第057話 新たなる目的地へ
「セイジョ様の名は……アリス・バーランド様……」
その名を聞いた直後にクリエスは剣を押し込み、感情のままに喉元を斬り裂く。
行方不明であったアリス。想像していたとはいえ、彼女はディーテ教を捨てて邪教に入信してしまったらしい。加えて聖女という地位まで手に入れているという。
「やはり俺はアリスに会う必要がある……」
前世で関係を持った女性だ。クリエスを刺し殺した張本人であったけれど、今も彼女に悪いことをしたと感じていたし、罪を償って欲しいとも考えていた。
このあとミクスでの動乱は数時間を要して鎮圧されている。多大な犠牲を被ったのは語るまでもなかったが、それでもドルマン伯爵はクリエスの活躍を称えてくれた。
「いや、フォスター子爵が街を訪れていて助かった。聞きしに勝る強者だな? 君がいなければミクスはどうなっていたか想像もできない」
お礼としてドルマンは金銭の他、鉱山で取れる最高品質の鉱石をクリエスに与えてくれるという。
「これは非常に珍しい鉱石でアダマンタイトという。職人を選ぶ鉱石ではあるけれど、超一流と呼ばれる職人ならば扱えるはずだ。剣士である君の助けになるだろう」
「有り難く頂戴いたします。それで今後についても警戒を怠らないよう願います。俺はもう旅立ちますので、気を付けてください。邪教徒の狙いは鉱山であったかもしれませんし」
「そうだな。中央にも派兵を要請しよう。せっかく街が救われたのだ。必ずや邪教の手から守り切ると約束する」
もうわだかまりはない。別れに際し、二人は固い握手を交わす。先を急ぐクリエスは褒美を受け取るや、伯爵邸をあとにしていく。
再び馬車に乗るクリエス。ここでステータスを改めて確認する。最終的にレベルが10アップしたのだ。ステータス値がどれだけ上がったのかを知りたく思う。
【レベル】331
【体力】270
【魔力】235
【戦闘】225(+67)
【知恵】217
【俊敏】258
【信仰】274
【魅力】200(女性+480)
【幸運】99
結果は考えていた通りだ。クリエスは納得したのか何度か頭を上下させていた。
僅か10のレベルアップで各数値が10前後アップしていること。八分の一の伸びであるはずなのに、サブジョブ魔王候補とネクロマンサーはSランクジョブに相応しい大幅なステータスアップをもたらせている。
「待ってろよ、ヒナ……」
クリエスは改めて意気込んでいる。一時はどうなることかと思えた[貧乳の怨念]のランクアップであったが、結果として悪くない方向へと進んでいた。必ずやヒナを救えるはずとクリエスは信じて疑わない。
『しっかし、そのヒナとかいう娘ッ子には妬けるのぉ』
『全くです。身体があるだけでも羨ましいというのに……』
従順になった悪霊たちはヒナに悪さをしないはずだ。障害が全てなくなった今、クリエスは一刻も早くヒナに会うだけである。
「まあそういうな。俺は転生前にヒナと再会の約束をしたんだ。彼女は前世も若くして失われている。だからこそ、この度は最後まで生きて欲しい。途中退場なんかさせたくねぇんだ。俺が絶対に守り切ってやる……」
クリエスが気合いを入れるたびに、イーサとミアにも彼の感情が伝わる。時間が経過するにつれて、魂が馴染んできたのだろうか。クリエスの感情が明確に伝わっていた。
本当にクリエスが望んでいること。ヒナという女性を求めている。本当に癪ではあったものの、主人が切望する女性を二人は受け入れるしかなかった。
『次の目的地はライオネッティ皇国でよろしいですか?』
ここでミアが聞いた。北西の街ミクスよりも先にアーレスト王国の街は存在しない。街道は東と南西にしか繋がっておらず、この先は道なき道を進むだけである。
「街道がなくてもミアには分かるんだろ?」
『もちろんです。ただ皇国の現状を知りたく思いますので、少しばかり寄り道させていただいてもよろしいですか? 何しろ千年以上も留守にしていたのですし』
ミアはハイエルフである。よって千年くらいの留守であれば、家族はまだ生きているのかもしれない。先を急いでいたのは事実だが、クリエスとしてもそこまで鬼にはなれなかった。
「まあ少しだけなら。俺は人族だけど、問題ねぇのか?」
『問題ありませんよ。少なからずハイエルフなら私の姿が見えるでしょうし、旦那様に不快な思いはさせません!』
ミアがついているなら問題はないだろう。彼女の姿が見えないのならともかく、見えるというのだから。
『ふむ、妾も見てみたいの。ハイエルフの国を……』
意外にもイーサが興味を示す。千年前の災禍である彼女はハイエルフを見たことがないようだ。当時、ライオネッティ皇国は南大陸をほぼ統一していたというのに。
「イーサはライオネッティ皇国を知らないのか? お前は南大陸にいただろう?」
勇者ツルオカを追ってイーサは南大陸にまでやって来たはず。何しろ彼女がショック死した泉はレクリゾン共和国内にあったのだから。
『妾は北大陸の東側から飛んできたからの。東海岸はまだエルフがおらなんだな』
『そもそも侵攻軍の主力は私のアンデッド兵団でしたからね。ハーフならばともかく、ハイエルフは森を出ておりません』
なるほどとクリエス。前線にエルフがいないのであれば見る機会はなかったはず。ハーフエルフ以外は基本的に大深林で暮らしていたのだろう。
『初めてじゃから、妾は楽しみにしておる! ハイエルフはどんなじゃろうな!』
喜々として語るイーサはまるで子供のようにはしゃいでいる。サキュバス族としても、ハイエルフは神秘的だと感じるのかもしれない。
『デカいのじゃろうなぁ……』
「知るかよ!?」
子供のように大人な期待をするイーサにクリエスは呆れている。まあしかし、サキュバスの血が騒ぐのであれば仕方のないことだ。
「あんま、うろちょろすんなよ……? ミアの姿が見えるのなら、お前の姿も見えるのだからな?」
『ああ、そうじゃった。うっかりしておったわ!』
クリエスが釘を刺すとイーサはポンと手を叩いた。どうやら彼女は気付いていなかったらしい。
『妾も丸見えか!?』
「言葉を選べって!!」
どうしても彼女が喋ると卑猥に聞こえる。とはいえ、実をいうとクリエスも楽しみにしていた。
何しろエルフは美女揃い。しかもミアの親族であるのならドデカカボチャ級が期待できる。従って眼福になるだろうとクリエスは想像していた。
兎にも角にも馬車は大深林へと入っていく。未知なるライオネッティ皇国を目指して。
長旅の休憩地となるべく首都コロポルックへと向かうのであった……。
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