第051話 変化

 ベルカと支配契約を果たしたミア。ようやく満足したのか身体の支配権をクリエスへと戻している。


 鼻血を出して突っ伏したはずのクリエスが徐に目を開く。

 まだ呆けていたけれど、事の顛末は何となく理解できている。暴走するミアが経験したことはある程度記憶として残っていた。


「おいミア、お前は何てことをしてくれたんだ?」


 流石に文句も言いたくなる。自身は巨乳の仲間が増えるたびに弱体化していくのだ。移動手段が手に入ったのは有り難いが、ステータスダウンなんて望むはずもない。


『旦那様、不必要になれば殺せば良いだけですよ。今は利用できるだけ利用しましょう』


 本当に悪魔的な思考である。クリエスを騙そうとしていたのは理解したけれど、奴隷以下の存在に落としてしまうなんてクリエスには考えられなかった。


「クリエス様、あたしのことはゴミ以下の扱いで構いません。お金も身体も好きにしていただいて結構ですので」


 流石に奴隷落ちした女性を好きにしたいとは思えない。クリエスは巨乳好きであったけれど、一方的な恋愛を望んでいるわけではなかった。


「こうも従順になるものか?」


『そりゃそうですよ。支配権は私にあり、身体を有する旦那様にもあるのですから。このハーフは既に死んでいるようなものです。生物としての扱いすら必要ありません』


 罰としては殺されるよりも酷いように感じる。もうベルカには何の決定権も残っていないなんて。


 契約前は悪霊の存在に気付かなかったベルカ。支配契約をしてクリエスの魂とも接続した彼女は今やイーサをも認識できるようだ。


『ま、妾も珍しく駄肉と同意見じゃの。この娘を男どもに貸し出して、旅の路銀とすれば助かるのじゃ』


「本物の悪魔であるチチクリの方が、お前たちよりもずっと聖人だったよ……」


 流石は悪霊である。その分類に相応しい邪悪な思考。二人はベルカを壊れるまでこき使うことで、意見が一致していた。


『旦那様を殺そうと考えていたのです。生温い死を与えてはなりません。徹底的に精神を削り取り、廃人となるまでこき使うべきですから』


 もうクリエスにはどうしようもなかった。クリエスまで騙そうとしたのはベルカの失態である。クリエスには彼を慕う強大な悪霊がいるのだ。ベルカは彼女たちを怒らせてしまったのだから。


「まぁたレベル上げしなきゃいけねぇな。とりあえずベルカさんを売るのはなしだ。俺はこれでも聖職者だし、売るのも買うのも御法度なんでな……」


『旦那様がそう仰るなら……』


 一応はミアも溜飲を下げている。怒り狂っていた彼女ではなくなっていた。


「あとイーサとミア、もう二度と俺の身体を乗っ取るなよ。同意なく身体の支配権を奪った場合……」


 クリエスは考えていた。罰則くらいでこの二人は抑え込めない。だとすればクリエスが取るべき対応は一つしかなかった。


「俺は自害して輪廻に還るからな――――」


 衝撃的な話に二人は取り乱す。流石にそんなことは考えていなかったらしい。自ら命を絶ち、天に召されるなど。


『婿殿、妾はずっと一緒にいたいのじゃよ! この先に一人で過ごすなんて考えられんのじゃ!』

『旦那様、この私めに罰をお与えください! 旦那様のいない世界など考えられません! どうかご再考願います!』


 彼女たちの返答にクリエスは眉根を寄せている。

 確か憑依した霊体は魂を共有しているのだ。もし仮に依代が失われたのなら、霊体は同時に消失してしまうはず。なのに彼女たちはまるでクリエスだけが天に還るような口ぶりである。


