第百三十二話 共に生きる
「私も一緒に行きますよ」
ヴィリーが声を上げた。
「私の国の話ですからね。リュシュ一人で行かせるわけないでしょう。私とロドルガも共に行きます」
「私たちももちろん行くわよ!!」
アンニーナも声を張り上げる。
「フェイとネヴィルも当然行くでしょ!?」
「あったり前だろ! リュシュみたいに頼りないやつ、誰が一人で行かせるか!」
「ちょ、ちょっとどういう意味だよ」
「ハハ、リュシュ、皆、心配してるんだよ。僕たちも一緒に行く。仲間だろ?」
「フェイ……」
皆、ニッと笑い頷いた。
「皆……ありがと……」
俺にはもったいない仲間だよ。
「でもあの怪しい術の魔導具には近付かないで。絶対に。見付けたら教えるから、そのときは退避して欲しい。これだけは約束してくれ」
あの術に捕まったら恐らく助からない。術の発動前に破壊出来たら良いが、そうでないと近くにいる者の命を吸い取ってしまう。
皆にそんな危険を冒して欲しくない。
「リュシュ……」
「分かった、約束する」
真剣な顔で話したからか、皆、頷いてくれた。ただ一人……クフィアナ様はやはり不安そうな顔をしていた。
「リュシュ…………私も共に行きたい…………」
「フフ、駄目ですよ。貴女は女王じゃないですか。貴女が動くわけにはいかない」
「そんなことは!! …………そんなことは分かっているんだ…………でも…………やはり心配だ…………私は二度と失いたくないんだ」
分かるよ。クフィアナ様の気持ちは痛いほど分かる。おそらく逆の立場なら俺もきっと不安だったはずだから。
きっと以前の俺なら……なんの力もない俺だったなら……こんなとき皆を見送るしか出来なかったはずだ。
だから……クフィアナ様の気持ちは分かるんだ。でも……今回はクフィアナ様が出るわけにはいかない。
「大丈夫だから……俺は絶対死なないから。信じてよ、フィー」
そう言葉にし、クフィアナ様をギュッと抱き締めた。
これが《俺の気持ち》なのか《ルドの気持ち》なのかは分からない。でも……記憶が蘇る前から俺にとって白竜は特別だった。あのとき出逢ったクフィアナ様は特別だった。記憶が蘇ってからはさらに特別になっただけだ。
俺はクフィアナ様が好きだ。
家族としてなのか、女性としてなのか、尊敬する存在としてなのか、憧れの存在なのか…………それは分からないが、そんなことはどうでも良かった。
ただ、俺はクフィアナ様が好きなんだ。
クフィアナ様を泣かせたくないんだ。守りたいんだ。これからも……これからもずっと共に生きて行きたいんだ!
「無事に帰って来たら、ちゃんと伝えるから待っててよ」
誰にも聞こえないくらいの小さな声で、クフィアナ様の耳元で囁いた。抱き締めていたその身体はビクッと反応し、小さく俺の名を呼んだのが身体越しに伝わった。
クフィアナ様の手は俺の背中をギュッと掴み、力強く抱き締めたかと思うと、そっと緩み俺から身体を離した。
クフィアナ様は俺の服を掴み、俺を真っ直ぐに見詰める。
「絶対に死ぬな。私はルドが死んだときに力や記憶を封印しただけではないんだ……」
「え?」
「ルドの力を封印したと同時に
「!!」
皆が驚きの顔をした。
「もう一人で生きていくのは嫌だった……君と共に人生を終えたい。だから……君が死んだら私も死ぬのだ……だから絶対に死ぬな!」
「今度こそ……私と共に生きてくれ……」
「フィー……」
酷く切なくなった。
どれだけの長い間、この人は孤独だったのか。
周りに多くの仲間がいても、ずっと孤独だったのか……。
本当の自分をずっと隠して、多くの竜を犠牲にして造られた竜だということに罪悪感を感じ、独り生きて来た。
なんて悲しい…………そして、なんて愛しいんだろう…………。
「リュシュ……待っている…………無事に帰って来い……必ず……」
「うん、必ず」
そう言葉を交わし、俺たちは謁見の間を後にした。
俺は生きて帰るよ。
フィー…………絶対に……。
**************
第四章 これにて完結です。
次話から最終章に入ります!
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