第百五十八話 告白

 竜騎士たちが手際良く救助や後処理を行ってくれたおかげで、城やナザンヴィアの人々は落ち着きを取り戻していた。

 ナザンヴィアの兵や王都の人々からとても感謝され、皆笑顔となっていた。


 ヴィリーとは固い握手を交わし、俺たちはナザンヴィアを後にする。


 ヒューイは竜化し、俺とフィーを背に乗せた。大きく翼を羽ばたかせ大空へ舞い上がる。



「リュシュ!!!! また会おう!!!!」



 地上から空を見上げながらヴィリーが大きく手を振った。



「あぁ!!!! ヴィリー!!!! またな!!!!」



 大きく手を振り返すと、俺は手綱を握り締め、一度上空を旋回するとドラヴァルアに向けて飛んだ。



 ヴィリー、またな……また会おう!!



 清々しい気分でナザンヴィア城を後にした。






 ヤグワル団長を先頭に竜騎士たち、フェイ、アンニーナ、ネヴィルが飛ぶ。そして、それに続き、ヒューイと共に俺たちは飛ぶ。


 風が気持ち良い。行くときは不安な気持ちもあった。怖さもあった。しかし、俺はやり遂げた! 皆に助けられながら俺はやり遂げた。皆を守ることが出来た。良かった…………本当に良かった…………。


 グズッと鼻が鳴ったのが聞こえたのか、フィーが後ろから心配そうな声。


「どうした?」


「あ、いや、なんでもなくて……」


 泣いているなんて知られたくない!! ルドならきっとこんなことで泣かないはず!!


 ルドなら…………、ルド…………俺はルドじゃない…………比べたって仕方ない…………なのに、なぜこんな複雑な気分になるんだ?


 フィーはルドが好きだったんだよな…………俺じゃない…………俺のことを気にしてくれているのは俺がルドだったから…………俺がルドじゃなかったらきっとこんな関わることもなかったよな…………。


「…………」


「リュシュ?」


 心配そうなフィーの声。しかし俺は素直に喜べなかった。俺は……俺はどうしたいんだろうか…………。


「どうしたんだ、リュシュ」


 フィーはそう言うと俺を後ろからぎゅっと抱き締めた。そして俺の背中に顔を埋め呟いた。


「なんでも話して欲しい。私はもう失いたくない。ルドの魂が生まれ変わったとき、私は傍にいなくても良いと思っていた。でも…………リュシュ、君と会ってから、私は我儘になってしまった…………」


 背中に直接響くフィーの声、フィーの体温。それにドキッとする。


「我儘……?」


「あぁ……私は今まで自分の気持ちは言わないようにしてきたつもりだ。王として敬われることが辛かった。私は皆を犠牲にして生きて来たことが辛かった。だから必死に自分のことは抑えて生きてきたつもりだ。この身は皆のために捧げることが当たり前だと思っていた」


「フィー……」


 そんなことをずっと一人で抱えていたことが自分のことのように辛くなる。どれほど苦しかっただろう。どれほど孤独だっただろう。


「しかし……君と会ってから……私は我慢出来なくなってしまった……。最初はリュシュが《ルド》だから、そう思っていた。でも違う……。ルドだからというだけじゃない。もちろんルドのこともあるのだが……それでも……、君はルドとは違う」


「…………」


「ルドは他の者などどうでも良かった。私だけを守ろうとしてくれていた。そのことはとても嬉しかったよ。でもリュシュは皆を守ろうとするだろう? 私はそんなリュシュが好きだ」


「フィー……」


「幼い頃に出会って、「竜騎士になれ」そんな他愛もない言葉だけで私に会いに王都を目指してくれたのだろう? それを嬉しく思わないわけがない。そんな素直で周りを愛し、愛されるリュシュが好きなんだ。

 今の君が好きだ。もう自分を抑えたくなくなってしまった。

 君のせいだ。君のせいで私は我儘になってしまったんだよ。

 私の傍にいて欲しい」


 そう言葉にしたフィーはさらに一層力を込め、ぎゅうっとしがみついてきた。


「フィ、フィー!!」


 そ、そんなくっつかれると色々まずい!!


 だ、駄目だ!! 色々見透かされているのか、俺の不安をあっという間に取り除かれてしまった。こんなの…………こんなの好きに決まっているじゃないか!!!!


 顔が火照るのが分かる。心臓が高鳴る。ヤバい、今すぐ抱き締めたい!!


「うぅ……、あ、ありがと……フィー、その……俺……」



『おい、もうすぐカカニアに着くぞ』



 ドキドキしながら返事をしようとウダウダやっていると、ヒューイにめちゃくちゃ冷静に声を掛けられた。


「うあぁ! あ、うん、そうだな!」


 は、恥ずかしい!!!! ヒューイに聞かれていた上にめちゃ声が上ずった! かっこわるっ!


 気付けばノグルさんとナティの村だ。

 皆、何事もなかったかのようにいつも通りだ。良かった。二人が変わらず平和に暮らせていて良かった。


 ナザンヴィアの国境では知らせを受けたらしく、咎められることなく無事通ることが出来た。

 国境のナザンヴィア兵は剣を掲げ、敬意を表し見送ってくれた。


 ドラヴァルア側の国境でも皆が手を振ってくれていた。


 あぁ、皆が無事で本当に良かった……。

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