第百二十五話 ルドの記憶 その三
それ以来様々な話をするようになった。
俺たちは全く同じように育てられ、同じ子供竜たちの力を注がれていた。
しかし俺たちは白と黒の色のように、全く違う性格となった。
クフィアナは竜たちを助けたい、そう考えるようになっていた。
どうにかしてここを抜け出し、人間たちから竜を解放したいと考えていた。
俺はクフィアナ以外、どうでも良かった。他者に全く興味が湧かなかった。クフィアナさえ生きていればそれで良かった。それだけ俺にはクフィアナが特別だった。
クフィアナも俺のことだけを考えていたら良いのに、と思ったことは何度もある。
クフィアナが心を痛める度にそう思った。
でも……それがクフィアナだから……。
他者を思いやるのがクフィアナだから……。
それで良い……他者に心を砕くクフィアナを俺が守るのだ。
そう思った。
しかし、俺にはまだ力がない、ということが嫌というほど分かった。
ある日クフィアナは硝子の檻から出され人間たちに連れて行かれた。
『待て!! どこへ連れて行く!! フィー!!』
何も出来なかった!
止めることすら出来なかった!
俺は!
『くそっ!!』
悔しくて仕方がない! なぜ俺には力がない!
力が欲しい……クフィアナを守れる力が欲しい……。
クフィアナが連れて行かれて、しばらくすると再び人間たちが戻って来た。
クフィアナがいない!
『お前ら! フィーをどこにやった!!』
叫ぶが言葉は通じない。縛られたかと思うと、俺も別の部屋へと運ばれた。
初めてあの部屋から出た。
初めてみる外の世界……と言っても、薄暗い廊下を人間に運ばれているだけ。最初の部屋となんら変わらない。
たどり着いた部屋ですら、ほぼ同じ部屋だった。
唯一違うもの……それは目の前に硝子ではない檻が現れたことだ。
鉄格子のような、しかし扉であろうところには何やら魔法陣のようなものが描かれている。
そしてその檻のなかには真っ白の髪の人間が倒れていた。
裸体のまま倒れ、白い肌が薄暗い部屋に浮かび上がる。
『フィー!?』
ガシャンと音を立て、人間を振り切ろうと暴れたが、縛られた鎖から何やら怪しい気配を感じると、電撃が走ったかのように身体がビクンと跳ね痺れた。
『くっ』
痺れた身体のまま隣の檻に入れられ、鎖を外される。
鎖が外された瞬間に暴れてみせるが、やはり何やら術を掛けられているのか、檻のなかでは力が抜ける……。
『フィー!! フィー!! なぜ人間に!?』
クフィアナは呻き声を上げながら顔を少しだけ上げた。
『ルド……気をつけ……』
乱れた髪が表情を隠すが、酷く消耗しているのだけは分かった。
奴らは一体なにをしたのだ!!
怒りしかなかった。
『グアッ!!!!』
喰い殺してやりたい!そう思った矢先、激しい身体の痛みに身動きが取れなくなった。
倒れ込んだ床には何やら光る魔法陣が見える。
『グワァァァァアアアア!!!!』
身体が引き千切られそうなほどの痛み!
なんだこれは!
激しい痛みに耐えきれず、床に身体を打ち付ける!
暴れ回るが一向に痛みは治まらない!
身体が千切れる!!!!
そう思った瞬間、自分の手が、脚が、頭が、身体が!!
『グァァァァアアアアア!!!!』
ジュウジュウと音を立てながら、気付けば俺の身体は人間の身体へと変化していた。
ゼーゼーと激しく呼吸を繰り返し、脂汗を滴らせ、倒れ込んだまま顔を触った。
牙もない口、鱗もない肌、顔に垂れる髪で自分の髪色は漆黒なのだと分かる。
掌を見詰めても人間の手。
「ハハハ!! 成功だぞ! 二体とも人間化した!!」
喜ぶ人間たちの声が頭にうるさく響く。
クフィアナ……無事か?
お前はこんな目に遭っていたのだな。
お前を守ると誓ったのに……情けない!!
不甲斐ない自分に腹が立ち、こいつらは絶対許さない!!
そう誓った。
必ずクフィアナを守り、こいつらを喰い殺してやる!!
命をかけて誓う!!
そう心に刻み意識を手放した……。
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