最終章 唯一無二
第百三十三話 クフィアナの記憶
「クフィアナ様、なぜそんな
マクイニスは珍しくも、少し寂しそうな顔をした。それを見たビビも切なそうな顔。
「ち、違う! 違うんだ! マクイニスやビビがいてくれて、私は嬉しかったよ…………でも違うんだ……ルドは……私の命そのものだから…………」
同じ運命を背負った片割れ。自分と同じ。マクイニスたちには言えない……。
クフィアナは泣きそうな表情になり、そして過去を思い出す……遠い遠い昔を……。
「ルド!! ルド!!」
「すまない! 私を庇ったばかりにお前が!!」
『フィー……』
「すまない、君をここに置いていくことを許してくれ」
「いつか我々はまた巡り合う。必ず。それまでどうか安らかに眠れ……」
横たわるルドにクフィアナは加護を唱える。戦いが終わるまでルドの身体を守るように、そしてルドの魂を失わないように…………
転生。それは神の領域に近かった。
クフィアナは癒しに特化した魔力を持つ竜だった。それは聖なる力をも手に入れ、癒すだけではなく、結界や浄化を可能とした。
そして、造り出した人間たちすら知らなかった魔力……転生させる力。死んだ者を蘇らせる魔力はなかったが、その者の魂を転生させ新たな生へと導く力があった。
クフィアナはルドにその力を使った。自分のために……。自分がルドを失いたくなかったために、その力を使った。
巻き込んでしまったことへの罪悪感。安らかに眠って欲しいと思った。しかし、それと同時に独り残される辛さ、悲しさ、苦しさ……それらがクフィアナにその力を発動させた。
無意識のうちに発動してしまった。ルドは再びいつの日かこの世に生まれて来る。そう思った瞬間、激しい後悔と少しの嬉しさと……自分の愚かさに苛まれた。
クフィアナはルドの魂に封印を施した。
自らが行ってしまった転生。ルドは転生などしたくなかったかもしれない。二度と会いたくないかもしれない。
それが怖かった。
だからクフィアナはルドの魂に、二度と争いに巻き込まれないように封印を施した。
ルドの記憶と力を封じたのだ。
生まれ変わったら自由に生きて欲しい。
会いたい。
会えなくても良いから平和な場所で幸せに暮らして欲しい。
共に最期を迎えるまで二人で生きたい。
ルドが生まれ変わったら……次は共に死ねるように……クフィアナは封印と共に呪をかけた。
共に生きたい。
共に死にたい。
なんて愚かで勝手な願いだろう。
ルドはそれを望んでいないかもしれないのに。
唯一無二の存在だと思っているのは、自分だけかもしれないのに。
そんな気持ちがゆらゆらと行ったり来たり。クフィアナは自分の心が分からなくなった。
このままルドの後を追って死んでしまいたい!
そんなことすら思った。しかし、今はまだ…………死ねない。
ルドを巻き込んでおきながら、クフィアナの願いのためにルドの命を奪っておきながら、逃げるわけにはいかない。
決着をつけなければ……
クフィアナは剣を振りかざし走り出した。
『私にお乗りください!』
一匹の竜が走るクフィアナに向かって叫んだ。
クフィアナはその竜に飛び乗り、魔力で作り出した手綱を握る。
そして一気に空高く舞い上がると、竜たちがあの魔導具を壊そうと必死に攻撃をしているのが見えた。
しかしその魔導具から放たれる禍々しい黒い靄に纏わり付かれ、皆落下していく。
「!!」
命を吸い上げられている!!
ルドの命を奪ったあの魔導具は、さらに多くの命を奪おうとしている。
「あの魔導具の近くへ!!」
クフィアナが叫ぶと、竜は速度を上げた。
一気にあの魔導具の上空へとたどり着くと、生きる屍のような人間たちの姿。
魔導具に魅入られているような、怪しげな顔。
魔導具は自ら意識があるかのように、クフィアナを見付けると、黒い光を放った。
クフィアナは竜の背中に立ち上がり飛び降りた!
『なっ!?』
竜は驚いたが、クフィアナは勢い良く落下していき、剣を構えた。
「ウォォォオオオオオオ!!!!」
結界を身体に張り巡らせ、剣に魔力を溜める。全てを浄化する特別な力。
剣を魔導具の真上から突き刺す!!
反発する魔導具からのエネルギーが、クフィアナの浄化の力によって無効化されていく!
切っ先から浄化に触れた魔導具にピシッとヒビが入った。
そして落下の勢いのままに、魔導具へ刺し込んでいく。
ズブズブと根元まで剣を刺し込まれた魔導具は内側から激しい真っ白な光を放ち、パァァン!! と激しい音と共に粉々に砕け散った。
そして塵となった魔導具は太陽の光を浴びキラキラと煌めきながら、空へと消えた。
魔導具がなくなってからは、人間たちはあっという間に制圧され、捕らえられた。
クフィアナは竜たちから請われ、王として新たに国を作ることになった。
ドラヴァルア、竜たちの国。
人間たちの生き残りとは条約を結び、争いを無縁にするため同盟国となった。
ルドの身体はドラヴァルアのどこかに埋葬された。誰も知らない、クフィアナしか知らない場所にひっそりと…………。
「ルド…………」
独り佇み、呟いた言葉は空に消えた…………。
「クフィアナ様とルド様になにかしら事情があるのは感じています。しかし私たちも貴女のことを大切に思っていることは忘れないでいただきたい……王としてだけでなく、一人の仲間として……」
マクイニスは寂しげな表情でそう言葉にすると、ビビもマクイニスに寄り添い同じく頷いた。
「あぁ、分かっている……ありがとう……」
そう、分かっているんだ。皆が自分のことを大事に思ってくれているのは……クフィアナは自分の心に再び蓋をした……。
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