第百三十四話 進軍

 謁見の間を出た俺たちはとりあえず演習場へと戻り、作戦を練ることにした。

 歩きながらヴィリーとも話す。


「まずどうやって城に入るかだが…………」

「うん」

「城にはいくつか隠し通路がある。私とロドルガなら案内出来る」


「「「「隠し通路!!」」」」


「あぁ、本来王族の脱出用だが、今回は逆から潜入するのに使えるだろう。しかし……」


「しかし?」


「私が城から逃げ出したことによって塞がれている可能性もある……」


「あ……」


 そうか、ヴィリーは命を狙われて城を抜け出したって言ってたよな、ということはその逃走経路と思われる場所は潰されている可能性があるわけだ。


「となると、正面突破するっきゃないな!」


 ネヴィルが拳を突き上げ叫んだ。


「いやいや、そんな無謀な」


 フェイが呆れたようにネヴィルの肩を掴んだ。


「なんでだよ、それしかねーじゃん」


「まあ無謀だな」


 今まで黙っていたガルドさん改め、ロドルガさんがボソッと呟いた。


 皆が一斉にロドルガさんを見た。ロドルガさんは相変わらず無表情だが真っ直ぐに前を見据え、ゆっくりと話す。


「ナザンヴィアは五百年前、ドラゴンたちに敗れた後、あの場所で造られた城だが、何年かに一度くらいのペースで改築を続けている。継ぎはぎだらけの城だが、そのせいで複雑に入り組んでいる。正面突破をしたところで、例の術を行っている部屋には到底たどり着けない」


「そうなんだ、あの城は住んでいた私ですら知らない部屋などがたくさんあった。例の術の部屋ですら、おそらくここではないか、という場所しか分からない」


「えぇえ!! じゃあどうすんだよ!!」


 ネヴィルがお手上げ状態で聞く。


「とにかく隠し通路を探してみるしかないんじゃないかな」


 フェイが顎に手をやり考えながら言う。


「そうよね、正面突破よりは遥かに可能性はありそうだし」


 アンニーナも苦笑しながら頷いた。


「でもそれで隠し通路が全滅だったらどうすんだよ!」


 ネヴィルも引かないな。でもまあ確かにそうなんだよな。万が一全滅だとどこから入るか……。精霊たちはあの城には近付けないから力も借りられないし……。




 そんなことをあれやこれやと意見を出し合いながら演習場まで戻って来るとヤグワル団長が待ち構えていた。


「お前たちナザンヴィアに行くんだって?」


「え、早っ! なんでもう知ってんですか!?」


 ネヴィルが声を上げる。確かにさっき話したばかりなのにやたら早いな。


「まあ俺はお前らの上司だしな。部下がどこかに遠征するなら俺を通してもらわないとならんからな」


 そう言いながらハハと笑うヤグワル団長。どうやらマクイニスさんが早々に使いを出していたようだ。


「それから…………おそらくお前らを待つ間に、俺たちも進軍、カカニア側で待機になるだろう……」


「!!」


 ヤグワル団長は眉間に皺を寄せながら言葉にした。


「進軍……」


「念の為だ。なにやら厄介な魔導具の破壊に行くんだろ? それを上手く壊せたとしても、その後それを壊されたナザンヴィアが黙っているとも思えんしな」


「確かに……」


 ネヴィルが呟く。フェイやアンニーナも顔をしかめる。ヴィリーとロドルガさんは……


「おそらく何か動きがあることは確実でしょうね……」


 そう言ったヴィリーの言葉に反応するようにヤグワル団長が二人を見た。


「あんたたちがナザンヴィアの人間か。あんたたちには悪いが……そうなったら徹底的に叩かせてもらう」


 睨むようにヤグワル団長は言葉にするが、ヴィリーは小さく溜め息を吐き頷いた。


「ドラヴァルアの方々からすれば当然の対応です。私には口を出す権利はない……しかし、どうか関係のない国民だけは……」


 悲痛な顔だ。当たり前だよな。何も知らない人間だっている。俺を助けてくれたノグルさんとナティだって何も知らない。本当に善良な人たちだった。関係のない人たちが巻き込まれるのだけは嫌だ。


「絶対に巻き込みたくない……関係のない人たちは巻き込みたくないよ」

「リュシュ……」


「俺だって巻き込みたくはないがな、ただ巻き込みたくなくても、どうやっても避けられない場合もある…………それが国同士の戦いだ……」


「…………」


 皆、沈黙してしまった。


 どうやっても避けられないこともある…………仕方がないことだ…………分かってる。それが事実だ。でも俺は……綺麗事かもしれないが……そんなのは嫌なんだ。出来る限り事を小さく収めたい。


 そのためにもどうにか見付からずに潜入し、あの魔導具を破壊しないと……。



 そう考えを巡らせていると、激しい風が舞い、目の前に一匹の竜が舞い降りて来た。



「ヒューイ……」

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