第百三十一話 決意

 俺はその場にいる全員に自分がナザンヴィアで隠れ潜んでいたことを話した。そのときどうしても皆、キーアのことを思い出し、部屋の空気は重くなった。


 ヴィリーたちですらキーアと俺にそんなことがあったのか、と悲痛な顔をした。


 今でもキーアを思い出すと辛い。しかし、今はとにかくナザンヴィアの状況を話さなければとそのまま話を続けた。

 ナザンヴィアの田舎村にですらドラヴァルアに攻め入るのでは、と噂が流れていること、王都へ行って城を間近で見たときの異様な気配や王都の様子、それに……森が死にかけていること、精霊たちがいなくなっていること……。


「精霊!?」


 皆が驚きの声を上げた。


「精霊が見えるのか!?」


 ヴィリーが驚いた顔で聞いた。


「うん」


 なぜ見えるのかは精霊に説明された通りに説明してみたが、皆不思議そうだった。まあそうだよな。俺自身もいまだによく分かっていない。

 しかし俺の前世が《ルド》だったということが、皆の中で納得済みだったため、さらに人間の前世の記憶があると言っても、まあそんなこともあるかもな、くらいで納得出来たようだ。


「精霊が見えて、しかも精霊の力も使えるとか凄いな……それで精霊たちが教えてくれたと……」

「うん」


 フェイも腕組みをしながら考えを巡らせている。



「本格的にまずい状況になってきたかもしれないな……」


 ヴィリーも腕組みをし、眉間に皺を寄せる。皆がどうしたら、と考え込む。

 俺は…………



「俺がその魔石を破壊しに行きます」



「!?」



 その場にいた全員が驚愕の顔で俺を見た。


 俺は最初からそのつもりだった。キーアを犠牲にして手に入れた力はきっとこのためだったのだ、とそう思い込もうとした。

 ルドの記憶を取り戻してもそれは変わらない。ルドの記憶のおかげでクフィアナ様に対する気持ちは特別なものとなった。しかしそれだけではない。

 俺にとっては今まで出会った人全てが大事だ。家族だけでもない。クフィアナ様だけでもない。全ての人が大事なんだ。


 ルド、ごめん。俺はクフィアナ様だけを守りたいんじゃない。皆を守りたいんだよ。そのために力を貸して欲しい。


「俺はルドの力が蘇った。きっとこれは運命なんだよ。五百年前のあのときと同じ術が使われようとしている。俺はそれが許せない。あの術は…………絶対使っちゃダメなんだ!!」


 あの術を受けた俺だけが知っている、俺だけしか知らない、術の真実。あんなものをこの世に残してはいけない!!



「俺があの魔石を破壊する!!」



「そんなことを許せるわけがない!!!!」



 クフィアナ様が激しく怒りをぶつけた。



「リュシュがそんなことをする必要はない!!!! これは国の問題だ!!!! ナザンヴィアが再びあの術を使うならば、こちらが先に攻め入れば良い!!!!」


 いつも物静かだったクフィアナ様とも思えないほど、怒りのままに叫ぶ。


「クフィアナ様、冷静に。貴女が考えなしに侵攻を口にしてはなりません」


 マクイニスさんがクフィアナ様を諭すように言った。ビビさんはクフィアナ様の肩を抱く。


「そうですよ、クフィアナ様。貴女が侵攻したら国同士の全面戦争だ。そうなったら俺の村のカカニアも、ナザンヴィアで助けてくれた人たちの村も巻き込まれる…………そんなのは俺の勝手だけど……でも、そんなのは嫌だ!! 俺は俺の大事な人たちの苦しむ姿は見たくない!!」


「リュシュ……」


 クフィアナ様は泣きそうな顔になる。その顔を見ると胸が苦しくなる。そんな顔をさせたいわけではない。これは《ルドの気持ち》なのか《俺の気持ち》なのか…………。


 でも…………


「ルドがクフィアナ様を一番大事に思っていたように、俺はクフィアナ様も皆のことも全て守りたい。誰も苦しめたくない。だからクフィアナ様にも苦しんで欲しくはないけど…………俺はルド自身ではないから…………俺は……リュシュです……俺は、行きたいんだ!」


「!!」


 クフィアナ様はショックを受けたような顔をした。


 あぁ、こんな顔をさせたいわけではないのに…………ルド、ごめん…………俺はクフィアナ様を傷付けてしまう…………。

 でも、もう後には引けない。



「ごめん、クフィアナ様……ごめん……俺は……」


「謝らないでくれ…………君はリュシュだよ。ルドじゃない……。皆を想う気持ちは分かるから……私がずっとルドにそれを支えてもらっていたんだ……今度は私がリュシュを支える番だな……」


 フッと笑ったクフィアナ様の目からは涙が落ちた…………。

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