「まさかと思うが、お前ら俺が死んでもこの世に留まるつもりか?」


 ジト目をして聞く。そうとしか考えられない。彼女たちはクリエス共々失われるつもりがないこと。また裏を返せば再び身体の支配権を奪うつもりだとも受け取れた。


『わ、妾は婿殿の言うことを聞くぞ! ただ危なくなれば別のものに憑依する……』

『旦那様の如何なる要望にも、私はお応えする所存です! ただ最後の時はお見送りさせて頂きます……』


 一蓮托生かと思われた悪霊だが、やはり邪悪な思考をしている。クリエスは軽蔑の眼差しで彼女たちを見ていた。


「お前たちの考えはよく分かった。俺は共に死ぬこともできない存在だったんだな?」


 クリエスの言葉に悪霊の二人は声を詰まらせる。流石に悲しげな表情は見たくない。一応は彼女たちもクリエスを慕ってついてきたのだから。


『ぐぬぅぅ……。妾に捨てられたと思って不貞腐れる婿殿は萌えなのじゃ。いいぞ、妾はその時、一緒に天へと還ってやろう!』


「いや、だから身体を乗っ取るなという話なんだがな……」


 まずはイーサ。彼女はクリエスと共に天へと還る決意を口にしている。


『私も旦那様と一緒にイキます! 夫婦は永遠なのです! たとえこの世に存在がなくなったとしても!』


「俺が頼んでいるのは一緒に消え去ることじゃねぇよ……」


 ミアもまたクリエスと共にあることを誓う。クリエスの死が自身の最後であることを。


「なら二人とも女神に誓え。ここに契約を執り行う。もう二度と俺に楯突かないのだと制約を交わすぞ……」


 クリエスは本気だった。契約魔法は得意分野ではなかったが、バナム大司教からもらった魔導書に契約魔法が記されていたのだ。魔導書を片手に彼はやり遂げるつもりのよう。


『けけ、契約じゃと!?』

『そんなご無体な……』


 やはり悪霊たちは口約束とするつもりだった。女神は全ての親とも言える存在。よって世界を震撼させた強者といえども契約をすれば逆らう術はない。


「嫌ならもう俺に取り憑くな。俺はお前たちに嫌気が差している。契約できないのなら、それまでだ。二度と口を聞きたくないし、姿も見たくねぇよ……」


 口調こそ柔らかいものであったが、クリエスの怒りは悪霊の二人へと明確に伝わっている。絶対に許してもらえないほど怒っているのだと理解できた。


『駄肉のせいじゃぞ!?』

『黙りなさい! 私は旦那様に誓います。全て貴方様の仰る通りに。契約が必要であれば契約します。私は従順な妻なのですから』


『ズルいのじゃ! なら妾も契約する! 妾は婿殿だけを愛する。この愛は永遠なのじゃ』


 どういう風の吹き回しか、二人は契約を受け入れている。もしも女神に誓ってしまえば、彼女たちは永遠に逆らえなくなるというのに。


 頭を小さく上下させるクリエス。予想とは異なったけれど、二人が思いつきで取り憑いたわけではないと知る。契約は世界において絶対なのだ。ベルカがミアに逆らえないように、女神に誓った内容は如何なる強者でも抗えない。


『婿殿、じゃから妾を嫌わんでくれい!』

『旦那様、愛しております! 存在が許される限り、貴方様と共に!』


 クリエスはアイテムボックスから魔導書を取り出し、契約を始めた。

 まずは女神に誓うのだ。名前と内容を明らかとする。


「大地を守護する女神に誓う。クリエス・フォスターに対し、イーサ・メイテル及びミア・グランティスは主従の関係を結ぶ。主たる者はクリエス・フォスターであり、従たる者はイーサ・メイテル並びにミア・グランティス。如何なる場合も主の命令を遵守し、従は全てを聞き入れるものとする」


 述べられる文言は契約の内容である。魔道書にある契約はクリエスが知るものと少しばかり異なっていたけれど、この機を逃して二人に服従させる機会などない。今はバナム大司教に貰った魔道書を信じるだけである。


