第030話 グリゴリの進化
アクアドラゴンを討伐したクリエス。
グリゴリの申し出によって、彼を使役することになっている。
『あとは旦那様がグリゴリの額に手をかざして、魔力を注ぐだけです。魂の格が劣っていなければ、絶対服従の関係となります』
「おい、グリゴリは割と高位の悪魔なんだろ? 部下がいるとか話してたし。俺の格が劣ってるとどうなるんだ?」
ミアが術式の大半を代行してくれているのだが、その方法は一般的なテイムや奴隷契約と異なっていた。自害しろとの命令にも背けない強力な呪いとも言える使役術。それだけにクリエスは失敗時のデメリットが気になってしまう。
『グリゴリは別に大したことない悪魔ですよ? 旦那様でしたら二十体は同時に使役できる程度です』
「それはマジで言ってるのか? 冗談とかおべんちゃらじゃなく……」
悪霊の二人はクリエスを過大評価している。よって彼女の話を鵜呑みにはできない。
『冗談なら一万体と言っております。先程から旦那様の魂はグッと重くなりましたし、まるで問題ないでしょう。私が使役する上位の魔物でも可能かと思います』
具体的な話にクリエスは頷いていた。レベルにして100という魂強度を得たのだ。ミアが話す通りであれば、グリゴリを使役できるはず。
ならば決心はついた。アクアドラゴンとも戦える悪魔を使役できるのだ。加えてグリゴリの部下である巨乳悪魔にも興味があり過ぎる。
「グリゴリ、俺に全てを捧げろ! 俺の盾となり、俺のためだけに生きよ!」
魔力を手の平に込め、術式を完結させる。強大な悪魔を従属させるために。
「御意に。いつ何時も主人様と共に。巨大な連山にある桃源郷を我ら二人は共に目指しましょう。私たちは同じ[巨]の導きに誘われているのですから……」
グリゴリの身体を優しい光が包み込み、これにて契約となる……予定であった。
「ぐぁぁあああ!」
突如として苦しみ出すグリゴリ。何事か分からぬクリエスは指示してくれたミアの意見を聞く。
「おい、どうなってんだ!?」
『強烈な拒否反応です! 旦那様が先天的に持つ光属性が悪魔を排除しようとしております!』
どうやらクリエスが光と闇のダブルエレメントであったことが、闇属性であるグリゴリを苦しめているらしい。相反する属性は水と油のように混じり合うことなどないという。
「どうしたらいいんだよ!?」
『こうなるとグリゴリが突発的進化をするしかありません。旦那様の光属性を取り込み、適合しようと己を再構築するしか……』
やはり雑魚ですねとミア。まあ確かに彼女が話す通りかもしれない。何の問題もなくクリエスに取り憑いたミアである。グリゴリが抱える問題に気付かなかったようだ。
「グリゴリ頑張れ! 巨乳が俺たちを待っているぞ! 二人して壮大な山々に挑もうじゃないか! 頂に咲く薄桃色をした蕾を愛でる前に死ぬなよ!?」
必死でグリゴリを鼓舞する。巨乳山に咲くピンク色の蕾を二人して探しだそうと。
一方で苦しみ続けるグリゴリであるが、クリエスの声に何とか反応を示す。
「あ、主人様……。きょにゅ……ぅ。デカ……ぱ……ぃ……」
グリゴリの精神力を支えていたのは巨への憧れ。生きる意欲はその一点のみであった。
程なくグリゴリを包み込んだ光が消え失せ、地面に伏した彼は少しも動かなくなってしまう。
「ミア、グリゴリは無事なのか!?」
『何とか持ち堪えたようです。旦那様の声かけが良かったのかもしれません』
「マジで? じゃあ、グリゴリは進化したってのか!?」
クリエスが声を張ると、グリゴリはようやくと薄く目を開く。
「おい、グリゴリ! しっかりしろ!」
「あ、主人様……。私は生まれ変わりました……」
朦朧とした目でグリゴリ。どうやらミアが話す突発的進化により一命を取り留めたらしい。
「私は新たな生を受けたのです。進化によって、もう以前のグリゴリではなくなりました。以降はグリゴリ改め……」
グリゴリは生まれ変わったらしい。従って彼は新たな名前をクリエスに告げる。
「チチクリとなりました……」
「最低な進化じゃねぇか!?」
乳繰りだなんあんまりだと思う。一文字しか合っていないし、その意味合いが最悪だ。とても高位の悪魔だとは思えない名前になっている。
嘆息しつつも、クリエスは受け入れるしかない。名前のことはひとまず置いて、問いを投げている。
「それでチチクリは何が変わったんだ?」
進化が何をもたらせたのか気になっていた。通常の進化ではないにしても、何かしらの能力を得たのではないかと。
「ええまあ、かなり変わりました。今まで善だと考えていたことも、実は悪なのではと……」
進化は光属性を受け入れることで成されている。従ってチチクリはこれまでの善悪概念が一変してしまったのだと考えられた。
「なるほど、それは良かった。俺は聖職者だし、お前が善悪を区別できるなら嬉しく思うぞ」
クレリックであるのだから、使い魔は善である方が良い。チチクリへの進化はクリエスにとって悪くないものであった。
「進化によって私は変わりました。グリゴリであった頃には気にもしませんでしたが、チチクリとなった今はよく分かります。今や私は紳士。美意識が一変いたしました。やはり紳士たるもの……」
自信満々にチチクリ。自らが紳士たる所以を口にする。
「乳輪にもこだわるべき!」
「やっぱ最低の進化だ!!」
