第006話 ガチャの結末

 天界の下界管理センターにある一室。甲高い叫び声が木霊していた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁっっっ!」


 叫声の主はアストラル世界の主神ディーテだ。彼女はSSランクスキルを得ようと欲張ったものの、現実を突きつけられている。



【淑女】魅力が3%アップ(女性のみ)

【レアリティ】★

【種別】補助スキル



「コレどうなってんの!? 男神たちは絶対に確率を操作してるでしょ!? 最高神様に訴えてやるわ! 返還請求よっ!」


 五万という神力を使用し、ゴミスキルを手に入れていた。スキル【淑女】は加護として与える価値のないスキルである。


「ディーテ様、落ち着いてください!」

「落ち着いていられますかってのよ! シル、今から天上界へと文句を言いにいきましょう!」


 本当に殴り込みに行きそうなディーテをシルアンナは何とか宥めている。まだ二人にはガチャを引く最終手段があったのだ。


「補填用のスキルガチャなら無料で一回引けます! 私たちは召喚ガチャを引いているので、無料のスキルガチャが一回だけ引けるはずです!」


 有償の召喚ガチャを引けば、神力を失った女神でもスキルが与えられるように一回だけ無料のスキルガチャを引けた。Aランクまでしか排出されなかったものの、背に腹は代えられない。


「補填ガチャ? 何だか燃えないわね……」

「そんなこと言ってる場合じゃないですって!」


 渋々とディーテは補填ガチャを回す。何の期待もせずに淡々と。



【透視】熟練すれば全てを見通す。

【レアリティ】★★★

【種別】行動スキル



「えっと……」

「ほら見なさい? やはり無料ガチャではこんなものです!」


 一応はBランクであった。しかしながら、救世主に求められるスキルではない。


「じゃあ、私も引きますね……」


 保留時間は10分しかない。とりあえずシルアンナもガチャをして、その後にスキルの配分をするしかなかった。



【超怪力】常に戦闘値50%アップ

【レアリティ】★★★★

【種別】補助スキル



「あっ……」

 何気なく引いただけだ。しかし、シルアンナは求められているAランクスキルを引き当てている。


「やりましたよ、ディーテ様!」


 嬉々としてディーテを振り返る。このスキルを陽菜に授けることで、陽菜が勇者として戦える可能性が現実味を帯びるのだ。


 ところが、鬼の形相をして唇を噛む女神がシルアンナの視界にいた。


「キィィィ! どうしてシルばっかり! 他に引けるガチャはないの!? ワタシはもっとガチャがしたいのよぉぉ!」


 ディーテが壊れてしまう。シルアンナばかりが高レアリティを引いたことによって、彼女のギャンブル魂に火をつけてしまったようだ。


「ディーテ様、とりあえず神力を貯めましょう! 今回はこの二人に転生してもらい、以降については追々考えるべきです!」


 今すべきことと、やるべきことは明確に決まっている。それはガチャではなく、世界に危機が迫っていると知る魂をアストラル世界に送り込むことだ。


「今はこの二人に託し、アストラル世界の危機を回避しなければなりません! それに見習いのポンネルも信徒を増やそうと頑張っています。あの子がガチャを引く頃に少しでも好転しているように私たちは行動すべきです!」


 シルアンナとしては精一杯の説得である。アストラル世界には、あと一人女神がいるのだ。彼女はまだ国教とした国を一つも持っていなかったけれど、それでも神託を与えるなどして、信徒を増やそうと頑張っている。


 そんな折、ディーテの女神デバイスが音を立てた。

 どうやら着信のようで、ディーテは直ぐさま応答許可を出す。


『ディーテさまぁぁっ! 申し訳ございませぇぇん!』


 眉根を寄せるディーテ。その声は間違いなく見習い女神のポンネルである。


『わたし、やってしまいましたぁぁ!』

「落ち着きなさい。ポンネル、何を失敗したというの?」


 慌てふためくポンネルに、ようやくディーテは平静を取り戻している。彼女は主神であり、ポンネルの教育係だ。新人のやらかしを補ってあげることこそ、教官としての役割である。


『わたし、集落の一つに神託を与えたんですぅ!』


 やらかしと考えていたものの、伝えられる内容は別に問題のない話だ。副神以下の女神は神託を与えることで信徒を増やしていく。よってポンネルの行動は咎められる内容を含んでいない。


『そしたらなぜか、魔王発生値が上昇してしまってぇぇ!』


 そういえば魔王発生率が85%となっている。いよいよ後がない状況に変化していた。


「ポンネル、一体どのような神託を与えたのですか?」


 正直に80%以上は確定的な未来である。それ以降の上昇は猶予が少しずつ失われることを意味していた。


『村人たちはとても迷っていたのですぅ。ですのでぇ、人は生まれながらに自由だとぉ……。わたし、やってしまいましたかぁぁっ!?』


「落ち着きなさい。村人は何を迷っていたのです!? 背中を押すにも内容を確認しろと言ったではないですか!?」


 見習いを一人にしたことはディーテにとって失態であった。自身が側にいることで避けられたかもしれない話である。


『実は土着神信仰の勧誘を受けてまして、改宗するかを悩んでいたのですぅ……』


 ディーテだけでなく、シルアンナも薄い目をしている。土着信仰は女神たちとは無関係だ。カリスマを持つ者や自然の事象を崇めたりする信仰であった。


 また発生値が上がる理由はその土着神に問題があるからであり、土着神の教えが世界を否定しているからだろう。いわゆる邪教に分類されるからであって、世界がバランスを崩す要素の一つであった。


『ああぁ、今度は警報値が上がってしまったのですぅ! 北大陸の中央山系に魔王候補が発生してしまいましたぁぁっ!』


 遂に魔王候補が発生してしまったようだ。こうなると魔王候補が成長し、覚醒をして魔王となるのを未然に防ぐしかできない。


「ポンネル、もう何もしないでください。どうせ魔王候補の誕生は時間の問題でした。千年前の災禍でも北大陸のデスメタリア山に魔王候補は生まれたのです。あの山は悪い気が溜まりやすいのですから……」


 必死になってポンネルを落ち着かせるディーテだが、慌てたポンネルの残念な報告が続く。


『どうしてなのぉ!? 今度は邪竜発生値が3%も上昇してしまいましたぁぁっ!』


 追加的な報告を受けた二人は呆然としている。

 嘆息しつつも、この先にある未来を女神の二人は予想していた。


「「アストラル世界、滅びるわね――――」」

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