「主たるクリエス・フォスターは誓う。従たるイーサ・メイテルは誓うか?」


 ここでイーサが誓う番。同意すれば彼女はクリエスの従者となってしまう。


『妾は誓うぞ。この愛こそは本物なのじゃ。妾は存在の全てをクリエス・フォスターに捧げよう』


 イーサが誓った。契約以上のことを彼女は言ってのける。存在の全てをクリエスに捧げるのだと。


「従たるミア・グランティスは誓うか?」


『私はいつ何時もクリエス・フォスターと共に歩みます。主人たるクリエス・フォスターの意を汲み、常に寄り添うと誓います』


 ミアもまた同意していた。これにより悪霊の二人は行動を制限される。世界を治める女神にその名と制約を誓ったのだから。


「ここに契約を成す。大いなる世界と守護者たる女神の下に制約は結ばれた……」


 クリエスの手から輝きが放たれる。それは瞬く間に悪霊の二人へと降り注いだ。神を保証人とする契約がこれにて完了となる。


『ぐぁぁあああっ!?』

『きゃぁあぁあっ!?』


 流石に神聖魔法による契約は悪霊の二人にはキツかったらしい。身体を焼かれるような感覚が二人にはあったはずだ。


 しかし、程なく絶叫は収まり、契約は問題なく成されている。


「よし、お前たちはもう俺の従者だからな?」


『婿殿、少しくらい優しくしてくれなのじゃ』

『旦那様、これで名実ともに夫婦となれましたね……』


 疲労困憊の二人。しかし、契約は成立している。クリエスはステータスの弱体化を被ったものの、結果として信頼できる戦力を手に入れていた。


 刹那に脳裏へと響く通知。何故だか分からないがステータスに変化が起きたらしい。


『女神の加護が昇格できます。昇格しますか?』


 通知内容は何故かシルアンナの加護であった。アイテムボックスから各種通知までを行う便利なものなのだが、それが昇格できるらしい。恐らくは何らかの通知が発生し、先にシルアンナの加護が昇格要件を満たしたのだろう。


「マジか。まあシルアンナの加護は昇格しておくべきだ。昇格するぞ!」


 即座に了承するクリエス。どうなるのかまるで分からなかったけれど、女神の加護をアップデートしている。


『シルアンナの加護はシルアンナの寵愛へと昇格しました。以降はいつ何時も交信することが可能です』


 どうやら昇格した[シルアンナの寵愛]はいつでも彼女と通話できるスキルのよう。教会に駆け込まずとも報告できるようになるようだ。


「おお、なかなか使い勝手が良さそうな昇格じゃねぇか。ちょうど報告したいことがあるし!」


 クリエスは早速とシルアンナの寵愛を実行する。悪霊の二人を遂に従順な配下としたことを伝えようと考えた。とても便利で有能なスキルに昇格したと思う。


『はい、シルアンナです。只今留守にしております。ピーッと鳴りましたら、ご用件をお話しください……』


「まるで使えねぇな、コレ!!」


 思わず声を荒らげてしまう。話したいことがあったというのに、留守だなんてと。


「ちくしょう……」


 クリエスが溜め息を吐いていると、再び脳裏に通知音が響く。

 困惑するしかない。なぜならその通知は脳裏に延々と鳴り響いていたからだ。


『サブジョブ[ネクロマンサー]を獲得しました』

『サブジョブ[魔王候補]を獲得しました』

『スキル【催淫】を獲得しました』

『スキル【死霊術】を獲得しました』

『スキル【腐食術】を獲得しました』

『火属性を獲得しました』

『風属性を獲得しました』

『ファイアーアローを習得しました』

『ウインドカッターを習得しました』

『爆裂魔法を習得しました』


 怒濤の通知に息を呑むクリエス。加護の昇格にはガッカリさせられたものの、続けられた通知はにわかに信じ難いものであった。何しろ普通の契約を結んだだけ。魂を取り込んだわけではなかったのだ。