名前が変わっただけかと思いきや、変態に磨きがかかっている。非常に残念な使い魔をクリエスは手に入れていた。
「ところでチチクリは姿が消せるんだろうな? 流石に悪魔を連れて街へは行けんぞ?」
「主人様、もちろんでございます。紳士ならば姿を消すなど当たり前。気遣いは誰よりも有しておりますから……」
変態なだけで、意外と有能な使い魔である。これであれば召喚しっぱなしで護衛させることも可能だ。
「女子更衣室では姿を消しますゆえ!」
「うーん、変態!!」
今思えば、ミアは厄介払いをしたかったのかもしれない。グリゴリはアンデッド軍勢の一角であるが、紛れもないド変態なのだから。
「そいや、レベルアップしたんだったな……」
一度に100もレベルアップしたのだ。ステータスアップは四分の一であったけれど、流石に期待してしまうところである。
【名前】クリエス
【種別】人族
【年齢】16
【ジョブ】クレリック(剣士)
【属性】光・闇
【レベル】129
【体力】170
【魔力】142
【戦闘】139
【知恵】125
【俊敏】185
【信仰】192
【魅力】118(女性+160)
【幸運】29
幸運値はともかくとして、概ね80近く上昇している。本来ならこれの四倍強くなっていたかと思うと流石に残念であるが、現状はどこに出しても恥ずかしくないステータスとなっていた。
ざっと見たクリエスだが、唖然としている。通知に気付かなかったのか、ステータスに謎の項目が追加されていた。
【称号】ドラゴンスレイヤー(竜種に対して戦闘値50%アップ)
「マジで? 俺は瀕死のドラゴンにとどめを刺しただけだぞ?」
竜種のみという縛りはあったものの、称号は有能なものらしい。スキルと同じようにステータスに影響を与えている。
ここでクリエスは閃いていた。かなりのステータスアップを遂げたのだ。だとすれば悪霊の二人を祓えるのではないかと。
「お前ら、輪廻に還るか?」
『婿殿、まだ無理じゃ。もっと鍛錬せい』
『十六歳としてはなかなかですよ?』
悪霊の二人は平然としている。この分だと祓うのは不可能なのだろう。ならばとクリエスは魔眼を使って二人のステータスを覗き見る。
【名前】イーサ・メイテル
【種別】悪霊(サキュバス)
【ジョブ】魔王候補
【レベル】測定不能(1000以上)
【属性】闇・火
【性別】女性
魂強度が上がったからか、属性が判明している。ステータス値は全て不明のままであったが、レベルの項目については不明から千以上に変化していた。
「ステータスは相変わらず不明なまんまか。てか、千以上って何だよ?」
『むふふ。婿殿や、まぁた妾のことを見ておるのか?』
「これだけのレベルでも魔王候補だったんだな……」
イーサが魔王として覚醒しなかった理由が分からない。レベル1000を超えるイーサでも魔王化に足りなかったなんて、クリエスに理解できる事象ではないようだ。
ミアにも魔眼をかけて見るも、結果は同じである。彼女もレベル千以上で属性が闇と風のダブルエレメント。クリエスの属性に影響を与えたのは闇だけであるし、どうやら二人共が闇属性をメインとしているらしい。
「じゃあ、チチクリはどうなんだ?」
ここで使い魔のチェックを始める。先ほど、その強さは目の当たりにしたけれど、やはり詳細を知りたく思う。
「見通せ、魔眼!」
再び視界に浮かぶ文字。使い魔であるチチクリは詳細な情報が見て取れている。
【名前】チチクリ
【種別】悪魔(上級)
【ジョブ】使い魔(クリエス)
【レベル】201
【属性】闇・光・雷
【性別】男性
【体力】198
【魔力】240
【戦闘】155(+31)
【知恵】160
【俊敏】59
【信仰】0
【魅力】8
【幸運】10
【スキル】
・ライトニングボルト(100)
・ハイスピアサンダー(78)
・ダークフレア(100)
・ヘルバースト(15)
・隠密(100)
【称号】変態紳士(パーティ内に巨乳がいると戦闘値10%アップ)
「マジか。進化して光属性を獲得したのか……?」
雷属性魔法を唱えていたから、恐らく進化前は闇と雷のダブル。しかし、チチクリは光属性を受け入れたことで、トリプルエレメントとなっていた。
「称号も進化によるものだろうな……」
チチクリもまた称号を持っている。その内容は名前と同レベルで最低なものであるけれど、戦闘値が一割アップするという有益なものであった。
「主人様、どうでしょう? 私の強さは?」
ジッと見つめるクリエスに気付いたのか、チチクリが聞いた。変態紳士はともかくとして、使い魔として納得できる強さである。
「ああ、役に立ちそうだよ。よろしくな?」
「もちろんです。我らは険しい双子山を登るバディも同然。必ずや双方が登頂し、山頂にある薄桃色をした果実を収穫しようじゃありませんか!」
苦しんでいる折に思わずかけてしまった詩的表現を返され、クリエスは白目を剥く。新たな黒歴史の誕生に魂が抜けそうになってしまう。
「とにかく公王城に戻るか……」
クリエスはアクアドラゴンをアイテムボックスへと収納し、悪魔と悪霊二体を引き連れ元来た道を戻っていく。
戦力は増強されたというのに、どうしてか苦い顔を浮かべながら……。
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