第百二十六話 ルドの記憶 その四

 目が覚めると再び竜の姿に戻っていた。部屋には人間たちはいない。


 夢? そう思ったが、明らかに以前とは違う部屋。隣に眠るクフィアナに安堵の溜め息が漏れる。


『フィー……大丈夫か?』


 そっと呟くように声を掛けた。


『ルド……君こそ大丈夫か?』


 クフィアナはゆっくりと頭を上げ、心配そうに顔を檻に近付けた。


『俺は大丈夫だ。なぜまた竜に戻っているんだ』


『人間化を成功させたあと、再び違う術をかけていた。それで戻ったのだが、次は自分の意思で人間化と竜化をさせる実験だ、とか叫んでいた……』


『くそっ! アイツら!!』


『………………ルド』


 クフィアナは考えを纏めるかのように、ゆっくりと話した。



『ここから逃げよう、そして戦おう』


『…………本気か?』


『あぁ、本気だ。人間たちと戦い、そして竜たちを助けたい』


『………………』


『ルド、私を助けてくれないか?』



 クフィアナは真っ直ぐこちらを見詰めた。


 銀色の綺麗な瞳。薄暗い部屋のなかですらキラキラと煌めいている。


 もう迷いはない強い瞳だ。



『当たり前だろ! 自分の信じる道を行け、俺が守ってやる、って言っただろ? 俺は正直、お前以外はどうでも良い。他の竜なんて興味ない…………でも』


『ルド……』


『でも竜たちがこのままだとずっとお前は苦しむだろ? だから俺はお前のために、他の奴らも助ける、それだけだ』


『ルド、ありがとう』




 それから俺たちはこの檻から抜け出すための作戦を練った。



 何度も繰り返される人間化と竜化。


 次第に身体が慣れて来たからか、初日ほどの激痛苦痛はなくなってきた。


 しかし苦しむフリをした。


 人間化と竜化をしている最中は、檻の術が解かれているのだ。檻の術と人間化の術、どうやら両方の術が干渉し合い上手く発動しないようだ。

 そのためそのときならば、檻から抜け出すことも可能なはず!




 クフィアナと目で合図を送り、竜化が完了したと同時に扉へ向かって魔法を放った!!


 激しい炎風を巻き起こし、人間たちを薙ぎ倒す。

 クフィアナの檻の扉も風圧で開き、そのまま扉は引き千切られる。


『行け!!』


 クフィアナに向かって叫び、クフィアナは飛び出した!!


 人間たちは炎に飲まれ苦しんでいる。しかし、そんな状態ですら、叫び声を上げながらあとを追おうとする。



 すでに大人竜となっていた俺たちは、翼を広げると人間たちの建物などには収まらない。


 部屋を扉ごと破壊し飛び出すと、廊下を破壊しながら飛んだ。


『二体で飛ぶと狭い!! フィー! 人間化して俺の背に乗れ!!』


 クフィアナは驚いたようだ。


『人間化!? 私を背に乗せるのか!?』


『良いから、早く!!』


 納得していないようだが、無理矢理にでもクフィアナを乗せた。


 竜はプライドが高い、だから人を背に乗せるなんて! となるようだが、クフィアナは別だ。


 クフィアナならいくらでも乗せてやる!



 クフィアナを背に乗せ、激しく炎を吐きながら進む。

 あちこちの壁が瓦礫と化し、部屋の内部が明らかとなり呆然となった。


 多くの部屋にまだまだ竜たちが捕えられていたのだ。


 様々な実験器具らしきものが散乱し、竜たちは檻に入れられ鎖で繋がれていた。


「!! なんてことを!!」


 クフィアナは俺の背から飛び降りると、急いで竜たちの元に駆け寄った。


「今助けてやる!!」


 しかし人間の姿をしたクフィアナに、竜たちは怒りを向けた。


『フィーは人間じゃない!! お前たちと同じ竜だ!!』


 クフィアナに害なす者は竜だろうが容赦しない!!


 竜たちの目の前に雷撃を落とし牽制をする。


「ルド! 大丈夫だ!」


 クフィアナは俺に振り返り制止させようとする。


『なぜこいつらを庇う!! お前を攻撃しようとしたんだぞ!!』


「皆、それだけ辛い目にあったんだよ。ルドなら分かるだろう?」


 そう言って悲しそうな目で俺を撫でる。


 分かるさ、分かるに決まっている……だからこそ、助けようとしているクフィアナに攻撃をするやつは許せない。


「ルド、すまない、私のために許してやってくれ」


『………………お前はズルい』


「フッ、ありがとう、ルド」


 俺が許さないわけがないと分かって言っているのだ。クフィアナのためだと言われたら逆らえないのが分かっているのだ。


 それだけ俺にはクフィアナが特別だったから……。




『あんたたちは何者だ!? なぜ竜と人間が一緒に行動する!? しかもなぜその人間は竜の言葉を話せるんだ!!』


「私たちも逃げて来たのだ。私は人間たちに無理矢理人間化させられた」


『人間化!?』


「あぁ」


『ちんたら話してる暇はないぞ!!』


 俺はクフィアナが話している間に竜たちの檻を壊して回った。


「ルド!」


 クフィアナは再び俺の背中に飛び乗ると、竜たちに向かって叫んだ。


「君たちは自由だ! 私たちは他の竜も助けたい! 逃げたい者は逃げてくれて構わない! 手伝ってくれる者は私たちに続け!」


『人間たちが来る! 急げ!』


 戸惑っていた竜たちは人間への怒りを糧にし、他の竜を次々に救い出して行った。


 俺とクフィアナは人間たちの追手を蹴散らして行く。


「外だ!!」


 多くの竜たちを解放し、暴れまくった建物は天井が崩れ落ち、視界が青色に染まった。


 これが空か…………果てしなく広い大空か…………初めて見ることが出来た…………。

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