第百二十七話 ルドの記憶 その五

「空だ…………ルド……空だ…………」


『あぁ』



 初めて見る大空。


 初めて感じる風。


 初めて見る太陽の光。




 これが外の世界……。





「捕まえろ!! 逃がすな!!」


 人間たちの怒声が響き渡る。



『フィー!!』



 叫んだと同時に大きく翼を広げ舞い上がった。


 あぁ、風が気持ちいい。

 建物内の澱んだ空気と全く違う。澄んだ空気。


 このままクフィアナと一緒にどこまでも飛んで行きたい……。


 そう思った。



『戦いましょう!!』



 振り向くと背後には多くの竜たちがいた。



『我々は貴女方に従う!』



 クフィアナは俺の背を撫でた。少しだけ振り向き目を合わせる。



「戦おう!!」


『………………』



 仕方ないな……お前のために戦ってやるさ!




 竜たちは一斉に攻撃を仕掛けた。


 眼下に広がる人間たちの建物。俺たちが生まれた場所。俺たちが苦しみ憎しみを生んだ場所。


 全ての悪が詰まったようなこの場所を、俺は………………破壊する!!




『グォォォォオオオオオオオ!!!!』




 全ての魔力を混ぜ合わせた俺だけの魔法。


 《黒魔法》




 激しく噴き出した魔力は漆黒の炎。いや、炎のような、流れる水のような、迸る雷のような…………。


 漆黒の炎は俺たちが生まれた建物全てを飲み込み、真っ黒に燃え上がる。


 人間たちは逃げ惑い、魔法を放つが空高く舞い上がる竜たちには届かない。


 竜たちは人間を屠って行く。




『危ない!!』




 叫ぶ声が聞こえた。その声の方へ視線を向けると大砲の弾とやらが飛んで来る!

 避けようとした瞬間その弾が爆発!


『「!!」』


 クフィアナは咄嗟に結界を張る! 虹色に光る結界が俺たちの前に大きく広がった。

 虹色の膜は俺たちの目の前で爆発の衝撃に耐えた。虹色が少し揺らいだように見えたが、その結界に傷一つなく、爆発が収まると静かに消えた。


 弾が飛んで来た方角を見ると、巨大な建物が見えた。俺たちがいた建物よりも圧倒的に大きい。そこには大勢の人間の姿が見える。


 再び同じ弾が爆発音とともに何発も撃ち込まれて行く。竜たちはそれらを大きく旋回し、避けて行く。


 目の前まで届いてしまった弾に一匹の竜が咄嗟に炎を噴き出した。すると弾は瞬時に爆発し、炎を噴き出した竜を吹き飛ばした。


「!!」


 それを見たクフィアナは叫ぶ。


「その弾を爆発させるな!! 凍らせ落下させる以外は避けろ!!」


 なるほど、氷か!


 激しい吹雪を噴き出し、無数に飛んで来る弾を次々に凍らせていく。凍った弾はその場で落下し、落下した衝撃でその場で爆発。


 そうやって人間たちがいる場所へと進んで行く。眼下には巨大な建物。人間たちは恐怖の顔の者、戦おうと大砲の準備をする者、逃げ惑う者、剣を構える者、弓を構える者……様々だった。


 石礫が飛んで来る。火矢が飛んで来る。それらを躱しつつ、炎や吹雪で攻撃をする。竜たちは人間たちの間をすり抜け飛び回り、武器や兵器を破壊していく。


 クフィアナは人間が持っていた剣を掴み取り、俺が防ぎきれなかった火矢を切り落としていく。


 炎を噴き出し風で煽ると、炎は竜巻となり人間たちは恐怖の顔で逃げ惑った。散り散りになった人間たちの残した兵器を破壊していく。



「ルド! まだいけるか!?」

『誰に言ってやがる!』

「ハハ、頼もしいな」


 大きく息を吸い込み、再び激しい漆黒の炎を噴き出す!!




『グォォォォオオオオオオオ!!!!』




 先程よりもさらに激しい漆黒の炎。巨大な建物を覆い尽くしてやる!!


 上空を飛び回りながら漆黒の炎を噴き出していく。建物は崩れ、人間たちは逃げ惑う。


 そのときぞくりと何かを感じた。


 一斉に放たれた石礫や火矢、そして大砲の弾。最期の力を全て放出するような一斉攻撃。竜たちは思わずその場を離れる。上空高く舞い上がり、攻撃が届かないところまで離れた。


 人間たちはそれを見計らったかのようになにやら不気味な気配を感じるものを出してきたのだった。

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