第百三十話 再会
「いつ出ようかとタイミングを見計らっていたら、なんだか大事になっていて、すっかりと出るタイミングを見失いましたよ」
そう言いながら出て来た男は銀髪に青い瞳の青年とその後ろには灰色の髪と瞳の屈強な中年の男…………ん?
「ナザンヴィアの話があるらしいと隣で待機させていただいていたら、まさかの展開で驚きました」
「ナザンヴィアの第二王子ラヴィリーグ殿だ」
クフィアナ様が現れた男を紹介した。
ナザンヴィアの第二王子…………見覚えが? いや、勘違いか? いやいや、でも後ろの男…………もしかして…………
「ナザンヴィアの第二王子なんかがなぜこんなところに!?」
ネヴィルが声を上げた。
確かに今まさにナザンヴィアの怪しい術の報告をしようとしているときに、なぜナザンヴィアの人間がいるのだ。
他の皆も警戒態勢に入る。しかしクフィアナ様もマクイニスさんも落ち着いた顔だ。
「ラヴィリーグ殿は現在、ナザンヴィアの第一王子と敵対関係にあるそうです。我が国に何年も前からその事情を説明しにやって来ては関係の悪化を報告いただいておりました。そして現在は第一王子に命を狙われていることを理由に我が国に助けを求め、城で匿っておりました」
マクイニスさんが淡々と説明をする。本当は関わりたくないのだが、という心の声が聞こえそうな雰囲気だが……。
「自由に出歩かれて、国民が巻き込まれても困るからな。城で監視ありきで匿うことになったのだ」
クフィアナ様が付け足す。
「感謝致しております」
恭しく頭を下げた男をマクイニスさんは嫌そうに見詰めていた。
そして頭を上げた男と目が合うと、その男はニッと笑った。
「久しぶりだな、リュシュ。まさか君がドラヴァルアの英雄だったなんて」
「え?」
久しぶり…………ということは、やはり会ったことがある奴…………。
「どういうことだ!? 会ったことがあるのか!?」
俺よりもクフィアナ様が驚いた顔になり、俺を庇うように男との間に立った。
クフィアナ様の肩を掴み、そっと横に避けさせる。
「フフ、クフィアナ様、俺を庇わないでよ。俺は弱っちいけど、俺がクフィアナ様を守りたいんだ。ルドは最期まで貴女を守りたがっていた。俺も守られるより守りたい」
「リュシュ……」
クフィアナ様は嬉しそうな、しかし不安そうな、複雑なのだろうという表情が見て取れた。それが少しおかしくてクスッと笑った。
「大丈夫だから」
不安そうなクフィアナ様の前に出て男と対面する。
銀髪に青い瞳…………、明らかに髪や瞳の色が違う…………、でも後ろの男は…………記憶を探ると一致する人物。後ろの男がその人ならば、その前に立つこの青年は…………。
「ヴィリーとガルドさん?」
「え!?」
この中でアンニーナだけが驚きの声を上げた。
「ハハ、そうだよ、久しぶり、リュシュ」
そう言うと、ヴィリーはなにやら魔導具を取り出し、ギュッと握り締めると、ヴィリーの身体が淡く光り出し、キラキラと煌めいたかと思うと髪色と瞳の色が茶色になった。
「えぇ!? ヴィリーにガルドさん!?」
アンニーナが信じられないといった顔。
「アンニーナも久しぶり。あのときは名を偽っていてごめんよ。私はナザンヴィアの第二王子ラヴィリーグ、ガルドは本当の名はロドルガと言う。私の専属護衛なんだ」
ヴィリーは再び髪色を戻した。
「あのときはクフィアナ様に会いに来ていたんだ。極秘で来ていたため、髪色も名も変えていた」
「そうだったんだ……えっと、じゃあラヴィリーグ殿下? とか呼んだほうが良いのか?」
「ハハ、良いよ。リュシュたちに会ったときはただのヴィリーだ。これからもそう呼んでくれよ」
「う、うん」
良いのかなぁ、と俺とアンニーナは苦笑したが、周りの皆は訳が分からず唖然としていた。
「すまん、話が見えんのだが、リュシュはこのナザンヴィアの王子と知り合いだったのか?」
ログウェルさんが頭を掻きながら聞いた。フェイとネヴィルも同じような表情だ。
クフィアナ様は終始、不安そうな顔だし、マクイニスさんは不愉快そうだし、ビビさんはクフィアナ様に寄り添っていた。
「え、あぁ、すみません。そうですね、知り合いというか、王都まで一緒に旅をした仲間みたいなもんですね」
思い返せばあのとき王都への旅立ち、初めてカカニアを出て不安や希望があるなか、ガルドさんに言われた言葉に救われたのだ。
そしてキーアとも出会ったときのきっかけとなった二人……。グッとこみ上げるものがある。今は駄目だ。今は……。
「カカニアを出てすぐに出会って、王都まで一緒に来たんです。俺の大事な仲間です」
「リュシュ……」
ヴィリーと目が合うとお互いニッと笑い合った。アンニーナもフフッと笑う。
「ディアンにも会わせてあげたかったわね」
「ハハ、確かに」
「まさか皆とまた会えるとは思ってなかったから嬉しいよ」
「再会を喜ばれるのは良いですが、それよりも本題をお願いしますよ」
懐かしく話していると、マクイニスさんが痺れを切らし、不機嫌そうに言った。
そうだった! ナザンヴィアの話をしに来たんだよ!
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