「いやしかし、このサブジョブは……」


 更なる困惑は得られた内容にある。ネクロマンサーはともかく、魔王候補だなんて。サブジョブではあるけれど、確か魔王候補は魔王へと昇格する前段階のジョブであるはずだ。


『婿殿、どうしたのじゃ?』


 戸惑うクリエスにイーサが声をかけた。従たる者の彼女にはクリエスの変化など分からないのかもしれない。


「いや、お前たちのジョブやスキルを覚えたんだ……」


 クリエスの返答に二人もまた驚愕する。本来の主従契約ではあり得ないことだ。奴隷にしたとしてもジョブやスキルを奪うようなことにはならない。


『旦那様、それはひょっとして私たちが取り憑いている状態だからかもしれません』


 ミアが見解を口にする。この契約よりも前に二人がクリエスを宿り木としたこと。クリエスの魂に乗っかっていた彼女たち。契約によって強固な結びつきとなった可能性がある。


「信じられんが、そうかもしれない。普通の奴隷契約よりも強く結びついてしまったらしい」


 祓うつもりでいるのだが、徐々に関わりが強くなっている。スキルはともかく、ジョブを共有してしまうなんて流石に笑えない話だ。


『婿殿、妾たちは名実共に番いじゃの!』

『こんなにも近くに感じられるなんて幸せです!』


「気色の悪いことをいうな……」


 否定しながらも、クリエスにだって彼女たちの感情が伝わっていた。歓喜する二人の想いが意図せず流れ込んでくる。交わしたものは普通の奴隷契約であったというのに。


 まあしかし、祓えない現状ではベストの選択だろう。もう身体を乗っ取られることはないだろうし、クリエスの命令に彼女たちは逆らえないのだから。


「そいや、こいつらの情報が見えないかな?」


 魂強度不足で何も分からなかった二人のステータス。強い結びつきとなった今であれば何かしらの情報が得られるのではと思う。


「魔眼っ!」

 即座にクリエスは魔眼を実行する。二人のステータスを明らかにしようと。



【名前】ミア・グランティス

【種別】悪霊(ハイエルフ)

【ジョブ】ネクロマンサー

【属性】闇・風

【レベル】2128

【性別】女性

【体力】0

【魔力】4058

【戦闘】4991

【知恵】3876

【俊敏】0

【信仰】0

【魅力】4540

【幸運】0

【スキル】

・死霊術(100)

・死霊使役術【極】(100)

・死体使役術【極】(100)

・アンデッド耐性(100)

・アンデッド耐性【極】(100)

・簡易腐食術(100)

・腐食術(100)

・腐食術【極】(100)

・アンデッド生成術(100)

・アンデッド生成術【極】(100)

・ウインドカッター(1)

【固有スキル】

・ハイエルフの睨み(100)

・猛毒(100)

【従契約】クリエス・フォスター



 唖然としてしまう。レベル1000以上が確定していたけれど、ミアのレベルはその倍以上である。体力値などは死霊であるからだろうが、残りの数値は目を見張るものがあった。


「祓えるはずがねぇよ……」


 ゴクリと唾を呑み込んでから、クリエスはイーサにも魔眼をかける。

 彼女の場合はミアよりも覚悟が必要だ。何しろミア・グランティスを殺したのはイーサ・メイテルなのだから。



【名前】イーサ・メイテル

【種別】悪霊(サキュバス)

【ジョブ】魔王候補

【レベル】2498

【属性】闇・火

【性別】女性

【体力】0

【魔力】10199

【戦闘】12556

【知恵】14045

【俊敏】0

【信仰】0

【魅力】20554

【幸運】0

【スキル】

・催淫(100)

・超催淫(100)

・プロージョン(100)

・ハイプロージョン(100)

・エクストリームテラプロージョン(100)

・ファイアーアロー(1)

・ダークフレア(1)

・不明

【固有スキル】

・女王の魅了

【称号】神殺し(全基礎値5割増)



「何だよ、これ……」


 ミアでもあり得ない数値であったというのに、イーサは次元が違う。称号により基礎値が五割増となっていたけれど、それを引いたとしても彼女は絶対的な強者であった。


「イーサとミアの属性が俺に流れ込んだわけか……」


 通知にあった火属性と風属性の獲得はどうやら二人が原因らしい。またツッコミどころ満載のステータスには言葉がなかった。


「イーサにはまだ未確定項目がある……?」


 どうしてか所有スキルの一つが不明なままである。しかし、この強さなのだ。クリエスのステータスでは閲覧しきれないのかもしれない。


『婿殿、今度こそ妾のあられもない姿を見たのかえ?』


 惚けた顔をしてイーサが聞く。恐らく彼女は分かっている。圧倒的な強者であるのだ。クリエスがステータスを覗き見たことくらい察知しているだろう。


「まあな。神殺しとか半端ねぇな。それにこの魅力値は……」


 魅力値はイーサが魔王候補たる所以だ。比類なき魅力値により竜神を籠絡し、彼女は絶大な力を得たのだから。


「余裕があるわけだな。俺が祓うといったところで……」


 レベル321になったとして足元にも及ばない。もしも彼女が本気で魔王を目指していたのなら、数日で可能だったと思う。何しろイーサは覚醒に乗り気ではなかったと聞いているのだ。


