


 更にはサブジョブの昇格。それも剣士である理由は一つしかないように感じる。剣聖であったドザエモンをクリエスが倒したことになっているはずだ。予想以上のレベルアップもまたドザエモンの魂強度を奪っていたからだろう。


『サブジョブ剣士は通常昇格の他、称号ドラゴンスレイヤーと統合昇格が可能です』


 続けられた通知はまたもや詳細が分からない。以前もドラゴンスレイヤーは統合が可能であったけれど、この度はスキルではなくサブジョブなのだ。称号を失ってまで昇格すべきかどうかが悩みどころである。


「イーサ、サブジョブと称号の統合ってどう思う? 剣士とドラゴンスレイヤーなんだけど、剣聖より強いと思うか?」


 ここはイーサに意見を聞いてみる。魔法専門の彼女が知っているとも思えないが、千年から存在する彼女なら的確な指示が出せるのではないかと。


『難しい問題じゃが、昇格や統合は前スキルよりも確実に強化される。弱体化などあり得ん。よって妾は統合昇格を推す。まして婿殿の目的はなんじゃったかの?』


 二ヒヒと妙な笑い声を上げるイーサにクリエスは少しばかり笑みを浮かべた。

 クリエスだって分かっている。自身の目的。少しばかり悩んだから聞いただけであり、背中を押してもらいたかっただけだ。


「これで邪神竜のやつをボコボコにできるな?」

『妾はそう思うぞ!』


 すんなりと決断できた。ミアを弔うこと。加えて邪神竜の討伐は転生した頃からの使命である。ならば悩む必要などなかった。


「俺は統合昇格を望む! 邪神竜を討てる力を俺に授けてくれぇぇっ!」


 念じるよりも声に出す。決意をそのままにクリエスは伝えていた。

 すると身体が輝きを帯びる。クリエスの希望を世界が叶えてくれたかのように。


『サブジョブ剣士は竜滅士へと昇格しました』

『ステータス補正が完了しました』


 立て続けに通知がある。サブジョブ剣士が竜滅士への昇格を果たし、結果としてステータスに補正が加えられたらしい。


 クリエスはやや緊張しながらもステータスを確認する。



【名前】クリエス・フォスター

【種別】人族

【年齢】17

【ジョブ】クレリック(竜滅士)(ネクロマンサー)(魔王候補)

【属性】光・闇・雷・火・風・土

【レベル】1429

【体力】4752

【魔力】4147

【戦闘】3980(+398)

【知恵】3819

【俊敏】4540

【信仰】4933

【魅力】3520(女性+80)

【幸運】381


 信じられないほどの成長であった。既にステータス値はミアを超えているかもしれない。イーサには遠く及ばなかったけれど、これであれば邪神竜と戦えると思えた。


 クリエスは改めて決意している。邪神竜は己が手で仕留めようと。ミアの仇討ちは必ずや成し遂げるのだと。


「やっぱ俺は世界に愛されてんな……」


 自然と笑みが零れてしまう。まるで歯が立たなかった敵に対してのお膳立て。これだけの能力を与えられたのは、ひとえに期待されているからだろうと。


『妾にも愛されとるぞ?』

「言ってろ、バカ……」


 こうなるとオルカプス火山の攻略を急ぐだけだ。この未踏破ダンジョンを踏破し、クリエスは邪神竜に挑む。


 巨蛇の亡骸をアイテムボックスへと収納したあと、クリエスは歩を進める。

 もう障害は何もないのだと。力強い歩調が彼の自信を表していた……。

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