第百二十四話 ルドの記憶 その二
人間たちは怪しげな術を使い、竜を支配していた。力のある竜はほとんど殺され、残った竜は弱い者や子供竜たちだけだった。
そして次第に人間たちは自分たちの思い通りになる竜が出来ないものかと研究を始めた。
それが俺たちだった。
白い竜は癒しに特化した魔力を持ち、黒い竜は攻撃に特化した魔力を持たせた。
俺たちは竜が元々持つ力の強さ、魔力の強さを備え、さらにそれぞれに特化した魔力を持った竜として育てられていた。人間を守る剣と盾になるように。
しかし、人間たちの計画外だったのは、俺たちに自我が芽生えたことだろうか。
子供竜たちの記憶や知識までもが吸い上げられていることに気付かず、俺たちはそのまま大きくなっていった。
白い竜はだからこそ人間たちを憎み出した。竜を犠牲にして造り出された自分を呪っていた。
『私は生きる価値などない……』
いつもそう嘆いていた。どうしようも出来ない自分を憎んでいた。
俺はただそれを聞いていただけ……。
俺は…………こいつほど他の者に関心が向かない。なぜこいつはそれほどまでに見ず知らずの奴に心を砕くのだ。それが分からなかった。不思議だった。自分が生きることだけを考えていれば良いものを。
それからはこの白い竜のことがやたらと気になるようになった。
『なぜお前はそんなに嘆くのだ』
ある日、率直に疑問を投げかけてみた。白い竜は逆に不思議そうに俺を見る。
『逆に君はなぜ平気なんだ』
『おい、俺が聞いてるんだ。なんで質問に質問で返す』
『さあ、私には君の気持ちが分からなかったからかな。だから質問も意味が分からない』
『チッ』
そんな返しをされるとは思っていなかった。真面目そうなこいつなら、俺の質問にも丁寧に答えるのではないかと思っていた自分が馬鹿みたいだ。ついムッとしてしまう。
『フッ』
白い竜は少しだけ笑った。
『お、笑いやがったな?』
『笑ってない』
『いや、笑っただろ』
『笑ってない』
『頑固なやつだな』
そんなやり取りをしているのがなんだか可笑しくなり、俺も釣られて笑ってしまった。長い長い間、ずっとこの部屋に閉じ込められている俺たちが初めて笑い合った。
『なあ、いつまでもお前とか呼ぶのもどうかと思うんだが、名前…………はないよなぁ』
『名は……ないな…………人間たちには白と黒と呼ばれているしな』
『…………だよな』
『君が私の名を付けてくれないか?』
『俺が?』
『あぁ、そして私は君の名を付けても良いだろうか』
『…………あぁ』
『ルド…………』
『ん?』
白い竜は呟くように言った。
『ルドはどうだろうか? 竜たちの古い言葉で《癒す者》というようだ』
『癒す者って……それはお前じゃないのか?』
『私は何も癒せていない……竜たちを苦しめているだけだ……こんな力欲しくはなかった……』
『…………じゃあお前の名は《クフィアナ》だな』
『クフィアナ……それは……』
『あぁ、確か《強き者》だったか?』
『私は強くなどない……』
『強いよ、お前は』
白い竜は意味が分からないといった感じだった。
『強さとはなにも力の強さだけではないからな…………お前は強いよ』
他の者を思いやれる心がある。俺のように他者に興味がないやつより余程心が強い。
どうにか出来ないかと行動しようとする想いの強さがある。俺にはない強さだよ。
『ありがとう、ルド』
『クフィアナ、お前は自分の信じる道を行け。俺が守ってやる』
それからはお互いが特別な存在となった。
俺とクフィアナしか分からない、俺たちの秘密。
人間に造られたという事実。
そしてお互いが名を与え合うという行為によって生まれた特別な意識。
家族のような……
番のような……
仲間のような……
同志のような……
俺にとって唯一無二の片割れ…………クフィアナ…………俺が必ず守ってやる。
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