「あれ……?」


 ここでクリエスは思い出していた。

 そういえば剣士のサブジョブを得たとき、ステータスが上がったのだ。メインはクレリックであったけれど、剣士として上がるべきステータスがプラスされていた。


「まさか……?」


 現状のクリエスはサブジョブに魔王候補とネクロマンサーを手に入れた。従って補正によるステータスアップを成し遂げている可能性がある。


 緊張しながらも、クリエスは自身のステータスを開いている。



【名前】クリエス・フォスター

【種別】人族

【年齢】17

【ジョブ】クレリック(剣士)(ネクロマンサー)(魔王候補)

【属性】光・闇・雷・火・風

【レベル】321

【体力】260

【魔力】224

【戦闘】216(+64)

【知恵】206

【俊敏】250

【信仰】262

【魅力】194(女性+320)

【幸運】91

【加護】シルアンナの寵愛

【スキル】

・ヒール(99)

・浄化(53)

・魔眼(55)

・剣豪(2)

・隠密

・ライトニングボルト(1)

・ハイスピアサンダー

・ダークフレア

・ファイアーアロー(0)

・プロージョン(0)

・ハイプロージョン

・エクストリームテラプロージョン

・ウィンドカッター(0)

・死霊術(0)

・死霊使役術【極】

・死体使役術【極】

・アンデッド耐性(0)

・アンデッド耐性【極】

・腐食術(0)

・腐食術【極】

・アンデッド生成術(0)

・アンデッド生成術【極】

・催淫(0)

・超催淫

・プロージョン(0)

・ハイプロージョン

・エクストリームテラプロージョン

・ファイアーアロー(0)

・ダークフレア(0)

【付与】

・貧乳の怨念[★★★★☆]

・女難[★★★★☆]

【称号】

[変態紳士](パーティ内に巨乳がいると戦闘値10%アップ)

[ドラゴンスレイヤー](竜種に対して戦闘値50%アップ)



 クリエスのステータスはベルカが加わる前と同水準にまで戻っていた。魔王候補はいうに及ばず、恐らくはネクロマンサーもSランクジョブなのだと思われる。現状は八分の一であったというのに、これだけの補正が入った理由は間違いなくSランクジョブ二つの補正によるものだろう。


「あれ? 火属性と風属性魔法だけどうして初級しか覚えていないんだ?」


 丸ごと覚えたものと初級魔法だけ覚えたものがある。使用に関しては初級魔法の熟練度不足でグレーアウトしていたけれど、火属性と風属性魔法は初級の魔法しか表示されていない。


 クリエスの疑問に二人は苦笑いを返す。どうやら思い当たる節があるらしい。


『火属性魔法なんぞ使う気になれなんだ……』

『腐食術が強力でしたし……』


 どうやら二人は少しも種族的属性魔法を使っていなかったようだ。正直に残念であったけれど、彼女たちが使用していたスキルはクリエスのものとなっている。充分に戦っていけると思えるものだった。


「これならいける……」


 にわかに希望を見出していた。現状は八分の一しかステータスが伸びないのだが、得られた二つの強力なジョブによって相殺できるのではないかと。


「とりあえず先を急ごう。ベルカさん馬車の用意をお願いできますか?」


「クリエス様、呼び捨てで結構です」


 どうにも距離感が掴めないけれど、ベルカは馬車の停留所まで案内してくれる。


 激変した自身の能力。ステータス自体はほぼ同じであったけれど、恐らく成長率は以前を遥かに凌ぐだろう。


 クリエスは自分自身に期待しつつ、旅路を急ぐのだった。

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