第百三十八話 竜か竜人か
「竜に戻れるか? 竜に戻ることが出来て、竜人化試験は完了だ」
ログウェルさんがヒューイに向かって言った。
ヒューイは首をゴキゴキと動かし立ち上がった。そして自分の掌を見詰め、にぎにぎと感触を確かめるように自身の身体を確認していく。
身体を動かし伸ばす。顔を触り、髪を触り確認する。そしてフッと笑い、強気な瞳でログウェルさんを見た。
「あったり前だ!!」
そう声高らかに宣言したヒューイは俺に視線を移すとニッと笑い、そして真剣な表情へと変わり集中する。
ヒューイの身体がぼやけたように見えた。
風? ヒューイから感じる。竜気? 気配の風。ヒューイの身体が光り輝くように煌めいたかと思うと、身体が溶けるかのように竜へと変貌を遂げる。
ヒューイを包んでいた布が風に煽られ舞い落ちる。
一瞬のうちにヒューイは竜の姿へと戻っていた。
「凄い……」
俺だけでなくアンニーナたちやヴィリーたちも感嘆の声を上げる。
「竜の人間化や竜化は初めて見たが凄いもんだな」
ヴィリーはずっと何も言わず見守ってくれていたが、初めて目にした竜人化に感動しているようだった。ロドルガさんも食い入るようにヒューイを見ている。
「よし、これで全ての竜人化試験は完了だ! ヒューイ、お前ももう一人前だな」
そう言ってログウェルさんはヒューイの腕になにかを装着した。
「なんですか、それ」
「これか? これは竜人化したときに自動的に服が装着される魔導具だ」
ブレスレットのような金属製のようなものをヒューイの腕に装着。
「身体の大きさに合わせ伸縮し、竜人のときには服を装着、竜に戻ったときはまた魔導具のなかに魔力として戻る仕組みになっている」
「え、凄っ」
アンニーナが驚きの声を上げた。
そういえば確かに竜人であるログウェルさんやヤグワル団長も手首に同じような魔導具らしきものを装着している。
「俺たちはもうほとんど竜に戻ることはないから必要ないんだがな」
ヤグワル団長が笑いながらそう言った。
確かにヤグワル団長やログウェルさんが竜化したところなんて見たことないしな。
「竜化や竜人化はそれなりに体力を消耗する。だからそんな頻繁に行うやつはいない。一度竜人を選ぶと、もうほぼ竜人のまま、逆に竜に戻るやつは竜騎士と相棒になり、そのままずっと竜のまま、というやつがほとんどだな」
「なるほど」
「ヒューイはどっちを選ぶ?」
ヤグワル団長はヒューイに向かって聞いた。
皆がヒューイを見る。
『俺は……リュシュの相棒だ。竜とか竜人とか関係ねー。竜として必要なら竜になる。竜人として必要なら竜人になる。どちらかとか、体力消耗なんて関係ねーんだよ』
皆が唖然とした顔をしていた。
「ハッ!! アッハッハッハ!! さすがヒューイだな!! お前らしいよ。リュシュ、お前、愛されてんなぁ」
ヤグワル団長が爆笑しながら俺の背中をバシッと叩いた。ぐふっ。
あ、愛されてるって、ちょっと……。
『なんか文句あんのか!!』
ヒューイがキレた。
瞬時に竜人化したかと思うとヤグワル団長の胸ぐらを掴み凄んでいた。おいおい。
「ハハハ、褒めてんだよ。それだけお前らの絆が深いんだろう? まあでも体力消耗し過ぎて、いざと言うときに戦えないなら意味ないからな、気をつけろよ?」
ヤグワル団長はヒューイの手首を握ると、ヒューイが顔を歪めた。ミシッと音を立てそうな勢いで握り締められている。ヤグワル団長……怖っ。
フェイやアンニーナはそのやり取りよりもヒューイの服に興味津々のようだった。瞬時に竜人化したヒューイに見事に装着された服。本当に一瞬で服が出現するんだな。凄いな。
「とりあえず無事竜人化試験は終われたが、ナザンヴィアへの潜入をどうするか作戦を練らないとな」
ヤグワル団長がヒューイの手首を掴みながら俺たちに言った。ヒューイはなんとかヤグワル団長の手を振り払おうとしているのにびくともしていない……。
ナザンヴィアへの潜入……そうなんだよな、それをどうするか。
ヴィリーから隠し通路の話が出る。
「なるほどな……正面突破よりはそのほうが無難だな」
ふむ、とヤグワル団長は腕組みし考えを巡らせる。
「その方向で行くにしても、リュシュ、君、剣や魔法での戦闘訓練をしたほうが良いよ」
「ん?」
フェイが突然そう言葉にした。
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