第四章《覚醒》編

第百十五話 ナザンヴィア城

 夜、寝静まるなか、俺はノグルさんとナティに別れを告げ村を出た。のどかな村だった。皆、優しい人たちだった。絶対死なせたくない。


 俺は、どうすべきだ。

 怪しい術……それをどうにかしたい。記憶が全て蘇ったわけではないけれど、前世の俺が死んだあの術ならば、あんなもの二度と使わせてはならない。それだけは分かる。


「なあ、その怪しい術を行おうとしている場所に案内してくれないか?」


 一度近くで確認出来ないかと思い、精霊たちに頼んでみた。


『えー、気持ち悪いの~』

『近付きたくないの~』


「そこをなんとか頼むよ」


 嫌がる精霊たちに無理を言い、そこまでの案内を頼んだ。


 怪しい術が行われているというナザンヴィアの城。そこまでは少し距離があるらしく、どうやって行こうかと考えていると、風の精霊が現れ俺の周りを飛んだ。


『ぼくが手伝ってあげる~』


 風の精霊が俺の頭の上に乗り、周りに風を起こす。すると身体が軽くなったような気がした。


『リュシュの風魔法と合わせたら、きっと飛ぶように早く走れるよ~』


「飛ぶように?」


 言われるがまま風魔法を発動させてみた。全ての属性魔法を一度は実験的に発動させたことはあるが、まだ完璧に使いこなしているわけではない。

 自身の周りに渦巻く風とどうやって俺の魔法を混ぜ合わせたらいいんだ。


『手からじゃないよ、身体全体からだよ』


「身体全体?」


 身体全体から魔力を放出するように……今まで掌に集中していた魔力を身体全体に巡らせる。精霊の力が混ざると魔力を感じにくい。これ、早く慣れるようにしないとな……。


 精霊の力と混ざり合った魔力を身体全体から放出!


 ブワッと一気に風が渦巻き、俺の身体が少し浮いたかのような気がした。


『そのまま走って!!』


「え!?」


 精霊に叫ばれ、驚いたが言われるがまま走り出した。


「!!」


 俺の身体はまるで重さを感じないかのような身軽さ、そしてとてつもない速度で走り抜けて行く。景色は流れ、木々や岩などの障害物が現れると咄嗟に飛び上がる。身体は上空まで持ち上がり、まるで空を飛んでいるのかというほどの跳躍となった。


「うおっ!!」


 思わずバランスを崩し、頭から落ちそうになるが、身を翻し着地。そしてそのまま走り続ける。


 なんだこれ、とんでもないな!


 走り続けるなかで内心自分の能力に驚きを隠せない。

 素直に喜ぶことはまだ出来ないが、それでもこれだけの能力を手に入れたんだ。なんとか使いこなして絶対みんなを守ってやる。俺はもう決めたんだから。


 精霊たちに案内されながら、とてつもない速度で走り続け、普通ならたどり着くまでに何日もかかるだろうという距離を一日で走り抜いてしまった。


 まさに風を切るように、風そのもののように走り抜け、素早過ぎる動きはおかげでほぼ人目に付くこともなく、ナザンヴィアの人間に見付かることもなかった。



 ナザンヴィアの城はドラヴァルアの要塞のような城とは全く違い、物語に出て来そうな城だった。周りは高い城壁で囲われ、城門も固く閉ざされている。ドラヴァルアの誰でも気軽に入ることが出来るような雰囲気は全くない。威圧感を感じ閉鎖的だ。


『気持ち悪いの~』

『このお城のなかから気持ち悪いの感じるの~』


「やはりこのなかなんだな」


 魔力を感じることが出来るからか、俺にも精霊たちの言う「気持ち悪い」という感覚が、ここに来て分かった。なにか得体の知れないものを感じるのだ。肌に纏わり付くような、そんな不快な気分。


「なんなんだ、一体……」


 城の周りを遠巻きに観察してみても、どこからも入り込める余地はなかった。どうしたものかと考えて再び精霊たちに頼んでみる。


「なあ、以前俺がナザンヴィアに入ったときのように姿を消してもらえないだろうか……」


『えー、無理だよ!』

『わたしたちはなかに入れないよ』

『ぼくたちが一緒じゃないとリュシュの姿を隠してはあげられない』


 やはり無理か……、以前ナザンヴィアに入ったときに、俺の姿を隠してくれた方法はどうやら消すというよりも、人間たちの目を錯覚させる、という方法だった。


 自然の力を持つ精霊たちが俺の身体を周りの景色と溶け込むように、見る者を錯覚させる力だった。だから傍に精霊たちがいないと意味がないのだ。



『いい加減にしろ』



 どうしたものかと悩んでいると、背後から低い声がし、驚き素早く振り向く。片手剣の柄を握り締め、身体を低くする。


 振り向き真後ろにいたその人物は夜の月明かりにすら煌めく長い銀髪に銀色の瞳、真っ白な長いローブのような服を着た男だった。男……だよな?背が高く低い声、確かに男だと思うのだが、顔だけを見るととてつもなく綺麗な整った顔で女性だと言っても違和感はない。


「誰だ!?」


 ナザンヴィアの人間に見付かったかとも思ったが、こんな夜に城の周りに突如、気配なく現れる不可思議な美しい男。この世のものと思えなかった。


『王さま~』

『王さまきた~』


 精霊たちは警戒するでもなく、その男に群がっていった。


「王様!?」

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