第百五十九話 カカニア

 久しぶりのカカニア。皆、元気だろうか。キーアが死んだときに俺はここに戻ることが出来なかった。戻っては行けないと思ったから。


 今なら、今ならば戻っても良いかな……キーア……俺、このまま生きていて良いかな。皆と共に……フィーと共に生きても良いかな……。



 ヒューイがゆっくりと降下していく。すでにヤグワル団長たちは竜から降りていた。村の人間が大勢集まっている。



「リュシュ!!!!」



 見下ろすとラナカの姿が!!



「ラナカ!!!!」



 ヒューイが地上に降り立つと、フィーと共に背から降りる。


 ラナカが駆け寄り、飛び付いて来た。


「おかえり! リュシュ!! あんたがまさか竜騎士になってナザンヴィアと戦ったなんて!!」


「ん? 聞いたの?」


 ラナカは興奮冷めやらぬ状態でしがみついていたが、身体を離すと嬉しそうに頷いた。


「竜騎士さんたちがこの村にやって来たときに聞いた。まさかそんなことになってるなんて思わなかったから、凄い心配したんだからね!」

「ハハ、ごめん、心配かけた」

「それにしても立派になったわね。身体付きもがっしりしてるし、魔法も使えるようになったんだって?」

「うん、色々あってね……」


 話したいことは山ほどあるが、一度に話しきれない。キーアを思い出ししんみりしてしまったせいか、ラナカが心配そうな顔になる。


「うん、大変だったね。なにがあったとかはまた話したくなったら話してよ」


「ありがとう、ラナカ……」


 ラナカにはやっぱり敵わないな。


 両親もその後出迎えてくれ、再会を喜び合った。母さんなんかは泣いていたしな。本当に俺の家族は優しい人たちだ。



「リュシュ?」



 そして聞き覚えのある声に振り向くと、ミリアがいた…………俺の元許嫁だ。


「ミリア……」


「久しぶりね、リュシュ。元気にしてた?」


「う、うん、まあ」


 ラナカはめちゃくちゃ嫌そうな顔。

 ラナカから聞いていた話ではミリアは俺と許嫁を解消したあと、ライアンと結婚したらしい。しかしどうもあまり上手く行っていないようで別れそうだ、と聞いていた。


「あんた、なにしに来たのよ」


 ラナカが睨みながらミリアを牽制する。こ、怖い……。


「リュシュってばめちゃくちゃ強くなったんでしょ? 今回ナザンヴィアからドラヴァルアを救った英雄なんでしょ?」


 そう言いながら近寄って来たミリア。な、なんだ、英雄って! そんな話になってんの!?


 ラナカが俺とミリアの間に割って入る。二人の間に火花が散っていそうだな、とちょっと怖い。


「リュシュ」


 そんな二人の睨み合いに固まっていると、背後からフィーが声を掛けて来た。そして俺の腕を掴むと後ろに引っ張った。


「え、フィー?」


 ずりずりと後ろに引っ張られ転びそうになる。


「あなた誰よ!」


 ミリアが叫ぶ。いや、なんでミリアがそんなキレてんだよ。


「私か? 私はドラヴァルアの王だが」


「「!?」」


 ラナカもミリアも驚いた顔になった。ついでに言うと俺も驚いた顔になった。いや、だって、フィーが自分から女王と名乗るなんて……あれほど女王でいることを嫌っていたのに……。


「フィ、フィー?」


「ん? なにか悪いことを言ったか?」


「え、いや、悪くはないんだけど……」


 どうしたら良いんだ、この状況! そうあわあわしていると、マクイニスさんがやって来た。


「おかえりなさいませ、クフィアナ様。楽しかったですか?」


 こ、怖い!! なんだよこれ!! あちこち怖すぎるんだけど!! なんで俺こんなのに巻き込まれてんの!?


「楽しかったよ。リュシュの活躍を見ることが出来たしな」


「はぁぁあ…………まあ、もう終わったことは仕方ありません。もうなにも言いませんが、とにかく早く城へ帰りますよ?」


「リュシュも帰るぞ」


「え、もう?」


「当たり前だ。私と一緒にいるんだよ。私の傍にいてくれるんだろう? そういえば私の告白の返事を聞いていなかったか?」


「え、あ、その」


「告白!?」


 マクイニスさんがギロリと睨んで来た。

 ついでに言うとラナカとミリアが驚いていた。い、居たたまれない……。


「で、返事は? 君は私と結婚し王配となる」


「「「「えぇぇえ!!!?」」」」


 全員が驚きの声を上げた。それが聞こえたのか、周りにはヤグワル団長や竜騎士たち、フェイたちや村の人間まで、大勢集まってしまった。こ、公開処刑のようだ……。


「え、あの、えぇ!! いや、その……」


 こ、言葉が出ない!!


「リュシュ」


 フィーは真っ直ぐに見詰める。


 こ、これは覚悟を決めるべきか…………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る